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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2022/09/21

ソマリア中部での投降兵リハビリテーションセンターの進捗


 ソマリアでは、いわゆるテロ組織アル・シャバーブからの逮捕者や投降兵の脱過激化・社会復帰支援に加え、アル・シャバーブからの投降(脱退)をサポートする取り組みを行なっています。今回は、中部ガルムドゥグ州でアル・シャバーブからの投降兵を受け入れるセンターの進捗について進捗をお伝えします。

 中部ガルムドゥグ州は、東部の約半分をアル・シャバーブに支配されていることなどから戦略的に重要な地域にも関わらず、様々なリスクがあることから紛争解決に向けた取り組みが不足していました。そのため、仮にアル・シャバーブから抜け出したい若者がいたとしても、彼らが安全に保護される場所が限られており、また仮に安全な場所に逃げ出したとしても彼らの包括的なケアとリハビリテーションができていない状況が続いていました。

 そこで私たちは、機動性の高さを活かし、基礎教育、イスラーム教再教育ゼミ、ケアカウンセリング、職業訓練などの包括的なプログラムを提供するリハビリテーション施設を州政府と協働で運営しています。また、地域コミュニティの代表者との対話や説明会、さらに今月からは地元のラジオ局から情報発信を行うことで、アル・シャバーブにいる若者や、組織を抜け出したにも関わらず地域で取り残されている人々にリーチしていく取り組みも行っています。

 本センターではこれまでに合計9名を受け入れており、一人当たり6ヶ月から1年ほどここで寝泊まりし、プログラムを修了したのちに社会に戻っていきます。

ソマリ語の読み書きをはじめとした基礎教育プログラムの様子

現在は3〜4つのベッドがある寝室を合計4部屋設置

リハビリテーションセンター内で提供される食事の様子

プログラムに関する情報発信を行う現地のラジオ局

 

 ここからは、現在受け入れている対象者の1人であるボロ(20歳)のストーリーをお伝えします。ボロは、15歳の時にアル・シャバーブに加入しました。出身は、リハビリテーションセンターのある中部ではなく南部ゲド州で、母親は11歳の時に病気で亡くなっていたため、父親と兄弟とともに暮らしていました。彼の地元もアル・シャバーブの影響を強く受けており、実際に政府軍とのせめぎ合いが続いていた場所だったため、その戦闘の中で大切な友人を失いました。そうした悲しい現状を変えることを望み、また、お金にも困っていた上に妻が得られることからアル・シャバーブに加入することを決めました。最初の3ヶ月間は、アル・シャバーブの思想などを含む教育プログラムに加えて軍事訓練を受けました。厳しいトレーニングを乗り越えた後には、100人規模の兵隊の1人として中部ガルムドゥグ州に展開されました。特に大規模の戦闘がある際には、指揮官からタブレット状の薬物を渡され、それによって恐怖心を和らげながら戦っていたと振り返ります。

アル・シャバーブからの投降兵ボロ(20歳)

 

 しかし、ムスリムを守る戦いを掲げているにも関わらず同じソマリア人同士で戦うことを疑問に思ったことから、投降(脱退)を考え始めました。また、やぶの中で生活しながら戦うことは体力的にも精神的にも大変な苦労がありました。様々なリスクがあるため不安もありましたが、すでに投降していた彼の友人が手ほどきをしてくれたことに加え、私たちが政府と協働で実施している相談窓口とも連携し、監視の目が緩くなるラマダーン(日本では断食月として知られる)の期間が終わった日の夜に逃げ出すことに成功しました。彼にとって私たちのリハビリテーション施設は非常に過ごしやすいもので、スタッフの優しさや、衣食住が安全な場所で確保できていることの喜びを感じていると笑顔で語ってくれました。

2022年7月16日に実施したスタディツアーの様子

 

 彼の将来の目標は、故郷に戻り、洋服販売を中心としたビジネスをおこなって家族とともに暮らすことです。その実現に向け、今後も彼のやり直しを最前線で支えていきます。