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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2021/07/01

2021年5-6月活動報告(ピースデポ)


 4月はピースデポが発行する『ピース・アルマナック2021』の刊行で忙しかったのですが、5月になると今度は「脱軍備・平和レポート(DPレポート)」の編集長として、編集作業に携わる日々が、6月2日の発行まで続きました。最新号(9号)の特集テーマは「核不拡散条約(NPT)」にしました。NPTは核不拡散を目的とした条約ですが、核軍縮、ひいては核兵器を無くして行くための努力をせねばならないという規定もあり、半世紀にわたり幅広い枠組みで核軍縮を議論できる場として重要な役割を担ってきました。原稿を作るにあたってNPTのことについて詳しくならなければならず、勉強しました。この報告では、私がその過程で何を学び、どのように感じたのかを書きます。

 NPT は1970 年に発効しました。発効後も米ソ冷戦の中で米ソの核軍拡競争により、核弾頭数は1986 年に7 万発を超えました。その後、米ソが冷戦を終わらせることに合意したことで、過剰になった核戦力を削減していくプロセスとして、80年代後半から90年代前半にかけて、核弾頭数は中距離核戦力ミサイル(INF)条約や戦略兵器削減条約(START)によってかなり削減されました。

 しかし、核軍縮をめぐる世界の現状は決して明るくありません。世界の核兵器の9割を持つ米ロのみならず、その他の核保有国、例えば中国や北朝鮮、なども核兵器の近代化を進めています。それは相手への不信感が動機となっていますが、それが相手の不信感を増幅させ、悪循環の様相を呈しています。確かに、広島と長崎への原爆投下により、世界は原爆の殺傷力と非人道性を理解し、それ以降、戦争で使われていません。しかし、それが皮肉にも被害の限定的な核兵器の小型化を進ませ、使用のハードルを下げ、結果として核戦争のリスクが高まっています。NPT は5か国(米ロ英仏中)にだけ核兵器の保有を(当面)認める、不平等な条約です。それでも、世界の大多数の国が加盟しており、核問題で規範を作ってきました。加盟している非核兵器国が核兵器を持った例はありません。しかし、核を独占している国々が核軍縮の義務を怠るどころか、その近代化を進めるのなら、核兵器に頼らないでいる国々の不信感が増幅し、NPT体制は崩壊してしまいます。したがって、米ロを筆頭に核兵器国は体制を立て直す義務があります。非核兵器国とはいえ、米国の核の傘に頼っている日本や北大西洋条約機構(NATO)諸国も核軍縮の妨げをしており、その政策を見直す必要があります。

 新型コロナウィルス感染拡大により、今年の8 月に再延期されたNPT 再検討会議は核兵器国と非核兵器国の間の対話の場として貴重なものの、その開催は世界的に感染が収まっていないために、今年も見送られそうです。コロナ禍は核軍縮を考えるうえで私たちに教訓を与えます。このようなパンデミックの発生は想定されていませんでした。私たちは「想定外」のことも起こると想定して、その発生を未然に防ぐために努力する必要があります。さらに、一つの国が安全でなければ他の国も安全でなくなるという意味で国際協力の重要性も私たちに教えました。そして、軍事力に頼る安全保障ではコロナのような危機を解決できないことが明らかになりました。コロナ禍の教訓が広く共有されることで、核軍縮を進めねばなりません。

 NPTについて包括的に学ぶことができるので、皆さまにぜひ脱軍備・平和レポート9号を読んでもらえたら嬉しいです。

                                                                                    6月29日 ドゥブルー達郎

核不拡散条約(NPT)を特集した脱軍備・平和レポート9号