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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2019/12/26

ピースデポ:非核化合意履行・監視プロジェクト1年を振り返る


 2018年11月14日、ピースデポは、プロジェクト「北東アジア非核兵器地帯へ:朝鮮半島非核化合意の公正な履行に関する市民の監視活動(略称:非核化合意履行・監視プロジェクト)」を立ち上げました。南北板門店宣言(18年4月27日)と米朝シンガポール共同声明(同年6月12日)が誠実に履行されるには、関係国の忍耐強い外交努力とともに、市民が果たすべき役割が極めて大きいと考え、平和団体が外交の進展を注意深く監視しつつ、誤ったメディア報道をただし、政府や広く市民社会に伝える必要があるとの思いから開始した。そのプロジェクトが1周年を迎えました。

 これまで、「監視報告」を日本語に加えて韓国語訳、英語訳と3か国語で18号まで発行を続け、それをブログと同時にメールマガジンで発信しました。韓国のNGOのHPに再掲される、海外からワークショップへの参加要請の声がかかるなど、反響も出てきています。

 これからも、外交努力の進展を注意深く監視しつつ、今回の米朝、南北の画期的な動きの重要性を訴え、過去の朝鮮半島非核化交渉に関する正しい理解とそこから得られる教訓を生かすことを政府や市民社会に伝えていきます。

 非核化合意履行・監視プロジェクトブログのURLは以下

  <日本語>http://nonukes-northeast-asia-peacedepot.blogspot.com/

  <英語>https://nonukes-northeast-asia-peacedepot-eng.blogspot.com/

  <韓国語>https://nonukes-northeast-asia-peacedepot-kr.blogspot.com/

 

プロジェクトのチラシ(表)。裏面には、バックナンバーが更新され掲載される。

プロジェクトのチラシ(表)。裏面には、バックナンバーが更新され掲載される。

 ここで、監視報告の各号の主な論点を紹介します。「監視報告1」では、2つのトピックについて論じられました。まず、国連演説や国会施政演説から、安倍首相の対北強硬姿勢からの変化の兆しと、政権の真意を分析しました。次に、6月12日のシンガポール合意を履行する方法論が不明確であると指摘し、一例として18年11月8日にピースデポが外務大臣宛に提出した要請書を引用し、米国、韓国、北朝鮮を関係国として限定した際の5段階のベンチマークを提案しました。
 「監視報告2」は、米朝協議に進展がない中、18年11月20日に朝鮮半島非核化交渉に関する米韓作業部会が発足したが、そこでは韓国のリードと、南北間の意思の疎通が求められると主張しました。
 「監視報告3」は、日本が北東アジアの平和構築の流れに積極的に関与していないと指摘し、米朝首脳会談後も国連安保理決議による対北朝鮮制裁の厳格な履行を求める姿勢から変化していないと論評しました。
 「監視報告4」は、北東アジア地域は各国の軍事的体制や性格に理解を努め、朝鮮半島の平和・非核化合意の履行の成功のために軍事分野における緊張緩和と軍縮を一歩一歩前進していく必要があると述べました。
 「監視報告5」は、金正恩委員長の19年「年頭の辞」が停滞していた米朝協議をうち破る流れを作ったとし、米国高官の発言から米国が同時並行の段階的措置を考えているのではないかと分析しました。
 「監視報告6」は、日本のマスメディアは、米朝協議において「北朝鮮の非核化」ばかりに注目し読者を誤った認識に導くような報道をするのではなく、米国が合意を履行できるよう後押しする世論の形成に役立つ報道をするべきだと主張しました。
 「監視報告7」は2月のハノイ米朝会談に関し、ネガティブな評価が目立つ中、会談を通じてのみ米朝が得たものがあったとし、今後、対北制裁緩和について国際社会が中・ロの役割を議論していく必要があると主張しました。
 「監視報告8」は、2月のハノイ米朝会談後、米国の対北強硬姿勢が復活しつつあるが、米国は国連安保理決議が北朝鮮の遵守状況に応じて制裁を強化したり緩和したりすることを約束していることを踏まえ、段階的に制裁緩和を議論するべきだと主張しました。
 「監視報告9」は、北朝鮮が制裁継続を「敵視政策」としてとらえている中、日本の外交政策が「安保理決議の厳密な履行」と「北朝鮮との信頼の醸成」の両方を求めているのは矛盾していると指摘しました。
 「監視報告10」は、米国や日本がシンガポール合意の履行から逸れ、「北朝鮮の大量破壊兵器の完全廃棄」や「安保理決議の履行」を求める声が目立っていると指摘し、シンガポール合意の履行を目標として米朝交渉が行われるべきだと主張しました。
 「監視報告11」は、北朝鮮が国連総会及び国連安全保障理事会へ公式文書として全加盟国に配布するよう要請したシンガポール合意1周年を記念した外務省報道官の声明の全文訳を掲載しました。
 「監視報告12」は、板門店米朝会談後に再開される協議では、トランプ大統領は一気に北朝鮮の完全非核化を求める「ビッグディール」ではなく、「スモールディール」で交渉を行うべきだと指摘しました。
 「監視報告13」は、北朝鮮のミサイル発射に対し国際社会から非難が相次ぐ中、軍事的行為が朝鮮半島の平和・非核化プロセスの悪化を招く可能性があるとし、18年9月19日の「板門店宣言履行のための軍事分野合意書」によって設立が約束された「南北共同軍事委員会」の活用について協議を急ぐべきだと主張しました。
 「監視報告14」は、北朝鮮の短距離ミサイル発射に対して英独仏が安保理の開催を要求したことについて、誤った朝鮮半島の情勢認識を見直し安保理は米朝シンガポール合意履行促進の協議をするべきだと指摘しました。
 「監視報告15」は、北朝鮮の米朝交渉への姿勢が一貫している一方で米国は方針にぶれがみられる中、米国が段階的措置を講じられるよう世論を形成することが求められると主張しました。
 「監視報告16」は、今年の一連の北朝鮮ミサイル発射実験を技術的側面から分析し、これらの発射実験は日韓の軍事力強化の結果への反応であると指摘しました。
 「監視報告17」は、北朝鮮が、米国に要求していた年末期限まで1か月を切ったことに関し、このままでは、千歳一遇の好機を失うことになり、それは日本の市民にとっても大きな損失になるであろうため、日本は積極的に行動し、現在の行き詰まりの打開の道を探るべきであると論じました。
 「監視報告18」は、北朝鮮政府が設定した年末までの交渉期限に関し、もうこれ以上「リーダー」に任せるのは止めて、市民がその実現に向けて行動すべき時だとし、米朝2国間の枠組み以外の方策を提案しました。

 上記のリンクからブログにアクセスし、「監視報告」の全文をぜひ、ご一読ください。

 本プロジェクトには、主に「監視報告」の執筆、発行、発信に発足時から関わってきました。非核化プロセスを巡る情勢を追って、毎週会議を開き、チームで議論しました。移り変わりのはやい朝鮮半島情勢をフォローするのは大変ですが、とても面白いプロジェクトです。

 本報告で、私の執筆は最後になります。次回からは、新たな執筆者に変わります。短い間ではありましたが、ありがとうございました。(平井夏苗)