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国際協力の現場から

国際協力の現場から2017/01/17

FRJ:セーフティーネットからこぼれる難民


セーフティーネットからこぼれる難民 — 日本の課題はどこにあるのか

 新年あけましておめでとうございます。なんみんフォーラム(FRJ)事務局の檜山です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、寒さがいちだんと厳しい時期となりました。難民支援関係者間では、路上生活を余儀なくされる難民へのシェルター(宿泊施設)提供が十分に行えるかどうか、そうした事態になる前に何か手立てはないのかどうか、毎年一番気をもむ時期でもあります。
 日本での難民の生活に対する公的支援は、決して十分とは言えません。そのため、極度の困窮状態に陥る人や、路上生活を余儀なくされる人がいます。母国を追われた人々が、屋根の下で暖をとり、安心して眠り、健康な身体で生活する、ということが難しいという事態が、残念ながら起きています。

 日本では、難民認定申請をしてから保護を受けるまで、平均して3〜5年かかり、以前より審査期間の長期化が課題として指摘されてきました。その一方、審査期間中に、就労許可がおりない人もいます。就労許可がある場合は、もちろん職を得て暮らしていく人もいますが、許可の有無に関わらず、家庭の事情や、トラウマ、妊娠・育児などの理由から十分に働ける状態にない人もいます。中でも、困窮状況は来日当初に生じやすく、また、経済的自立が難しい中で、公的支援が途切れてしまったりして、困窮状態に陥る人もいます。さらに、公的支援自体の不足も指摘されています。

なぜ難民が困窮するのか

保護費受給者は、生活費から、食費だけでなく、交通費や水道光熱費、電話代、先に立て替えなければならない医療費なども、必要に応じて捻出していくことになります。

保護費受給者は、生活費から、食費だけでなく、交通費や水道光熱費、電話代、先に立て替えなければならない医療費なども、必要に応じて捻出していくことになります。

 日本では、難民認定申請者への公的支援として、生活援助金(保護費)が支給されています。一定の条件があるため、保護費が受給できない人もいます。保護費は難民認定申請者自身の申請式になっており、受給が決定されると、生活費、住居費、医療費の支援を受けることができます。生活費は1日あたり大人1,500円、子ども750円が、住居費は単身で月額4万円までが、全国一律で支払われています。

 一方、保護費の申請から支給開始まで期間は、政府の統計でも平均して2ヶ月程度かかることがわかっています。FRJの加盟団体間で把握している限りでは、中には6ヶ月近くかかることもあります。そのため、保護費の支給を待っている間に困窮状態に陥り、路上生活を余儀なくされる難民認定申請者もいるのです。
 難民認定申請者が、金銭感覚や、日本の制度、生活に関する正確な情報を来日当初から持っていないことは十分にありえます。支援団体の事務所にたどり着いたときには、所持金を使い果たしてしまっている人もいます。また、本当に信頼できる人が身近にいるとは限らず、困窮しても頼るところがない人も少なくありません。昨今では、住むところを転々とせざるを得なかった結果、父親が知れずに妊娠してしまう単身女性のケースも見受けられます。たとえ受給までの期間が、1週間であっても、2ヶ月であっても、極度の困窮状態にある当事者にとっては、「長すぎる」待機期間になりうるのです。

支援団体に相談に訪れる難民

支援団体に相談に訪れる難民

 しかしながら、たとえ保護費が受給できていても、その支給額や支給方法は、生活保護と比べると決して最低限の生活保障として十分に機能しているとはいえない状況だという指摘があります。特に、重病者や妊産婦など、脆弱性の高い難民認定申請者の生活には、非常に深刻な影響が及んでいることが、民間の支援団体から報告されています。また、難民認定申請手続きが一度すべての過程を終了すると、ただちに保護費支給停止となり、再び困窮リスクが高まります。保護費の受給者は一律就労が認められていません。多くはその日暮らしを送っているため、保護費の支給が停止されると、途端に生活が立ち行かなくなる可能性があるのです。
 そして、そもそも受給対象に当てはまらず、公的支援を受けられない難民認定申請者は、さらに苦境に追い込まれます。特に正規に在留していない人は、健康保険にも入れませんし、働くこともできません。そうした人たちは、どのようにして、公的支援がない中で、何年も日本社会で生きていくことができるのでしょうか。

セーフティーネットをどう築いていくのか
 公的支援、そして市民社会における難民支援の輪が、こうした「現状」にどこまで追いつくことができるのか、その真価が問われています。難民認定申請の結果を待つ先の見えない数年間、当事者たちは幾度となく、困窮のリスクに直面します。それは物質的・経済的な影響だけでなく、計り知れない精神的ストレスをもたらします。場合によっては、心身の健康に支障をきたし、その後の社会統合にも影響をあたえかねません。
 そのため、民間の支援団体では、困窮状況にある難民に対して、個別のカウンセリングを行い、脆弱性やニーズに応じて、生活支援金の支給、食料・日用品などの現物支給、シェルターの提供などに取り組んできました。当事者それぞれの声に耳を傾けながら、必要なときは自立に向けた支援にも取り組んでいます。また、医療ニーズのある人たちについては、医療機関との連携にも取り組んでいます。FRJでは、そうした、今まさに必要とされている支援活動のバックアップ、支援関係者間の連携体制の充実に取り組みながら、全国の支援現場の声をとりまとめ、包括的な視点からのアドボカシーにも取り組んでいます。保護費については、2009年度からは、保護費を所管する外務省と、実際の実施団体である難民事業本部(RHQ)と、保護費に関する意見交換会を毎年実施しています。

 母国を追われた人たちは、すでに多くを失い、再起できる場所を探しています。難民の命と尊厳が大切にされる日本社会に向けて、私たちそれぞれにできることがあります。FRJでは、今後も、困窮する難民・難民認定申請者の支援に取り組んでいきます。これからも応援をお願いいたします。(なんみんフォーラム事務局)