文字サイズ

特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

会員になるには

国際協力の現場から

国際協力の現場から2020/03/11

ピースデポ:新年度に向けた取り組みに注力


 2020年1月と2月は、昨年までにやり残した事業の整理(「イアブック2019」の出版)に加え、総会を開催し、新年度の新しい事業(『脱軍備・平和レポート』の刊行、『ピース・アルマナック』の出版など)に向けた取り組みを開始した。また、4月にニューヨークで開催されるNPT再検討会議への参加に向け、現地でのサイドイベント開催の準備を開始した。

 

【『脱軍備・平和レポート』の刊行】

 これまで会員向けに発行してきた情報誌『核兵器・核実験モニター』が2019年12月をもって休刊となったのに代わり、新たに『脱軍備・平和レポート』の発行を開始した。

『核兵器・核実験モニター』は、核兵器や各国の安全保障政策に関する一次資料の翻訳や、それに基づいた分析や論考を読者に届けてきた。専門家や研究者らに貴重な情報を提供してきた一方で、内容が非常に専門的で、多くの会員や背景知識を持たない読者にとっては読みにくい媒体なのではないかという疑問も共有されてきた。また少人数の人的体制の下で他の業務にも並行して取り組むなか、これまでの質を保ちながら年18回の発行を続けるのは困難なため、休刊を決定した。

 新たに発行する『脱軍備・平和レポート』では、専門家だけでなく一般読者を意識し、より多くの読者の関心を高めることを目指している。特集ではその時々の話題や重要なテーマを取り上げ、読者が理解を深められるよう、背景や基本情報についてもできる限り解説する。また必要に応じ、専門家によるより詳しい解説や分析を掲載する。また、『核兵器・核実験モニター』に引き続き、梅林宏道のエッセーや市民運動に取り組む人々のインタビューも掲載する。

発行は年6回で、2月に第1号が発行された。第1号の特集テーマはイランの核問題。1月に米国がイランのソレイマニ司令官を殺害したことで中東地域の緊張が一気に高まったタイミングと重なるなか、イランと米国の対立の背景などを解説した。

 

【『イアブック「核軍縮・平和2019」』の出版に向けた活動】

 ピースデポでは毎年、核兵器や軍縮に関する1年間の出来事やそれに関連する一次資料をまとめた資料年鑑として『イアブック』を出版している。昨年は2018年の出来事をまとめた2019年版を6月に出版予定であったが大幅に遅れ、今年2月まで編集作業が続いた。『イアブック』は原稿執筆だけでなく、紙面のデザイン、文字の割り付け、作図など版下の制作(DTP)もピースデポ事務局で行っている。原稿はほぼそろっていたが、昨年末から2月にかけては紙面デザインの調整や文章校正など、緻密さが要求される作業が続いた。『イアブック「核軍縮・平和2019」』は2月中旬に下版し、3月上旬に出版される。

①イアブック のコピー

年鑑書籍『イアブック2019「核軍縮・平和」』の出版

 

【『ピース・アルマナック2020』出版に向けた取り組み】

 2020年からはこれまでの『イアブック』に代わる資料年鑑として『ピース・アルマナック』の出版事業を開始した。核兵器や軍縮に関する一次資料の提供を目的とし、『脱軍備・平和レポート』の発行とともにピースデポの中核的事業と位置付ける。6月出版を目指し、年明けから構成や役割分担の決定、紙面デザインの検討、出版社との打ち合わせなどを行った。

 

【総会・記念講演会の開催】

 2月22日に明治学院大学白金校舎において、第21回ピースデポ総会と記念講演会を開催した。総会では2019年度の事業と収支決算、2020年度の事業計画と予算、役員の改選について報告と議論、採決が行われた。

 「北東アジアの非核化と平和について市民社会がすべきこと」と題した記念講演会では、憂慮する科学者同盟(米国)のグレゴリー・カラーキー氏とピースデポ特別顧問の梅林宏道がそれぞれ講演した後、参加者との間で質疑応答が行われた。カラーキー氏は中国の核軍備管理政策と米国の核抑止制作を専門としており、「米国の市民社会、核兵器および北東アジアの平和」と題する講演を行った。

 カラーキー氏はまず、米国政治の状況について解説した。トランプ大統領は秩父のビジネスエリートの利益を最優先し、国民を守るための方を軽視している。米国の市民社会はトランプ大統領の政策への反対や大統領選挙に関連した動きに集中しており、核兵器や北東アジアの平和は優先課題となりにくい。

 そうした中、トランプ政権は低威力の戦術核兵器を新たにアジア地域へ配備するなど、核軍縮と逆行する動きを強めている。カラーキー氏は、こうしたトランプ政権の核政策を日本政府が支持し、アジアへの核配備を要求したことを驚くべきこととして指摘した。

 そのうえでカラーキー氏は、核廃絶は政府主導のトップダウンでは実現できず、市民社会によるボトムアップの取り組みが必要であると強調した。また、米国の核政策については4つの変更が必要であると指摘した。1つは、核兵器の先行不使用を定めること、2つ目は、核使用の判断を大統領、副大統領、議会議長の合議制とし、大統領のみの判断で核兵器を使えなくすること、3つ目は、核搭載ミサイルをいつでも発射できる高度警戒態勢を解除すること、4つ目は、核兵器の近代化をやめることである。

 梅林からは、朝鮮半島の非核化に向けた方策として、北東アジア非核地帯構想の紹介があった。北東アジア非核地帯構想への理解と支持が広がりつつあり、米朝が朝鮮半島の非核化に向けて交渉を進める今こそ、非核三原則を持つ日本が主導して非核地帯の実現を目指すべきである。北東アジア非核地帯の実現は、日本が核兵器禁止条約に入ることにも道を開く。日本は核兵器禁止条約を積極的に支持しない理由として、周辺国からの核の脅威をあげているが、非核地帯が実現すればそうした脅威は排除される。

②IMG_20200310_133527E のコピー

2月22日開催のピースデポ総会。グレゴリー・カラーキー氏と梅林宏道氏による講演が行われた。

 

【その他】

 「非核化合意・監視プロジェクト」において、朝鮮半島の非核化と平和構築に向けた情勢討論を毎週継続し、「監視報告」の執筆、発行事業に取り組んだ。「監視報告」の執筆に向けた調査の一環として、1月には国立国会図書館を訪問し、朝鮮国連軍に関する資料を紹介してもらうとともに、調査員からレクチャーを受けた。

 「フォーラム平和・人権・環境」からの委託事業として、「平和軍縮時評」に掲載するために米国宇宙軍創設に関する記事を執筆した。

昨年9月に「かわさき市民アカデミー」で提供した講座「核不拡散条約発効50年:核兵器はなくなるか?」は1月で11回の講義を終えた。最終回では梅林から北朝鮮の核兵器と北東アジア非核地帯について説明があり、ピースデポの「非核化合意・監視プロジェクト」や2月の記念講演会についても紹介した。

4月には、ニューヨークで開催されるNPT再検討会議への参加と、現地でのサイドイベントの開催を予定している。イベントの企画や国内外の団体との調整等、準備を開始した。

 

2月28日 森山拓也