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国際協力の現場から

国際協力の現場から2017/07/22

FRJ:難民を受け入れめぐる世界と日本の状況


2016年を振り返って:難民を受け入れめぐる世界と日本の状況

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シェルターで日本語の勉強をする難民申請者の様子。母子家庭や家族、単身男性などを受け入れています。

 先月6月19日に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から、グローバル・トレンズ・レポート(年間統計報告書)が発表されました。このレポートは、2016年1年間の難民に関する統計をUNHCRが独自にまとめたものです。それによると、2016年は、紛争、暴力、迫害により世界で強制移動を強いられた人は6560万人に上り、2015年に引き続き、過去最多を記録しました。その半分弱を、シリア、コロンビア、アフガニスタン、イラク、南スーダンの出身者が占めています。 6560万人の約3分の2にあたる4030万人は、国内で避難を余儀なくされている「国内避難民」です。一方、約3分の1の2250万人が母国を追われて「難民」となっています。さらに、残りの280万人が世界各国・地域で難民としての保護を求めて結果を待っている「庇護申請者」です。庇護申請の75万5千人は保護者のいない子どもによるものでしたが、実際はもっと多いといわれています。

 レポートでは、各国の難民受け入れ規模も知ることができます。国内メディアでは、欧州の様子が「難民危機」として盛んに取り上げられてきましたが、世界的にみると、大多数の難民を受け入れているのは発展途上国という現実があります。2016 年の受け入れ数トップ10の9つは発展途上国が占めています。もっとも多く難民を受け入れたのはトルコで、その多くはシリア出身者が占めます。トルコの次には、パキスタン、レバノン、イラン、ウガンダが続きます。先進国の中では、ドイツが最も難民を受け入れていて、2015年末と比べると、ドイツ国内で暮らす難民の数はほぼ倍増して、66万9500人となりました。

 こうした事態を受け、2016年は多くの国際会議において人道危機への対応とあわせて、難民の受け入れに関する各国の責任分担が盛んに議論されました。9月19日には、国連本部で「難民と移民に関する国連サミット」が開催され、80カ国の首脳や閣僚などが参加しました。サミットでは、難民の受け入れや支援で各国が責任を共有し協力することが表明され、移民と難民に関する「ニューヨーク宣言」が採択されています。これに先立ち、なんみんフォーラムを含む日本の難民支援を行う22の民間団体では、内閣官房と外務省へ日本における難民支援の充実を求める申し入れを行っています。

 しかしながら、各国・地域での責任分担や協力に関しては、いまだ多くの課題が残されています。昨今の様子を見ると、2017年に入っては、トランプ米大統領によるイスラム圏6か国からの入国禁止令が条件付きで執行されています。その中には全ての国からの難民の受け入れについて120日間の停止も含まれるなど、米国の難民受け入れやそのリーダーシップの低下が懸念されています。欧州連合(EU)でも、2015年9月に、ギリシャ、イタリアなどの負担を軽くするため、これらの国に到着した難民を他の加盟国が分担することを決定していますが、分担に反対する国々や、その合意した国においても受け入れが遅れたりしています。一方、先進国首脳会議(G7)のメンバーの中でも、カナダのトルドー首相やドイツのメルケル大統領は積極的な難民の受け入れや問題解決の姿勢を崩しておらず、メルケル首相の支持率も一時期低迷しましたが、今年6月末の時点で約40%まで回復しています。また、アジアでは台湾が難民法制定に向けて動いています。

 2016年、日本では初めて庇護申請者が1万人を超え過去最高を記録し、1年間で28人を難民として認定しました。また、難民としては認められませんでしたが、人道的な配慮によって日本への在留を認められた人は97人でした。こうした人とは別に、日本政府は難民キャンプなど他国に避難している難民に日本への定住の道を開く「第三国定住難民受け入れ事業」を実施していますが、2016年はマレーシアからミャンマー難民7家族18人を受け入れています。これらを合わせると、2016年に日本政府が受け入れたあるいは保護した人たちは合計143人でした。残念ながら、これは隣国韓国の346人と比べても、半分以下の規模にとどまっています。一方、受け入れはこれからですが、日本政府は国際協力機構(JICA)の技術協力制度や文部科学省の 国費外国人留学制度枠を活用したシリア人留学生150人の受け入れ計画を発表しています。2016年を経て、日本が1978年から受け入れた難民の総数は、1万4,673人となりました。日本で生まれた子どもたちがいることを考えると、実際は難民にルーツを持つ人たちがもっと多く暮らしていることになります。

 日本の難民受け入れ分野での課題は、規模の問題もありますが、難民認定制度など法制度の問題、庇護申請者や難民の生活保障の問題、受け入れたその後の定住をめぐる問題、そして受け入れる私たち自身の難民への理解の問題など、様々なものがあります。2016年の1年間、なんみんフォーラム(FRJ)は2012年からの継続事業として、法務省と日本弁護士連合会ともに、2012年から難民

9月には、FRJも加盟しているアジア太平洋難民の権利ネットワーク(APRRN)の総会とサイドミーティングがバンコクで開かれ、FRJ事務局も参加し、情報交換や連携に取り組みました。

9月には、FRJも加盟しているアジア太平洋難民の権利ネットワーク(APRRN)の総会とサイドミーティングがバンコクで開かれ、FRJ事務局も参加し、情報交換や連携に取り組みました。

 問題に関する三者協議会を開いてきました。3月にはより具体的な問題について意見交換を進めるため、この協議会の下に作業部会を設け、なんみんフォーラム加盟団体から、テーマに対しより専門性をもつ2名を派遣しました。また、空港到着時に日本政府へ庇護を求めたものの住居がないために入国管理局の施設に収容されてしまうという事態を防ぐため、法務省と日本弁護士連合会との連携のもと、そうした人たちへ住居を提供し、加盟団体が提供する法的・生活支援に繋げました。この三者での連携スキームについては、国際的には不必要な入管収容を防ぐ取り組みとして「収容代替措置」と呼ばれていますが、10月には海外専門家を招聘し、収容代替措置に関する研究会や勉強会を開き、政策決定者への働きかけを行いました。また、生活保障の問題については、困窮状況や支援現場の状況について2009年から継続している外務省との意見交換会での議論を進めたほか、困窮度や脆弱性の高い庇護申請者に対しては住居を提供しました。また、支援団体向けに全国会議やセミナーを開き、情報交換や議論、市民社会のキャパシティビルディングを進めてきました。日本社会に向けては、6月20日の世界難民の日に入退場自由のブース型イベントを開催したほか、年末年始には英国発のコスメティックブランド「ラッシュジャパン」の難民支援キャンペーンにパートナー団体として参加しました。

 2017年もこうした取り組みは引き続き継続し、さらにより良い成果に向けて組織体制も整えながら、活動の強化に努めていきます。秋には支援団体の取り組みをまとめた報告書の作成なども予定しているので、ぜひまたご紹介できればと思います。(檜山怜美)