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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2025/12/01

仮放免高校生がプロジェクトの担い手として成長した半年


仮放免高校生がプロジェクトの担い手として成長した半年
「仮放免高校生がプロジェクトの担い手として成長した半年」アーユスが『街の灯』支援事業で協力している事業の中間報告より

現役奨学生28名に

 4月27日に3期生の授与式と2期生の発表会を行った。この段階での新入生は8人で、予定していた5名よりも多かった。発表会では、専門学校・大学生になった元奨学生も参加し、看護学校や大学の幼児教育学科での勉強の様子を話してくれたことで、高校生たちも、進学の具体的なイメージを持つことができたようだった。さらには、発表会中に、私語をしている高校生に、「君たち、人が話しているときにはちゃんと話を聞きなさい」と専門学校生が喝を入れるなど、頼もしい存在になっていた。
 5月にはオープンキャンパスを開始する専門学校があり、大学も推薦入試の募集を始める。仮放免高校生の進学を取り巻く状況はあまり変わっておらず、仮放免であることを理由に受験拒否する専門学校・大学の数は昨年よりも増えた。5月には文科省との交渉を行ったが、仮放免高校生の受験・入学は「法令上は問題ない」ということは認めても、仮放免であることを理由に受験・入学拒否することが、差別にあたるとは認めなかった。

ゼロプランの影響

 6月までにさらに仮放免高校生12名が参加し、高校現役生が28名の大所帯となってからは、怒涛のような6ヶ月だった。人数が増えたためではない。5月末に入管庁が「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を発表し、7月の参院選が終わって学校が夏休みになる頃から、仮放免の家族の強制送還が日々執行されはじめたのだ。高校生から、家族が帰国を決めたから「仮放免高校生プロジェクトを抜ける」という連絡が来るようになった。8月になると、プロジェクトの仮放免高校生のひとりが、入管に出頭して、その日のうちにそのまま強制送還された。親が強制送還されることがあっても、自分は親戚にお世話になって日本で大学進学することを予定して、進学希望先の大学も決めていただけに、本人にとっても、伴走していたチューターにとっても大きなショックだった。高校生たちの親戚が強制送還されたり、親が、8月上旬の具体的な日付が記され、その日までに出国することを求める書類を入管から渡されて不安だという連絡がチューターの元に日々寄せられた。
 何か行動を起こさなくてはこのまま強制送還が続く、という危機感がプロジェクトメンバーの中で、日々、大きくなっていった。これまでであれば、反貧困ネットワークと移住者と連帯する全国ネットワークの「支援者」が、問題解決のために奔走したのだが、今回の展開はまるで違った。8月末に緊急の省庁交渉と院内集会を企画したのは、大学生チューターと元奨学生たる専門学校生・大学生、そして現役の仮放免高校生だった。

仮放免高校生とチューターによる省庁交渉・院内集会

 これまで本事業の発表会は、高校生の希望で、非公開で実施してきた。シンポジウムを開催するときにも、ヘイトスピーチの標的にならないように、最低限の広報しか行わなかった。これまで、可視化しないように進めてきたが、8月27日の省庁交渉と院内集会は、元奨学生も企画に加わり、「声を聞いて欲しい」と当事者の高校生たち15人が参加し、日本に住み続けて勉強を続けたいと訴えた。
 省庁交渉では、入管職員に対して、高校生・大学生たちは、かなり強い言葉で、子どもの権利を守らない政策を批判した。元奨学生で現在大学生であるひとりは、当日を振り返って、以下のように述べてくれた。
「入管の職員に対して、怖さがあり、今も強気に出ることができない。入管は怖い大人という存在だったので、(省庁交渉で)自分が思っていることをそこまで全部言えたわけではない。でもAさんやBさんが行動的で、力強く話すのを聞いて、勇気をもらえた。自分も発言していいんだと思えた。当事者の結束力を高めるのは大事だと思った。私は、住んでいるところが東京から離れているので、周りに仮放免の子はいることはわかっていても、やはり結束力は弱かったので、実際にそういう同じ体験をした子が声をあげている姿に背中を押してもらえるような気がした」
 省庁交渉と院内集会の実施に奔走したチューターは、「参加した仮放免・元仮放免の子どもたちが、堂々と、入管職員の前で気持ちを伝えたことに意味があったと思う。声をあげても意味がないと思ってしまう、聞いてもらえないと思っている中で、自分の声を聴いてもらえる、自分の声や発言が価値がある、意味がある、発言することが大事なんだということが認識できるという意味で重要だったと思う」と振り返っていた。
 こうした声を受けて、本事業の今後半年間は、仮放免高校生たちの声の発信に向けて、活動をさらに活性化させていきたい。当事者たちは、入管の政策が変わったという実感を持てたわけではないが、今後も、プロジェクトで集まるときには、問題を社会に訴える何らかの動きにつなげられるようにしたい、これまで可視化しないようにやってきたが、話したい、打ち明けたいという高校生もいるので、そうした高校生が仲間と語り、そこから社会に発信していく場を作る予定である。可視化しないと、見えないままに家族が強制送還されてしまう、という意見が、高校生たちから出されるようになった今、「ゼロプラン」をはじめとした排外主義を押し戻し、本事業の奨学生たちが日本で勉強を続けられるようにするために、市民社会に訴えていくことが、喫緊の課題である。