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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2019/12/26

国際協力4.0~次世代のためのNGO人材育成 2019年度前期


 メコン・ウォッチ[i]は、組織強化の一環として、次世代スタッフの育成プログラムを提案し、ブレークスルー支援をいただけることになった。私たちは、メコン河流域国(ミャンマー/ビルマ、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナム、中国南部)を対象に、ダムなどの大規模開発がもたらす環境破壊や人権侵害を調査し、そうした開発を後押しする政府、国際機関、企業に責任と解決を求める提言活動を行っている。このような活動に取組むには、開発の弊害に苦しむ人びとへの共感や、調査・提言・交渉などの技能はもとより、提言活動の意義をしっかりと理解する必要がある。そうした共感・技能・理解を意識的に育むことができればと考えた。

 とは言うものの、私たち単独で育成プログラムを企画・実施するのは荷が重い。そこで、すでに若手の人材育成を実践しているNGOと協働することにした。結果として、メコン・ウォッチのためだけでなく、アジア全体を視野に入れた人材育成を考えることになり、この構想の規模を「ブレークスルー」と評価していただいたように思う。

以下、2019年度前期(4月~9月)の事業の進捗状況をまとめてみたい。

 まず、School of English for Engaged Social Service(「社会に関わるための英語」=SENS)[ii]という研修を実施するNGOと話合いを重ね、SENSをメコン・ウォッチの育成プログラムの一環として位置付けさせてもらった。SENSでは、2020年1月~4月、アジア各地から10数名の若者をタイに招き、研修を行う。研修生は寝食をともにしながら、英語を媒介として、気候危機、移民・難民、紛争と暴力といったグローバルな課題について学ぶ。森や池に恵まれた研修施設は、交流や思索にも適している。

SENSでの研修風景

SENSでの研修風景

 メコン・ウォッチは、研修生の募集や資金調達の面でSENSに協力するとともに、提言活動のワークショップを担当する。研修が終わった時点で、私たちの活動に加わってくれる人材が現れるだけでなく、アジア各地で提言活動に通じる若者が増えれば、と期待している。

 ただ、これだけでは、単にSENSに便乗しているようにも見え、ブレークスルー支援が求める「大胆な発想」、「独創性や先進性」、「起爆剤」には届かない。そこで、育成プログラムを、さらにいくつかの方向に広げることにした。

 一つ目は、日本の市民による国際協力活動に寄与することである。

 1月、ブレークスルー支援の選考会で、「日本の市民社会の強化にも役立つ育成プログラムにしてほしい」という期待の声をいただいた。次世代の人材育成が私たちだけでなく、日本のNGOによる国際協力活動にとって課題であることは、日ごろから痛感している。そこで、育成プログラムの間口を広げ、SENSに、メコン・ウォッチのスタッフ候補だけでなく、日本のNGO関係者の参加を呼びかけることにした。

 二つ目は、アーユスとの連携を強化すること。

 ブレークスルー支援を受けるNGOとアーユスとの連携強化は、支援の狙いにも明記してある。ところで、SENSを運営するのは、International Network of Engaged Buddhists(「社会に関わる仏教徒の国際ネットワーク」=INEB)[iii]というNGOで、Engaged Buddhism(「社会に関わる仏教」)を指針に、宗教・精神的な視点から、人間が社会的な課題に果敢に取組む意義を唱えている。そこで、INEBのメンバーを日本に招き、国際協力、若者の社会参加、スピリチュアリズムとアクティビズムなどについて考える連続セミナーを、アーユスと共催することにした。セミナーではSENSについても紹介し、先に述べたように、日本のNGO関係者の参加をうながしたい。

 三つ目は、若者のニーズを取り込むこと。

 8月、メコン・ウォッチは、インドネシアの国際会議で、「人びとの被害体験をどう伝えるか?」をテーマに、ワークショップを企画・運営することになった。このワークショップに、広島と福島で被災体験の継承に取組む若手NGO関係者を招き、準備の話合いを重ねるなか、彼女たちが活動する際のニーズを理解するよう努めた。その結果、過度な期待や一方的な研修が若い人びとを抑圧しかねないことに気づいた。そこで、育成プログラムにおいては、知識や経験を伝えるだけでなく、研修生同士が学び合える機会を提供し、研修後も研修生間のネットワークが持続するように工夫したいと考えている。

国際ワークショップで、被爆体験について語る、広島のNGOメンバー(右側の二名)

国際ワークショップで、被爆体験について語る、広島のNGOメンバー(右側の二名)

 

 

 

 

 

 

 

 

 四つ目は、提言活動の教訓を踏まえること。

 メコン河流域ではNGOの提言活動が難しい局面を迎えている。これまで提言活動を支えてきた欧米系財団が資金を引きあげるケースが増え、同時に、政府や大企業がNGOを敬遠・敵視する傾向が強まっている。こうした状況を乗り切るには、従来の提言活動をふり返り、現状にそぐわない部分は改めなければならない。そこで、メコン・ウォッチは、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムのNGO関係者とともに、過去10年の提言活動の点検を行っている。来年2月には報告書がまとまるので、その内容を育成プログラムにも活かしたい。

 以上、2019年度前期の事業の進捗をまとめた。総じて、事業は順調に進んでいる。後期は、10月中旬、INEBのメンバーを日本に招き、アーユスと共催で連続セミナーを開催する。その後、年明け1月には、SENSが開講する。次の報告の機会では、これらの活動の模様を詳述したい。

 

[i] メコン・ウォッチ http://www.mekongwatch.org/

[ii] School of English for Engaged Social Service(SENS)http://inebinstitute.org/eng/

[iii] International Network of Engaged Buddhists(INEB)http://inebnetwork.org/