国際協力の現場から
国際協力の現場から2017/05/01ツイート
FRJ:難民へのケースマネジメント研修を行いました
3月17日、講師に社会福祉法人日本国際社会事業団より石川美絵子常務理事を招き、都内でNGOスタッフを対象に難民へのケースマネジメント研修を開きました。
日本に逃れた難民の方は、法的に不安定な状況を経験することになり、健康や言語、文化など、複数の問題を同時に抱えやすい状況にあります。そうした複合的なニーズを持つ人への支援パッケージについて、福祉分野では「ケースマネジメント」がとりわけ重要とされています。日本には、難民個々人それぞれに対して、社会福祉援助技術(ソーシャルワーク)によって支援を行う団体が、決して数は多くないですが、いくつかあります。ケースマネジメントは、こうしたソーシャルワークを実践する上での手法の1つです。
ケースマネジメントでは、フォーマルな社会資源やインフォーマルな社会資源を結びつけ、支援を調整・統合しながら、それらに継続性や一貫性をもたせます。ここでいう社会資源とは、問題解決するために活用される各種制度や、施設・機関・設備、資金、法律、人的資源などです。難民支援の分野では、難民申請者への公的な生活援助金や地域の役所、病院、弁護士などが社会資源の例として挙げられます。
ケースマネジメントを実施する上では、相談を受けてから、支援を終えるまでにサイクルがあり、インテーク⇨アセスメント(査定)⇨支援計画の作成⇨支援の実施⇨モニタリング⇨評価を繰り返し、最終的なケース支援のクローズに向かいます。インテークは、難民支援の場合は、電話相談や面談で行うことになります。そこでクライアントについての情報を収集し、クライアントが何を最も強く訴えているかを把握し、かつ表情や声色、容姿、言葉の使い方などから、その人のもつ背景や心の状態を観察します。怒っている人は早口であったり、うつ状態にある場合は声が消え入りそうであったりなどです。クライアントの訴えや様子から、精神疾患の可能性を疑うこともあります。その後、アセスメントによって解決すべき課題を明らかにし、個別支援計画をたて、支援を実施していきます。支援を実施して評価を行なった結果、計画を修正する必要がある場合は、再びモニタリングに戻ります。アセスメントでは、本人から表明されていないニーズについても検討する必要があります。
今回の研修はワークショップ形式で開かれました。サイクルの各ステップについて、どのような視点、手法や技術をもって進めていくのか、難民支援の中ではどこが特に留意点になるのか、議論しながら進められました。また、最後にケース例を用いて、グループワークも行われました。難民支援におけるケースマネジメントで担当者が直面する難しさには様々なものがありますが、例えば、その人のもつ宗教的・文化的規範の理解が難しい場合や、様々な要因により社会資源が乏しいこと、難民申請手続きの中で状況がかわり、支援が中断してしまうことなどがあります。実際のケースを想定しての議論でも、宗教的・文化的規範、家族状況や民族コミュニティでのクライアントの立場を踏まえながら支援を行う難しさが具体的に議論されました。
決して一筋縄にはいかないケースワークにおいて、時にはクライアントの怒りや悲しみなど、激しい感情と接さざるを得ないことがあります。研修の最後には、スタッフ自身が自分たちのケアをどのようにしていくのか、どうすればバーンアウトせずにケース支援に携わっていくことができるのかも論点となりました。技術面はもちろん、クライアントとの信頼関係を維持できるように、日々ケースワークに取り組むNGOスタッフにとって、共通する課題は多くあり、参加者からは非常に好評をえた研修となりました。
前提条件として、難民の方が日本で使用できる社会資源を増やしていくことや、社会資源としてサービスを提供する人たちが実際に難民のニーズに応えることができる状況をつくることなどが、なんみんフォーラムの役割でもある一方、様々な個別の背景や条件によって、どんな社会資源でも実際は活用できない場合があります。また、スタッフがどれほどの専門的知識や技術を持っているのかということも、困難を抱えている難民へのより適切なケースワーク、ケースマネジメントにとって重要です。なんみんフォーラムでは、両面からの体制強化に今後も取り組んでいいきたいと思います。(檜山怜美)
*本研修は、(株)ラッシュジャパンの助成により実施されています。