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国際協力の現場から

国際協力の現場から2018/02/22

JCBL :オタワ条約第16回締約国会議報告


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犠牲者支援のセッションで貴重な経験を語ったサバイバー達。

 2017年12月18日から21日までの4日間、オタワ条約(対人地雷全面禁止条約)第16回締約国会議がオーストリアの首都、ウィーンで開催されました。1997年に条約が成立してから20年の節目の開催です。

壇上に上がるスリランカ代表団

壇上に上がるスリランカ代表団

 開会式では、会議の直前に条約に加盟したばかりのスリランカの代表団を壇上に招き、一同の大きな拍手で163番目の条約加盟国を迎える明るい幕開けとなりました。地域的にみると最も加盟国の少ないアジア地域からの久しぶりの加盟はマイン・フリー・アジア(地雷なきアジア)を目指すJCBLにとっても大きなニュースです。

『人道的軍縮の流れは着実に世界に大きな変化をもたらしている』

オタワ条約成立20年を記念してのパネルディスカッションで発言するICBLのジョディ・ウィリアムス氏とトゥン・チャンナレット氏

オタワ条約成立20年を記念してのパネルディスカッションで発言するICBLのジョディ・ウィリアムス氏とトゥン・チャンナレット氏

 冒頭の言葉は開会式でのICBLのジョディ・ウィリアムス氏のものです。「もし20年前にこの条約が出来ていなかったら、いったい今、どれだけの犠牲者が未来を奪われていたか想像してみてほしい」と彼女は加えて強調しました。20年間に世界の8割の国が条約に加盟し、地雷の使用・生産を止め、備蓄地雷を廃棄し、埋設地雷の除去を進めた結果、犠牲者の数は大幅に減りました。またこのことは単に対人地雷の禁止に留まらず、後のクラスター爆弾禁止条約の成立、さらに核兵器禁止条約の成立につながることとなり、人道的軍縮のうねりは着実に世界を変えつつあります。
 一方、トゥン・チャンナレット氏は、犠牲者の立場から、地雷や不発弾、そして簡易爆弾の犠牲者に対する医療支援やリハビリ、権利の向上、社会参加のためにはさらに長期的視点に立った取り組みを担保する政治的意志が今後も必要であることを強調しました。
 今回の締約国会議に参加した国の数は92ヵ国。うち15ヵ国は未加盟国(注1)です。
 未加盟国もオブザーバーとして参加し、議論の輪に加わり、自国政府の地雷政策及び対策に関する情報を共有することは大事なことです。ここ数年犠牲者の最も多い国の一つであるミャンマー政府の代表団の参加もあり、条約加盟に少なからず関心があることがうかがえました。
 以下、今回のMSPにおける各条項に関する議論の要旨を報告します。

◇犠牲者の急激な増加
 会議全体を通して繰り返し強調されたのは、ここ数年、犠牲者が急激に増加していることです。政府軍と反政府武装勢力の抗争が激しいリビアやアフガニスタン、イエメン、ウクライナなどで多くの犠牲者を出しています。
 特にIED、IM(簡易手製爆弾、簡易手製地雷)による被害が多くみられます。こうした簡易装置も犠牲者自身によって起爆させられる装置(Victim activated weapon)である以上、オタワ条約第2条で定義する”地雷”として扱われるべきですが、中には遠隔操作が可能なものなどもあり、締約国の間でも共通認識を持つための議論が必要になりそうです。

◇継続的かつ実効性のある「犠牲者支援」を(条約6条関係)
今回、最も多くの時間を割いたのが犠牲者支援に関する協議です。
数年前から”新たな犠牲者をゼロ”にというスローガンが掲げられていますが、一度手足を失い、社会の様々な”場”から外れざるを得なくなった地雷の犠牲者たちが再び社会参加の機会を得られるための持続的な支援メカニズムの構築も必要です。
“The cost of exclusion is greater than the cost of inclusion” 『(社会)から排除することの方が(社会)に包含するよりも負担が大きい』という言葉が度々出てきました。様々な支援が犠牲者支援の究極的な目標でもある社会復帰にしっかりとつながるよう、あらゆるリソースを効果的に動員する必要があります。

◇埋設地雷の除去期限を厳守せよ(条約5条関係)
 アルジェリアとモザンビークは除去を完了したことを報告。そして除去期限が切れている国々の延長手続きが行われました。
 ここ数年条約違反が取り沙汰されているウクライナは、「2014年2月以降、クリミア半島の一部に新たな地雷地帯ができたが、政府の管轄権が及ばない状況が続いている。こうした混乱状況を理解していただきたい」として、延長手続きは状況が落ち着くまで保留するとしました。この発言を受け、ICBLを皮切りに各国が次々に「可能な限り早期に延長申請を行うよう」強く求めました。強い実効性のある条約であるためには条約違反は許さないという、締約国間のけん制も必要です。

◇貯蔵地雷の廃棄(条約4条関係)
 これまでに92ヵ国の締約国が貯蔵地雷の廃棄を完了し、破壊した地雷の数は5300万個を超えました。しかし、廃棄期限を過ぎても延長手続きを怠っている国もあります。
 締約国のうち、まだ廃棄が完了していない国は31ヵ国。アフガニスタン、イエメン、シリアなどでは非国家主体(NSA)の地雷保有の問題があり、その数や管理状態を把握することは極めて難しい状況です。NSAが保持・使用する地雷、特に簡易手製地雷については、過去2年にわたる犠牲者急増の主原因でもあるので、早期の停戦合意と武器管理の協議を進めていく必要があります。

◇条約の普遍化(Universalization)
 オブザーバー参加した未加盟国は15ヵ国。アメリカ、中国、インドは発言したものの、内容はこれまでと同じです。いかに地雷対策に貢献しているかのアピールに終始し、加盟の可能性については何も言及がありません。政府軍による地雷の使用が取り沙汰されているミャンマーについては、10人近い大代表団が参加していましたが、残念なことに過去の会議に来た経験者は誰もおらず、加盟に向けての継続的対話をすることは困難でした。
こうした中、パレスチナ代表からは「条約加盟に向けて準備を進めている」という前向きな発言がありました。パレスチナはその後12月29日に正式加盟し、164番目の加盟国になりました。

◇おわりに

会議の合間にICBLの仲間たちと                                   (前方右が筆者)

会議の合間にICBLの仲間たちと(前方右が筆者)

 97年12月の条約調印式からあっという間の20年。この間、条約加盟国は163になり、条約が目指す地雷なき世界に向けて着実に歩みを進めています。これほど確かな成果を上げている軍縮条約は他にないでしょう。もちろん、それは自然にそうなっているわけではなく、そうなるように仕向けているからです。
 ランドマインモニターの発行とそれに伴う調査と対話、毎度の締約国会議におけるロビー活動、啓発キャンペーンなど様々な活動が国際キャンペーンの間で協調的に展開されていることが「強い条約」の成長を後押ししていることは間違いありません。
 しかし、このエネルギーが永久に続くとは限らず、だからこそ、2025年という期限目標に向けて、地雷の除去、貯蔵地雷の廃棄、恒久的な犠牲者支援の仕組みづくり、そして条約の普遍化を達成すべく、力を注いでいくことが重要になります。
 私たちも、次の会議までに一つでも多くの成果、変化をもたらすことができるよう、各国の仲間たちと連絡を取り合いながら、しっかりと役割を果たしていきたいです。 (JCBL代表理事 清水俊弘)

注1:オブザーバー(未加盟国)15カ国:アルメニア、アゼルバイジャン、中国、インド、カザフスタン、ラオス、レバノン、モロッコ、ミャンマー、パキスタン、パレスチナ、サウジアラビア、シンガポール、シリア、アメリカ