国際協力の現場から
国際協力の現場から2019/09/13ツイート
Nangoc:フィリピン・ミンダナオ島 バナナ労働者の声を聞く
2019年6月19日、アジア太平洋資料センターと名古屋NGOセンターとの主催で、フィリピン・ミンダナオ島の日系バナナ農園で働くバナナ労働者の報告会「今、バナナ生産現場で起こっていること」を開催しました。報告者はバナナ生産工程の一つである洗浄・梱包工場の労働組合の代表ポール・ジョン・ディゾンさんと組合員のジャミラ・セノさんの二人。
日本が輸入するバナナの大半はフィリピン・ミンダナオ島で生産されています。ドール、デルモンテ、チキータ、住友の四つの多国籍企業が、1950年代からミンダナオ島の肥沃な農地を取得して生産体制を築いてきました。フィリピンにおけるバナナの生産と輸出のシステムは四大多国籍企業によってほぼ独占されていると言っても過言ではありません。
二人が働いているのは日系企業スミフルの工場。スミフルのバナナは「甘塾王」の名で知られ、日本のバナナ販売ではシェアナンバーワンを占めています。ところが、このスミフルのバナナ農園や梱包工場で重大な人権侵害が行われていることを二人は報告しました。
ポールさんによると、労働者たちは短期雇用契約の労働者として長年にわたってスミフルで働いてきましたが、会社側は正規雇用契約を結ぼうとせず、19年間契約なしで働いている人や、5ヵ月間の短期雇用を繰り返している人がいるとのことです。会社側は請負だから正規契約ではないと主張しています。裁判に訴えた結果、最高裁はスミフルと労働者は直接の労使関係にあると認めましたが、会社側は法の規定に従おうとしないとのことです。
労働組合を結成して改善を要求していますが、会社は団体交渉権を認めず、さらには会社の意向を汲んだと思われる嫌がらせや脅迫を受けている組合員もおり、中には銃撃されて殺された人もいるとのことです。ポールさん自身も自宅に銃弾を撃ち込まれ、放火によって自宅が全焼する被害を受けました。
ジャミラさんは梱包工場の劣悪な労働条件や労働環境について報告しました。ジャミラさんは10年以上働いていますが短期雇用契約のため、いまだに非正規のままです。有給休暇や病気休暇、産休がなく、安心して働ける環境ではありません。薬品の害から健康を守るために必要なマスクや手袋等の防具も支給されず、健康を損なう人たちもいると訴えました。ジャミラさん自身も、軍が家に来て組合をやめろと脅され、母親や7歳の息子が嫌がらせを受けるなどの被害にあっているとのことです。
二人はこうした状況の改善を訴えるため、スミフルの親会社の株主である住友商事と、スミフルバナナを取り扱うイオンなどの流通小売り各社に面会を求めました。唯一イオンとの面会がかない、スミフルバナナを取り扱わないでほしいと要請しましたが、イオン側から返事はなかったそうです。
最後に二人は「日本の消費者の行動がスミフルに大きなプレッシャーを与えることができる。スミフルのバナナをボイコットしてほしい」と訴えました。
バナナ生産の現場で起こっていることについて、30年ほど前に、農薬の害や低賃金、劣悪な労働環境等の問題が指摘され、広範な消費者運動が盛り上がりました。その頃から指摘されていた問題は今に至るまで解決しておらず、多国籍企業が経営するバナナ農園では、労働者の犠牲のもとにバナナ生産が続けられていることを改めて認識する機会となった報告会でした。
名古屋NGOセンター政策提言委員 西井和裕