国際協力の現場から
国際協力の現場から2019/04/10ツイート
FRJ:イギリスに学ぶ難民・難民申請者の生活保障のあり方
今年1月、なんみんフォーラムでは英国を代表する難民支援NGOである、Refugee Councilよりアドボカシー部長のAndy Hewett氏を招聘し、英国の難民保護を学ぶべく、公開セミナーや関係機関との勉強会などを開きました。英国のRefugee Councilは1951年より活動をはじめ、本部をロンドンに置いています。英国国内の難民や庇護希望者への支援やアドバイスを提供するとともに、その他の市民団体のサポートを行い、またネットワークを活かした調査研究や政策提言活動、キャンペーンなどを実施しています。2019年2月現在、英国が難民を受け入れる方法は主に3つあり、第三国定住(一時的な庇護を他国で受けている難民の受け入れ)、ダブリン条約に基づくEU加盟国からの移転、そして英国内での庇護申請者の保護です。日本でも、第三国定住やシリア人留学生などの諸外国で避難生活を送っている人々の受け入れと、日本国内での庇護申請者の保護が行われています。
英国の庇護制度
英国では、2017年8月から2018年9月までの1年間で、前年から4%増の27,966の新たな庇護申請があり、主な出身国はイラン、イラク、エリトリアでした。この間、Refugee Councilは、難民と庇護氏希望者とあわせて8.642名を支援しています。日本では、2017年は新たに19,629の申請があり、同期間に20人を難民認定、45人に人道配慮よる在留許可を行なっています。一方英国では、例年庇護申請者の3割ほどが難民認定または人道的保護を受けています。保護を受けると在留資格が与えられ、就労の機会や一般の公的福祉を受ける機会、家族統合の権利などが得られます。日本と異なり、難民認定と人道的保護の間に大きな権利や公的支援の違いがない一方で、公的な社会統合支援サービスはどちらの場合にもありません。そうした背景もあり、Refugee Councilでは庇護申請中の支援のみならず、その後の社会統合支援も行なっています。保護を受けられなかった場合には、異議手続、司法審査、更なる法的措置、自主帰還または退去強制のいずれかの選択肢があり、細かい手続き内容、法制度の整備にはもちろん違いはありますが、日本と流れの外観は似ています。一次審査以降の手続きが長期化している点も共通しています。
庇護申請者への支援
多くの国では、庇護手続き中に人々が不安定な地位に置かれ、就労権がないといった状況に置かれるため、庇護申請者のための支援制度を持っています。英国においても、庇護申請者は就労を許可されていないため、1999年の出入国管理および庇護法により設けられた庇護支援があります。同法に基づく支援は、申請者の財産、収入および他の受けられる支援のレベルが基本的な生活ニーズと十分な住居のために要求される規定水準を下回る場合に、適用されます。庇護支援は、根拠法の名称に基づき、3種類に分かれます。英国の難民認定率はおよそ3割ですが、2018年9月末時点で3種類合わせて5万人弱の難民申請者がAsylum Supportの支援を受けるなど、大多数の難民申請者の最低限の生活を担保していることがわかります。
<3種類のAsylum Support>
- 第98条:第95条に基づく支援の可否が決まるまでの「食事付きホステル」での一時的滞在
- 第95条:庇護申請の結果が出るまでの庇護申請者用住居および金銭的支援、または金銭的支援のみ
- 第4条:不認定後の庇護申請者用住居及び支援カードによる生活費支援、または食事付き住居
日本では、庇護申請中に就労許可を得られる場合もあれば、認められない場合がありますが、生活困窮者と認められる難民認定申請者に対しては、外務省による公的なサポートがあります。保護費(生活費・住居費・医療費)の支給や、緊急宿泊施設の提供が行われ、例年およそ300〜400人がサポートを受けていますが、法律に基づいた制度ではありません。
英国では、難民申請もAsylum Supportもどちらも内務省が担当しています。途切れのない支援制度が構築されていることも特徴で、第98条の支援は第95条の支援に基づく住居に移動する人に終了し、第98条も難民認定を受けた場合は決定から28日間継続、不認定の場合も決定後21日以内に支援停止がされます。第4条は難民不認定を受けた者のうち、英国を出国できない理由があると認められる人々(法律上の理由、医療上の理由、または自主機関手続のため)が対象であり、強制送還を妨げる事情が解決するまで支援が継続されます。日本では、こうした初期支援が制度としては整っておらず、審査期間中にホームレスとなってしまう状況や、保護費の平均受給日数よりも難民認定手続きにかかる平均日数のほうが長い状況が続いています。難民認定を受けた場合でも決定の即日に保護費の支給が停止されてしまうため、再び困窮のリスクが高まります。また、英国ではAsylum Supportへの申請が不許可となった場合は、法律扶助はありませんが庇護支援裁判所(Asylum Support Tribunal)への異議申し出が可能であり、不服申し立ての手続きのない日本とは異なります。
66名の参加があった公開セミナーでは、こうした日英の難民認定申請者の支援への取り組みの違いを、難民申請中の在留・就労許可の状況や難民認定手続を踏まえながら確認し、後半には会場とも活発な質疑応答を行いました。参加者の半数から質問をいただき、多くの方に関心を持っていただけたことがわかりました。セミナーと並行して、外務省、難民事業本部、国連難民高等弁務官事務所との勉強会も開催しました。
生活保障、健康や福祉に関わる課題は、重病者や妊産婦など、脆弱性の高い難民認定申請者の生活には非常に深刻な影響を与えるだけでなく、数年にわたる不安定な生活は社会的孤立を生み、たとえ日本政府より受け入れの決定が出されても、その後の地域での定住をより困難なものにする恐れもあります。FRJでは、2009年から定期的に保護費や緊急宿泊施設に関する意見交換会を外務省と開催してきました。各地の支援団体では、個別のカウンセリング、シェルター提供、簡易宿泊所の紹介や宿泊費の一時的な支給、食事・日用品の支給等を行っていますが、民間での恒常的な支援は困難を極めています。FRJでは、制度の狭間に落ちてしまうニーズを拾い上げ、不安定な生活を余儀なくされる難民申請者の暮らしを守るために法制度や公的サービスがより良い機能をもつよう、諸外国の事例も踏まえながら、今後も政策への働きかけを進めていきたいと思います。(檜山怜美)
*本事業は、独立行政法人福祉医療機構による平成30年度社会福祉振興助成を受け実施しました。