国際協力の現場から
国際協力の現場から2015/10/02ツイート
access:「人々は僕らをゴミのように扱う」
「人々は僕らをゴミのように扱う」-貧困層への差別と若者たち
「臭いから、早くドア閉めて」
都市スラムの前で拾ったタクシーで、運転手が私たちに投げかけた言葉です。貧困層への差別意識を目の当たりにした瞬間でした。
この日私は、新事業の立ち上げを予定している都市スラムを、学生ボランティア3名とともに訪問しました。フィリピンの首都マニラでも、最も名の知られた巨大な都市貧困地区の一角で、ヘルピング・ハンドと呼ばれる地区です。周辺に暮らす若者たちのグループACYS(Alliance of Concerned Youth and Students)のメンバー11人に迎えられ、地域内を散策したり、メンバーのダンスや歌を見せてもらったり、彼ら彼女らの日々の暮らしについてじっくりと話を聞かせてもらいました。
都市スラム訪問は何度も経験していますが、この地区の環境の悪さには、あらためて言葉を失いました。コミュニティに足を踏み入れるなり、発酵したゴミの鼻をつく臭いに吐き気がして、「今日1日、本当にここで過ごせるだろうか」という不安が頭をよぎりました。足元は前夜の雨でぬかるみ、真っ黒くて大きな水溜りがあちこちにあります。数分ごとにぬかるみに足を取られ、どう頑張ってもサンダルの中が泥だらけになってしまいます。「ここでは、きれいな足で生活することすら不可能なんだ」と実感しました。
案内してくれた若者の一人であるジェセルさんが、廃品回収業者の店の前で教えてくれた話が、とても衝撃的でした。「毎晩、定職につけない男性たちが繁華街のファーストフード店を回り、路上に出されているフライドチキンなどの食べ残しが入ったゴミ袋を回収してきます。明け方には、店の前の2.5メートルほどの通路を半分埋め尽くすゴミ袋が集まるんです。夜が明けると、地域住民が皿を持って集まってきて、その中から食べられそうなチキンを選びだし、廃品回収業者にお金を払ってそれを買っていきます。多くの人々がそうして買ってきたチキンを再調理して食べているんです」
この日、私たちを案内してくれたメンバーの一人で、ラップソングを披露してくれた17歳の少年は、学校に通いながら、深夜には街中を回ってファーストフード店のゴミを拾う仕事をしていると話してくれました。彼が歌ってくれた歌詞の一部が、強く心に響いてきました。
『人々は僕らのことをゴミのように扱う でも、僕ら若者は社会の希望だ』
同じフィリピン人からも見下され、偏見の目で見られるという現実。それでも、自尊心を失わずに生きていこうとする、強い思いが歌には込められているように感じました。
自ら働かなければ学校に行けず、しかも非人間的な仕事や違法な仕事に従事しなければならない若者たち。家庭環境が複雑な子も少なくなく、皆それぞれが多様な悩みを抱えて生きていることを実感しました。その上、このコミュニティの中には、安心して休める場所があるようには思えませんでした。厳しい暑さ、臭い、騒音、ゴミ、汚染された水、のみ、ハエ、数時間で鼻の穴が真っ黒になるすす混じりの空気・・・彼女ら彼らは、こうした厳しい環境から逃れることはできないのです。「生きるって、なんて過酷なんだろう」、そう思わずにはいられませんでした。それにも関らず、若者グループACYSのメンバーは笑顔で私たちを迎え、きらきらした目で日々のことを話してくれました。私はその姿に、たくさんのエネルギーをもらいました。
約7時間の滞在の最後に、若者グループACYSのリーダーは、こう話してくれました。「わざわざ時間を割いて、私たちのコミュニティに来てくれてありがとう。日本のあなたたちが友達でいてくれて、こうして会いにきてくれることで、私たちはとても励まされます。私たちも大切な存在なんだ、って感じられるのです」
私は、またここに来よう、と強く思いました。私たちにできることは小さなことでしかないけれど、少なくとも何度でもここを訪れ、彼女たちと友人であり続けたいと思いました。(野田沙良)
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