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国際協力の現場から

国際協力の現場から2015/11/05

ACCESS:子どもの権利に無頓着だった村で


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子どもの権利に無頓着だった村で

 フィリピンの小学校就学率は95.2%。意外に高いと思われる方が多いのではないでしょうか。24年前とくらべ、約1割の増加となっていて、子どもたちを取り巻く環境が改善されていることがわかります。ただ、いまだ課題なのは小学校の卒業率です。1991年に66.5%だった卒業率は、2012年で73.7%。改善はみられるものの、依然3割近い子どもたちが小学校を卒業できないまま大人になっていっています。

 私たちはそうした現状を踏まえ、小学校卒業のための奨学金プログラムを18年間続けてきました。経済的な理由で学校に通い続けることが難しい子どもをサポートする事業で、2015年度は197人をサポートしています。「無償教育」にも関わらず、教育省の予算不足から学校はさまざまな費用を請求してきます。奨学金プログラムでは、そうした諸費用、学用品、給食などを提供するほか、週末には補習授業や奨学生会を行っています。

access24 その際、物質的なサポートだけに終わらせないよう、気をつけています。今力を入れて取り組んでいるのは、子どもの権利を守るための意識向上です。日本では1990年代以降、体罰が深刻な問題として意識されるようになりましたが、フィリピンでは子どもへの体罰はまだまだ当たり前のことと考えられています。そこで、2011年から奨学生と保護者を主な対象とした子どもの権利セミナーを開始しました。しつけの一環として叩いたり大声で怒鳴りつけることも子どもの権利侵害であることを伝え、同時に子どもにとって本当にプラスになる子育て・しつけのやり方なども伝える連続セミナーです。村役員でさえ、子どもの権利を保護する法律があることを知らず、体罰や虐待を許容しているという状況からのスタートでした。

 約4年間の活動の結果、セミナーを実施した村では子どもへの体罰は滅多に見られなくなり、子どもに声を荒げる保護者も少なくなりました。同村では、セミナーを受講した保護者たちの働きかけにより、村議会の中に「子どもの保護のための村評議会」が設立されました。2012年に設立されたこの評議会の提案により、2013年には村議会が「子どもに優しいコミュニティ」宣言を採択。2014年は同村にて、村の保安官による夜間見回りが導入されたり、子どものタバコや酒の購入を規制する条例が施行されました。女性や子どもへの暴力や虐待を訴えるための手続きも整備されました。

 子どもたちが置かれている環境には、まだ解決すべき課題が山積みです。しかし、地道な啓発活動が住民の方々を動かし、小さくても着実な変化を生みだしていけることをこの数年間で実感しています。(野田沙良)

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*出典
The Philippines Fifth Progress Report-Millennium Development Goals Executive Summary(NEDA/ UNDP)