国際協力の現場から
国際協力の現場から2019/10/25ツイート
ピースデポ:韓国統一研究院平和研究室の研究員らとの懇談会
9月中旬、韓国政府のシンクタンクである統一研究院のソ・ボヒョク平和室長からメールが届きました。10月中旬にピースデポ事務所を訪問して、朝鮮半島や北東アジアの平和構築に関して立場や情報を共有したいとの申し出でした。ソ氏は、ここ数年、しばしば来日し、ピースデポの主催するシンポにも韓国市民団体である参与連帯(PSPD )の一員としてパネラーとして来ていただくなど、何回か交流をしていましたので、ピースデポとして受け入れることを決め、準備を始めました。
10月15日、韓国統一研究院平和研究室から室長と研究員らの合計5名がピースデポの事務所に来所し、日韓関係や日本政府の外交政策、北東アジアの安全保障問題について議論しました。当日は、2時間のスケジュールで、ピースデポから2人、韓国統一研究院から1人が報告を行い、意見交換しました。言語は、それぞれネイティブで話し、大畑正姫さんに逐次通訳をしていただきました。
ピースデポからは梅林宏道特別顧問が「朝鮮半島の平和プロセスの成功には、地域における軍縮アジェンダの復権が急務」と題して発表しました。梅林特別顧問は、北東アジアでは、地域で協調した平和体制を構築するという意識が市民には弱いと指摘し、「協調的安全保障の意識」を根付かせる必要があると述べました。日韓に関しては、米国と関係を保ちながらも、独立した地域的安全保障を追及し、各国の市民社会に即した共通意識の形成を求めました。日本に関しては、朝鮮半島の平和プロセスが、憲法9条による「武力行使を必要としない地域安全保障体制」の構築と市民社会における「国を超えた平和意識」を形成するチャンスだと主張しました。最後に、板門店宣言(2018年4月27日)、米朝シンガポール声明(2018年6月12日)、9月平壌宣言(2018年9月19日)の履行は「朝鮮半島非核兵器地帯」の実現に行き着くとして、ピースデポが提唱している「北東アジア非核兵器地帯構想」についても説明しました。
次に、森山拓也研究員が「DPRK(北朝鮮)の短距離ミサイル発射と東アジアの安全保障環境」と題して発表しました。森山研究員は、今年5月に北朝鮮が18か月ぶりに短距離弾道ミサイル発射実験を実施したことについて、北朝鮮の一連のミサイル発射実験やその意図、北朝鮮の防衛戦略を分析しました。また、北朝鮮の隣国である韓国や日本が防衛費を増額して軍事力を拡大していることが地域の軍事的緊張を高めていると指摘し、「日米中露などを含めた地域全体の緊張緩和」が必要だと述べました。
韓国統一研究院からは、イ・キテ研究員が「朝鮮半島の平和体制に関連した日本の立場」と題して発表しました。イ研究員は、現在の日本の外交政策が中朝の脅威に対応するため、日米同盟を強化するという戦略の下で展開されていると報告しました。また、朝鮮半島の非核化及び日朝関係、朝鮮戦争終戦宣言による朝鮮半島の状況に関して、日本の立場を分析しました。最後に、朝鮮半島平和体制への日本の参加と日韓協力について提案されました。
発表の後は、安全保障問題だけでなく、ナショナリズムの意識など、幅広い話題に関して意見交換を行い、有意義な時間を持つことができました。
平和研究室の皆さんは、10月14日から16日にわたって、朝鮮大学、津田塾大学、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)などを回り、意見交換を行ったようです。
日韓両市民NGOの連携はずっと前からありましたが、日本の市民NGOと韓国政府直属の研究員とのつながりはあまり具体化されていなかった中で、今回、韓国政府直属の研究者と日本のNGOが交流し、北東アジアの安全保障に関して意見交換したことは、ピースデポに新しい基軸をもたらしたと思います。また韓国統一研究院の研究員にとっても、今まで日本のNGOと全く接点がなかったという方が数名いらっしゃいました。ピースデポが北東アジアの平和を願う日本の市民の立場を伝え、日韓共助への意思を示せたことは、朝鮮戦争の終結や朝鮮半島の平和体制構築、また、北東アジア非核兵器地帯構想の実現に向けて大きな意味があったと思います。ピースデポへの訪問は短い時間でしたので、みなさん話し足りない様でしたが、その分は、夕食を共にすることで、交流は深まったと思います。
今回の訪問が、韓国統一研究院平和研究室のみなさんにとって、日本市民との連帯を深めるきっかけになることを願います。またピースデポにとっても、私にとっても大変貴重な機会となりました。
(平井夏苗)