国際協力の現場から
国際協力の現場から2020/07/13ツイート
2020年5月~6月活動報告(ピースデポ)
『脱軍備・平和レポート』第3号の発行
『脱軍備・平和レポート』第3号を6月1日に発行した。第3号の特集は「INF 全廃条約失効と米露軍拡競争の危機」。米露のミサイルを制限するINF(中距離核戦力)全廃条約が米国の離脱によって2019年に失効した。米国はINF の開発・配備を進めると宣言し、中国を睨んでアジアでのINF 配備も進めようとしている。INF全廃条約は米国とソ連が1987 年に交わした条約で、核弾頭・通常弾頭の搭載を問わず、米国とソ連・ロシアの射程500 ~ 5500㎞の地上発射型の弾道および巡航ミサイルの保有・生産・発射実験を禁止してきた。
本特集ではまず、米国が2018年にINF全廃条約からの脱退を宣言した背景にある、3つの大きな理由を解説した。1つ目の理由は、ロシアが条約違反をしているという認識である。一方、ロシアは条約違反を否定するとともに、米国の側こそ条約違反をしている非難してきた。2つ目の理由は、INF 全廃条約非加盟国によるミサイル保有の拡大である。特に中国がINF の開発・配備を進め、グアムの米軍基地をも射程に収めていることを、米国は東アジア周辺に展開する米軍や同盟国にとっての脅威であるとして警戒を強めている。3つ目の理由としては、国際条約に縛られるのを嫌うトランプ政権の性格を指摘した。
次に、INF全廃条約の成立に至る背景と意義について解説した。本条約は冷戦期の欧州における核戦争への危機感から誕生した条約であり、軍備削減のために米ソが合意した初めての条約である。本条約を契機に米ソの核弾頭は史上初めて減少に転じたほか、本条約は米ソが互いの軍の装備を査察することも認めており、相互の信頼醸成にも寄与した。冷戦終結への布石ともなった本条約の失効は、国際的な軍縮体制の弱体化や、米露関係の悪化を象徴する出来事である。
INF全廃条約失効の日本への影響についても指摘した。INF全廃条約から脱退した米国は、中国を睨んでアジア地域への地上配備型中距離ミサイル配備を進めようとしている。日本に米国のINF が配備されれば、アジア地域で米中露の軍拡競争が引き起こされ、その危険な前線に日本が立つことになる。
INF全廃条約が失効したことで、米露の核兵器の数を規制する枠組みはオバマ政権下の2011 年に発効した新START のみとなった。新START は2021 年が期限であり、延長について米露が合意できるかどうかが問われている。米露の核軍縮の枠組みの行方は、米露間だけでなく、多国間交渉による枠組みの信頼性や、核軍縮をめぐる国際秩序にも大きく影響する問題である。新START を延長できれば、INF 全廃条約失効後の新たな核軍縮の枠組み作りに必要な5 年の猶予を確保できる。国際社会は米国に対話再開を求め、新たな時代の軍縮交渉を実現させるため努力する必要がある。
第3号では特集の他、新型コロナウイルス感染の世界的拡大を受け、それに関連する記事をいくつか掲載した。グテーレス国連事務総長は3月と4月、人類共通の課題であるウイルスへの対策を進めるため、グローバル停戦を呼び掛けた。本誌では停戦呼びかけの翻訳を掲載したほか、呼びかけに対する各国の反応などを紹介した。
前号から開始した「平和を考えるための映画ガイド」は今回も継続し、感染症の拡大のなかで社会の在り方を考える材料となる作品が紹介された。
『ピース・アルマナック2020』の出版
新たな出版物である年鑑書籍『ピース・アルマナック』が6月下旬に完成した(7月10日付で発刊)。『ピース・アルマナック』の編集・刊行に関する仕事は、新人研究員の渡辺洋介さんが中心となって担った。
『ピース・アルマナック』がカバーする分野は、ピースデポが蓄積してきた世界的な核兵器廃絶のための核軍縮・不拡散と日本自身の脱「核の傘」政策、脱軍備のための北東アジアの地域的平和システムの構築に関係する分野が中心となる。それに加えて、今後の世界平和にとって重要な関心事である通常兵器の分野、とりわけロボット兵器や宇宙兵器の問題についても収録した。
冒頭では「日誌」として、7項目に分類して過去1年の主な出来事を年表にした。次いで4章を割いて核軍縮・不拡散を扱った。そして章ごとのテーマを、全般、国連など多国間協議、米国・ロシア・中国、朝鮮半島および中東と分類した。次いで第5章で日米安保と自衛隊を扱い、第6章で自治体と市民に関するテーマを扱った。本来第5章の位置に配すべき通常兵器の問題を、編集の都合で第7章に配した。最後に憲法など基礎資料を第8章に収めた。
※『ピース・アルマナック』の詳細・購入申し込み:http://www.peacedepot.org/other/2800/
朝鮮半島の非核化合意履行監視プロジェクト
4月に発行した監視報告22号「国内産業の自立発展が『正面突破戦』の実態であり、非核化の焦点が米国の敵視政策の撤回であることに変わりはない」の英語版、韓国語版を発行した。
現在、次の監視報告に向けて、朝鮮国連軍や、日本による対北朝鮮制裁、朝鮮半島の南北関係をめぐる動きなどについて調査・議論を継続している。
その他
5月下旬、核廃絶や軍縮に取り組むNGOの世界的ネットワークであるAbolition2000の年次総会(ニューヨークで開催予定だったがオンラインで実施)にピースデポから渡辺研究員が参加した。また、それと関連するオンラインシンポジウムに森山研究員が参加し、北東アジア非核地帯構想について発表した。
4月から開始した交代制の在宅勤務体制は、5月に緊急事態宣言が解除された後も継続している。5月中旬までは事務所には常に一人だけが交代で出勤する体制だったが、その後は新任研究員への教育などを円滑に進めるため、各人の出勤回数を増やし、週に数回は事務所で複数人が同時に勤務する体制とした。
「脱軍備・平和レポート」第3号の発送に合わせ、よこはま夢ファンドを利用した寄附の案内チラシを会員・購読者に送付した。また、会員・購読者への『ピース・アルマナック』発送に向け、会員名簿の整理などを進めた。
2月の「脱軍備・平和レポート」発行開始、6月の『ピース・アルマナック』出版に関連して、ピースデポのウェブサイトを改変する必要が生じている。ウェブサイトの改変について、事務局で議論を進めた。
報告:7月3日 森山拓也