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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2009/10/01

M.W:ラオス・環境と人々の生活のためのメディアプロジェクト


メコン・ウォッチ活動報告

 メコン・ウォッチは、ラオスのテレビ局に対し環境に関するドキュメンタリーの制作を支援しています。ラオスの各県にはそれぞれテレビ局があり、国の放送を中継するとともに、独自の放送枠を持っています。しかし、予算と人材の不足から独自制作はほとんど行われていませんでした。活動は二〇〇四年から、中南部の四県で始まりました。どの県も機材が不足していることは知っていましたが、当初、カメラの無い県まであり、急遽タイで中古ビデオカメラを数台購入し、提供したこともあります。

 制作の予算も非常に少なく、スタッフの経験や電話取材から番組の構想を作ります。また、公共交通機関もなく雨季は移動も困難な中での撮影にどの県でも苦慮しています。それでも、数か月で最初の作品が出来上がったのを皮切りに、作業は順調に進みました。現在まで約六十本の作品のストックが出来上がり、「ブン・バーン・ハオ(私たちの郷を見る)」という番組タイトルの元、各県で放送されています。

 自然が豊かなラオスの主な環境問題は、自然資源とその持続的利用です。今まで、自分たちの食べる分だけを取れば事足りたものが、最近の現金経済の浸透と道路の改良で変わり、人々はより遠くの市場へアクセスできるようになりました。農村部で現金を稼ぐ重要な手段は身近な自然資源を売ることですが、これを放置すれば資源は枯渇していきます。人口の八割が農村で暮らし、自然の恵みに頼る自給自足に近い生活を送るこの国にとって、魚や植物といった自然資源の劣化は致命的な問題です。ある村人は「市場は『満腹』することを知らない」と言っていましたが、まさに市場は食べられる量をはるかに超えて資源を吸収していきます。資源利用の崩壊を防ぐための有効な規制や管理は、地域の人たちの中から生まれなければ意味を持ちません。そのため、番組では地域の人たち自らが考えられるよう、疑問を呈する形で問題を伝えてきました。

 一方、ダム開発なども大きな環境負荷を生んでいます。しかし、ラオスでは言論の自由が制限されており、国家プロジェクトに対する問題提起は非常に難しいのが現実です。それでも、徐々にではありますが、急激な開発や環境破壊への危惧が広がっています。私たちは、ラオスが本当に発展していくためには、開発に伴う問題を解決するための議論の場が必要で、そのためには情報を正しく伝えることが最重要と考えています。この事業によって環境問題について語り、積極的に取り組める気運が生まれ、ラオスの人々が本当に必要な開発と別の選択もある事業を選別できるようになることを期待しています。

 しかし、この小さな芽を育てていくための課題は山積しています。やはり、制作費の獲得が大きな課題です。最近、業績が評価され県が独自の予算をつけてくれるところも出始めました。メコン・ウォッチも、助成金だけでなく継続的な支援ができるよう募金活動を始めましたが、苦戦しています。しかし、ラオス側が独自に安定した制作を続ける予算確保が可能になるまで、様々に工夫しながら支援を継続していく予定です。(木口由香)