国際協力の現場から
国際協力の現場から2021/06/15ツイート
テロを止める、紛争を解決する。前例がないなら、私たちが挑戦する
「世界最悪の紛争地ソマリアをどうにかしたい」そんな想いを持った学生から、私たちの活動ははじまりました。
代表理事・永井が早稲田大学に入学した2011年、「ソマリアは『世界最悪の人道危機』から『想像もできない比類なき人類の悲劇』へと変貌している」という国連の緊急プレスリリースに出会いました。厳しい紛争と飢饉の状況を知り、何かできることはないかといくつかの国際協力団体に問い合わせましたが、治安状況などを理由にどの団体もソマリアでは活動していませんでした。最も取り組みが必要とされていることを理解していながらも、危険すぎることや有効な対応策がないことから誰も何もできていないことに強い問題意識を抱きました。「リスクや未熟さを踏まえてでも、見て見ぬふりをするのではなく、今・ココでできる最大限をやるべきではないか」、そのように考えた永井をはじめとするメンバーのもと、2011年9月、ソマリアに特化した唯一の学生NGO「日本ソマリア若者機構」が設立されました。
2013年9月からは同年代のソマリア人ギャングたちと対話の場を創り、彼らの脱過激化と社会復帰を実現する「Movement with Gangsters」を開始。テロ組織からリクルート対象となっていると同時に、治安悪化の主要因であるギャングたちを、同じ若者として受け入れて変革の主体者に導くことは、彼らと同世代の学生だからこそできることでした。2017年4月にはソマリア以外にも苦しんでいる国や地域を救うべく、「テロや紛争のない世界」を目指して法人化。現在は、国連や現地政府とも連携して4カ国でプロジェクトを実施しています。
「テロリストになりたくて生まれてくる人間なんていない。」
歪んだ社会や日々の苦しい生活をなんとかしたい。気づいたら、武器を持っていた。テロや紛争は、そうするしかなかった人たちでできています。そしてその大半は若者です。
私たちは、そんな紛争の当事者の人生に寄り添いながら、テロリストではない未来を創る、世界でも数少ないNGOです。テロや紛争のない世界は、決して夢物語ではない。私たちはそう信じています。
【私たちの問題意識〜なぜテロと紛争に取り組むのか〜】
ある日突然、大切な人の命を奪うテロ。2020年、ソマリアではテロを含む政治的暴力事件が2,523件発生し、報告されているだけで3,132名の方々が命を落としています。直接的な被害を引き起こすだけではなく、難民問題や貧困などを引き起こす根源的な課題ともなっています。また、世界的に見ても2019年時点で、1年間でテロ発生件数は8,495件、テロによる死傷者は20,329人という数字が報告されており、過去20年間で約6倍ものスピードで増加傾向にあると言われています。
これらの背景には「イスラーム過激派組織」の台頭があります。イスラーム過激派組織とは、イスラームの教義への偏った解釈に基づき、その理想の社会の実現のためには暴力的な犯罪行為を辞さない組織を、非支持者側から表した言葉です。テロと紛争による甚大な被害の背景には、2011年の米国同時多発テロと対テロ戦争、それに伴うイスラーム過激主義組織の台頭があります。イラク・シリアにおけるイスラーム国、ナイジェリア・チャド湖周辺のボコ・ハラム、アフガニスタンのアル・カイーダ、そしてソマリアのアル・シャバーブをはじめ、世界各国でイスラーム過激派組織が活動を拡大しており、世界の紛争の約44%に当事者として関わっています。
テロ組織が絡んだ紛争をどう解決するか。国際社会はいまだに「答え」を見つけられずにいます。従来、紛争解決は和平合意の締結によって行われてきました。これは紛争当事者同士が対話をすることにより、解決を導く方法です。しかし、こうした「イスラーム過激派組織などに代表されるテロ組織が当事者として関与する紛争」においては、彼らと対話の場を持つこと自体が非常に難しく、国際社会は解決のための新しい方法を模索しています。
トランプ前米政権のもとで、米軍のソマリアにおける空爆の件数は過去最高となりました。しかし、テロの数は依然として増え続けています。武力介入の必要性を完全に否定することはできませんが、それだけでは不十分です。だからこそ、受け入れる姿勢に立ったソフトアプローチが重要だと考えています。
【私たちが取り組む「過激化防止」と「脱過激化・社会復帰支援事業」】
過激化リスクが高い地域・対象に対する「過激化防止事業」と、テロリストやギャングなどの紛争当事者が武器を捨てて社会に戻ることを支援する「脱過激化・社会復帰事業」を基軸に、テロと紛争の解決にアクセプト・インターナショナルは取り組んでいます。2013年から現場ベースで創り上げた独自のプログラムであり、国連をはじめ国内外で高い評価を受けています。
「過激化防止」
過激化防止では、過激化リスクが高い若者をはじめとする対象者が、過激派組織へ加入しない道を選べるように支援します。テロ組織加入の理由は様々ですが、その多くは経済的困窮や社会からの排斥、宗教的な思想などによるものです。心理的なレジリエンスの構築や収入創出のための支援、社会での居場所づくりなどを実施しています。誰もテロリストとして生まれた人はいません。彼らの置かれた立場や環境を理解し、寄り添いながら実際的な変化を生み出すための支援を行っています。
「脱過激化・社会復帰+投降促進」
脱過激化では、過激な思想や違法性の高い行為からの脱却を目指します。自身の信念の達成のためであれば暴力的・違法な手段を選らんでもいいという考え方を、そう考えるに至った経緯や思想体系に寄り添いながら変革します。社会復帰では、対象者が経済的・社会的に自立して、地域コミュニティの中で生きていける状態を目指します。加えて、ホットライン番号や投降方法を明記したリーフレットの展開により、テロ組織からの投降を促しています。
【ソマリア事業】
ソマリアでは、DRRプロジェクトを行なっています。DRRとは、脱過激化・社会との接点構築・社会復帰を意味し、これを中心に据えた実用的なプログラムをソマリア政府に提案し、2018年10月より協働で実施してきました。直接的な対話ができないからこそ、紛争当事者の適切な社会復帰を導き、テロ・紛争解決に向けた好循環を作ることが必要です。具体的には、ケアカウンセリング、職業訓練の補助、社会側の和解に向けた対話セッション、幻滅対策セッション、身元引付人の調整、釈放後のフォローアップなどのプログラムを、包括的にアル・シャバーブの投降兵や逮捕者に提供し、社会復帰を後押ししています。こうした取り組みにより、2021年5月時点では、アル・シャバーブの投降兵108名、逮捕者113名を受入、彼らの脱過激化と社会復帰を実現しました(間接支援を含めると投降兵320名、逮捕者720名へのプログラム提供)。現場での継続的な活動を許されている唯一の組織として今後もインパクトの最大化に努めてまいります。