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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2022/12/01

紛争地イエメンでの取り組み(アクセプト・インターナショナル)


 ソマリアの大干ばつに際した寄付キャンペーンにて目標の3000万円を達成することができました。集まった資金を活用し、飢饉と暴力の連鎖を止めるべく活動に邁進してまいります。しかしながら、引き続き情勢は予断を許さないことや円安の影響を強く受けていることを踏まえ、4000万円のネクストゴールにも挑戦しています。今回は紛争地イエメンでの取り組みに関して大きく進展がありましたので、ご報告いたします。

【イエメン事業部】

 私たちは10年以上にわたって紛争が続くイエメンにて、主要な紛争当事者の一つとなっている武装勢力フーシ派から抜け出す若者を増やすとともに、その脱過激化と社会復帰のための取り組みを実施しています。現在、フーシ派は以下の図の青いエリア(首都サナア含む)を支配しており、オレンジの領域を支配している暫定政府との間で紛争が続いています。南西部に存在するオレンジの領域と青の領域の間にあるグレーゾーンに位置しているのが、私たちのプロジェクト実施地であるタイズ県です。フーシ派との前線も近く、紛争解決において極めて重要な場所の一つであることから、実施場所として選ばれています。

2022年4月〜6月のコントロールマップ(ACLED)

 タイズ県では現在までに、元フーシ派戦闘員の子ども・若者たち100を受け入れ、その全員がプログラムを修了して社会に復帰していきました。ソマリアでの取り組みと同様に、善き第三者として彼らの過去や思いを受け止め、主にケアカウンセリングや職業訓練、基礎教育や宗教再教育ゼミ、保護者への働きかけやフォローアップなどを実施することで、彼らが若者として生き直していくことを支えてきました。こうした実績をベースに、さらにニーズが高く支援から取り残されている対象者への取り組みを実施すべく、さまざまな交渉を1年以上にわたり続けてきました。その結果、タイズ県の中心地で、都市の北部をフーシ派に包囲された前線の一つであるタイズ市の中央刑務所にて、抑留されている147名のフーシ派戦闘員への取り組みを開始することが正式に決定しました。国際組織として本刑務所でフーシ派に関わることが許可されたのは初の事例となります。

 タイズ中央刑務所には、一般の受刑者も含めておよそ700名が収容されており、そのうちフーシ派の抑留者が多い刑務所の一つです。形式上は刑務所ではありますが、フーシ派の元戦闘員たちは刑期付きの受刑者としてではなく、抑留者、すなわち捕虜として捉えられている状況が続いています。彼らが収容される居房には窓も電気もなく、基本的に外に出ることを許されていないため、悪臭がするなど衛生環境は極めて劣悪です。そのような環境下ではむしろ不満や憎悪が深まる一方で、抑留者たちが脱過激化することは容易ではありません。加えて、彼らには刑期がないので収容に終わりがなく、奪還のためにフーシ派が攻撃してくるリスクにも繋がり、紛争がますます長期化してしまいます。そこで私たちは、彼らの脱過激化と解放を実現することが紛争解決の鍵になると考え、さまざまな交渉を経てプロジェクト実施についての合意を取り付けることができました。

 まずは新たな居房を3〜4つほど増築し、収容環境を改善することから始めていきます。並行して、フーシ派の抑留者に対しては、ケアカウンセリング、宗教再教育ゼミ、職業訓練(ソーラーパネルの設置と電源供給のスキル)を約10ヶ月間に渡って提供していくことで、彼らの脱過激化を促し、社会復帰に向けた準備をしていきます。

 私たちがソマリアで対象としているテロ組織アル・シャバーブと政府との間には直接の対話が成立していませんが、フーシ派に関しては、暫定政府との一時的な停戦合意が不定期で結ばれるなど、少なくとも対話の場を構築することができています。そこで、フーシ派の交渉担当者と8回以上にわたる直接対話の場を設け、抑留者の解放と、フーシ派に捕えられている政府側の捕虜の解放、およびその交換の枠組みを構築するべく、捕虜交換に関する調停委員会(13名)に唯一の外国人として代表の永井が正式にメンバー入りしました。抑留者がフーシ派の支配領域に戻らずに生きていけるよう働きかけていくことは今後の課題とはなりますが、本委員会を起点にして、イエメンにおける和平に向けた活動をさらに拡大していく所存です。

 まずは、フーシ派の元戦闘員の脱過激化と捕虜交換をタイズ市で実現し、その後は政府とフーシ派を含む複数の紛争当事者による国内対話の場や、全ての戦闘に関わっている若者が若者として戻れるようにするための場の構築などを目指していきます。また、抑留者への取り組みに加えて受け入れ社会側への取り組み(教育関係の支援など)を同時並行で実施することで、和解に向けた動きも進めていくことも目指します。

 ソマリアでの経験を活かし、イエメンにおいてもやるべきことを実現できる土壌が少しずつ整ってきました。今後とも温かなご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。