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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2022/12/28

シリーズ「光の先に見えるもの」#2 ミャンマー国軍の資金源を断て


アーユスが光を当てるNGOや活動現場をご紹介。光の先に見えるものは・・・・?

第2回:メコン・ウォッチ
「人道支援と同程度に光を当てるべき日本自身の責任」

○メコン・ウォッチとは
メコン川流域における様々な開発事業の陰で負の影響を受ける地域住民の状況を、調査研究とアドボカシーを通じて改善する活動を続けてきた。開発の主体である日本政府や企業を主なターゲットにしている。提言をする際には、政策にも現場にも知悉していることが強みとなるが、その両立を実践しようと挑戦を続けてきた。現在、力を入れているテーマは、ミャンマーと気候変動。

 「光の当たらないところに光を」という視点から、ミャンマーに対する日本政府や企業の関与について調査や提言活動を続けてきている、メコン・ウォッチの木口由香さんにお話を伺いました。

●クーデター前から指摘してきた、かりそめの「民主化」 ―光が当たらないところ
―先日、メコン・ウォッチも真相究明を求めていた、ラオスの社会活動家であるソムバット・ソムポーンさんの失踪について記事が出ていましたが、10年もたっているんですね。

(木口)タイのバンコクでは毎年記者会見が行われているのですが、10年目ということもあり日本でも記事として取り上げられ、私もコメントしました。
 東南アジアのメコン川流域国でアドボカシーをおこなう団体として、タイに出張したらバンコクに駐在している特派員とはなるべく話をするようにしています。小さなNGOなので、顔を合わせないと「誰がやっているんだろう」となると思うので。

―長く活動してきたことの良い面、細かい努力の賜物ですね。

(木口)長く続けてきたことの意義は、今回(2021年2月)のミャンマー国軍のクーデターで感じました。ミャンマーの民主化運動を応援してきたグループは、いわゆる民生化以降に活動を縮小し、日本の対ミャンマー援助政策について提言をしているところは少なかった。その意味では、活動に意義があるのだろうなと感じます。

○木口由香さん
メコン・ウォッチ事務局長。タイ語を学んだことを契機にタイに関わる仕事をするなかで、東北タイのダム開発が環境や暮らしに及ぼす悪影響に関心を持つ。
2000年からメコン・ウォッチに参加。メコン川流域だけでなく日本国内の環境問題、ミャンマーへの開発協力に伴うお金の流れにもアンテナを張り、調査や映像記録作成、アドボカシーと幅広い活動を展開中。

―クーデターの前から、ミャンマーの状況に光を当てようとしてきました。

(木口)度々ニュースにもなるロヒンギャ・ムスリムの迫害は日本でも知られていると思いますが、それ以外の少数民族居住地域でも国軍による弾圧や紛争が続いていることを伝えたいと思っていました。日本では、2011年以降、ミャンマーが「民主化」してあたかも普通の国になったように見られていたからです。しかし、国軍自らがクーデターを起こしたことで、はからずも光が当たった。余計状況は悪くなってしまいましたが。
 現地NGOと繋がりながら状況を把握・整理して日本語でも紹介し、それを使ってアドボカシーする予定でしたが、加えてクーデター後は、#ミャンマー国軍の資金源を断てのキャンペーンを立ち上げ、街頭にもほぼ毎月立ち、ミャンマー国軍を利するような事業に資金を出している日本政府や企業に見直しを求めています。現地情報は、英語の方が多くあるので、それを整理して日本語で発信することにも力をいれています。

―このような状況になって、手ごたえを感じますか。

(木口)日本政府がずっと沈黙を貫いているので、そのカウンターとして、「こんな状況なのになぜ日本政府は動かないのか」と問うていく流れをつくっている意義は感じます。小さな声ではありますが。ただ、レスポンスがないので成果を測りにくいですね。
 あと、クーデター当初は注目を浴びたんですが、数か月すると「ミャンマーでひどいことが起きている」という報道は続くけれど、日本の関わりには、全くといっていいほど日本のメディアが触れなくなってしまったんですね。意図的に控えているわけではなく、「ひどい行為をしているミャンマー国軍に、直接お金が渡っています」といった単純な話ではなくて、ビジネスの利潤が流れるという、間接的に思われる関わりが多いからではと思います。普通、「自分たちのビジネスの先で利益がどう使われても、関係ないでしょう?」と思うのではないでしょうか。
 でも、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」が2011年に公表されて、国際的には、ビジネスの中での人権配慮と企業の責任が厳しく問われるようになってきたことに、まだ日本社会がついていけていない。加えて、メディアもソーシャルメディアの台頭で分かりやすく伝えることに注力してしまい、分かりにくいことは報じない傾向があるのではないでしょうか。そこを何とかしようと、じたばたしているところではあります。

●変わったこと、動かないこと ー 動くビジネスセクター、沈黙の日本政府
―この間、光を当てようと活動してきて、変化を感じることは。

(木口)日本企業が、NGOからどう言われるかをとても気にするようになったことです。
 ヤンゴンの複合不動産事業(Yコンプレックス)では企業が動き、既に損失処理をしています。NGOに問われている人権配慮について、株主への説明が必要だからでしょう。欧米ではミャンマーは人権問題を抱えている国と認識されているので、国際的なプレッシャーが相当あったんじゃないかなと思います。私たちの働きかけだけで企業は動かないでしょうが、その国際的な動きの一翼を担えている実感はあります。
「ビジネスと人権に関する指導原則」が日本で注目されたのはこの数年ですが、少なくとも大手企業は対応を迫られています。こちらからも問題を指摘し、企業の具体的行動に結びつける努力を続ける必要があります。

―一方で、壁を感じるのは。

(木口)圧倒的に日本政府ですよね。企業は国際水準に合わせようと、とにかく動き出してはいる。それなのに、日本政府はずっと沈黙しています。本来、政府開発援助(ODA)は世界の平和や安定のために使われるべきもののはずなのに、それがミャンマー軍の活動を助長しているという批判に全く答えないのは問題です。また、ODA以外の公的資金の一部が、国軍を利する事業に投じられていますが、それらも継続されたままです。Yコンプレックスでも公的金はついたままです。

―どんな仲間に支えられていますか。

(木口)アーユスの支援、そしてモラルサポートには助けられています。「#ミャンマー国軍の資金源を断て」の仲間とは、単独で活動するより安心感があるし、励まされる。発信する情報もチームで作成しています。また、複数団体から発することで、その声が伝わりやすくなり、社会的な信頼も担保し合うことができると思っています。キャンペーン団体以外のNGOも私たちが出す声明に賛同したり動いてくれたりしています。
 海外でもミャンマー民主化に取り組むNGOとつながっていて、そこが日本側の情報を広げてくれたりしています。日本の動きもみんな気にしているんです。
 NGOにとってネットワークは大事ですが、いつもつながっている必要はなく、小さなハブがいっぱいあって、イシューによって有機的に付いたり離れたりすることで大きな動きを作れれば良いと思っています。

● 根本原因に、光を当て続ける

―次の一歩として、光をあてたいことは何ですか。

(木口)現地支援も足りない状況にありますが、やはり根本の原因というか、国軍の力を弱めるために「お金の流れをとめる」ことがとても重要なので、引き続き、お金の流れをチェックして止まるよう働きかけていきたいと思います。
 同時に、国軍を利さないODAでも特に有償資金協力(円借款)は、ミャンマーの人たちに借金を背負わせてしまうことになるので、供与の正当性も問うべきだと思うんです。今、ミャンマーは外貨不足が深刻です。借款を日本に返済しようと思ったら、福祉とか国内で必要なことを削らなくてはならなくなるでしょう。それをミャンマーの人たちに強いていいのか。
 一方で、2011年の「民政化」の際に日本政府は軍政が返済していなかった借款と遅延金、約三千億円を免除しました。また将来、ミャンマーから返済がなければその分が前回のように日本の納税者負担になる可能性もある。どちらの市民にとってもひどい話なんです。それを誰かが言い続けなければならないと思っています。

―改めて、活動の原動力は何ですか。

(木口)実は本当に疲れ果ててはいますけど、若い人に対する責任のようなものでしょうか。それと、1988年の民主化運動をしてきた人たちがちょうど同じくらいの年代で、自分と同じ年齢の大学生がジャングルに逃げて闘かわなければならなかったことにショックを受けた過去の思いが根底にあるな、と改めて感じています。当時の日本はミャンマー軍政を支援する立場にいて、日本人にもすごく責任があったのに、それがすっかり忘れられていることに忸怩たる思いがある。ミャンマーには、過去に戦争で迷惑をかけたとか、親しみのある国という以上に、日本政府が何をしてきたかをこの機会にもっと多くの人に知ってほしい。そうすれば、日本の自画像もおのずと見えてくると思います。
 今回、NGOではなくてミャンマーでビジネスをしていた人たちが支援に入っていたりしているのは、新しい動きかと思います。市民社会というのは多様なので、NGOだけがやる必要はない。でも、政府や企業への働きかけといったアドボカシーができるのはNGOだと思うので、その意義を活かし続けていきたいです。

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