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国際協力の現場から

国際協力の現場から2016/09/13

FRJ:難民の収容を防ぐ ーなんみんフォーラムの取り組み


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難民の収容を防ぐ ーなんみんフォーラムの取り組み

 なんみんフォーラム(FRJ)事務局の檜山です。FRJは、日本に逃れた難民を支援する団体のネットワークとして活動しています。

 世界中の難民のうち、先進国に逃れられる人はごくわずか。難民はどのようにして、日本のような国に逃れてくるのでしょうか。今回は、日本に到着して難民が直面する「収容」のリスクと、それについてのFRJの取り組みについてご報告したいと思います。

◆難民の多くは、飛行機で日本へ逃れてきます

 2015年、日本で難民としての保護を求め、難民認定制度へ申請を行った人は、7,856名でした。前年の5,000人に比べて52%増と、ここ数年、難民申請者数は増加の一途を辿っています。そして、この難民認定制度は、日本国内の入国管理局のみで申請を受け付けている制度であるため、海に囲まれた日本では、まず難民申請者の多くは飛行機で日本の空港に降り立ってから、手続きに繋がっていくことになります。具体的には、空港での入国審査の時点で庇護を求める、あるいは一度入国した後に申請手続きを行います。法務省によれば、2015年に空海港で難民申請を行った人は173名でした。よって、空港の入国審査の際に難民申請をする人の割合は、申請者全体からすると決して高くはありません。しかし、空港での難民申請には、その割合だけでは見えてこない重要な問題が隠されています。実際問題として、入国時に日本の難民認定制度についての十分な理解を持っている難民は稀です。そのため、難民自身の使用言語も影響し、空港での入国審査の時点で難民申請の方法が分からず、乗ってきた飛行機でそのまま送り返されたり、最悪の場合は命の危険が待ち受ける本国に送り返されてしまうこともありえます。また、たとえ空港で保護の申請を行うことができても、必ずしも日本への上陸あるいは滞在の許可が下りるとは限らず、外部との接触が制限された法務省入国管理局の施設に収容される可能性もあります。

◆なぜ難民が収容されてしまうのか

 難民が日本に逃れてくるには、ビザとパスポートが必要です。ビザが一番早く出た国だったから日本に逃れた、という人もいます。中には、政府からの迫害を逃れているため正規の書類を手配できず、偽造パスポートを所持して渡航する人もいます。また、まずは「観光」などの取得しやすいビザで入国しようとする人もいますが、空港での入国審査の際に実際の目的が異なることが判明することもあります。そうした人の場合、空港からそのまま収容される場合があります。
 「収容」と聞いても、なかなかイメージしづらい方もいらっしゃるかもしれませんが、日本の場合は、個人の自由が制限された施設に入ることになります。1人部屋になることもありますが、多くの場合は数名で1部屋に入ります。働くことや外に出ることは出来ず、ネット環境はありません。外部と接触するには、電話や手紙、外からのガラス越しの面会だけです。寝起きする部屋から共用部へ移動出来る時間、運動場での身体を動かすことができる時間にも制限があります。そして、長年にわたり問題を強く指摘されてきたのは収容施設の医療体制です。常勤の医師がおらず、施設によっては精神疾患の専門医の診察もありますが、回数が限られています。実際に診療を受けるまでの待機期間の長さに、不安を訴える人も多くいます。

◆収容が与える影響 ―FRJの取り組み

空港に設置されているポスター。アラビア語やフランス語、ネパール語など、他言語での「庇護(ASYLUM)」の文字を載せています。

 日本では、たとえ難民申請者であっても、無期限収容の対象となることがあります。先の見えない収容と送還の恐怖は、難民申請者自身に大きな精神的負担をかけることも多く、医療体制が十分でないことから、適切な心身のケアに繋げることができないリスクがあります。支援団体の中には、収容施設を訪問し、法的アドバイスの提供やカウンセリングを行っている団体もありますが、閉ざされた環境の中で、本来必要とされるような支援が難しいこともあります。代理人の弁護士であっても、面会や手紙を通じてしか、外からは難民申請者とやり取りすることができません。

 こうした収容問題は決して日本に限ったことではありません。近年、諸外国では、不必要な入管収容を減らすための国際的取組み「収容代替措置」を導入する動きが見られます。収容代替措置は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も積極的に推進しており、FRJは、国際NGOと連携し、その推進に取り組んでいます。2012年からは、法務省入国管理局、日本弁護士連合会(日弁連)と連携し、空港において難民としての庇護を求めた人の受け入れを行っています。

FRJのシェルター共用部。ネット環境もあり、出身国情報など、難民認定申請手続きに必要な情報収集や、弁護士などとのやりとりができる。

FRJのシェルター共用部。ネット環境もあり、出身国情報など、難民認定申請手続きに必要な情報収集や、弁護士などとのやりとりができる。

 この取り組みでは、FRJは対象となるケースに対して住居(シェルター)を提供し、FRJに加盟する支援団体を通して法的手続きの支援や個人のニーズに応じたソーシャルワーク、医療や教育へのアクセスの確保を実施しています。難民申請手続きに関する支援では、日弁連と協力し、必要なサポートを行っています。当初、成田空港のみが対象とされていましたが、現在は羽田空港、関西国際空港、中部国際空港の全国4空港が対象に。各空港には、三者で作成した難民申請を知らせるポスターや、支援団体の相談窓口や難民申請手続きを説明するリーフレットが設置されています。

◆成果と課題

FRJのシェルターで共同生活を送る難民申請者。宗教や文化、言語の違いを越えて、支え合って暮らしています。難民申請手続きの審査は平均3〜5年かかります。不安を抱えながらも、日本語の習得、勉強、仕事など、自立に向けて取り組んでいます。

FRJのシェルターで共同生活を送る難民申請者。宗教や文化、言語の違いを越えて、支え合って暮らしています。難民申請手続きの審査は平均3〜5年かかります。不安を抱えながらも、日本語の習得、勉強、仕事など、自立に向けて取り組んでいます。

 2012年から三者連携の取り組みによって、対象となった難民申請者の収容を最大限に防いだことで、適切かつ迅速な支援を行うことができました。また、未成年や女性、精神的に不安定な人など、脆弱性の高い人へも早期に対応することが出来たことは大きな成果です。難民認定の結果を待つ難民申請者自身にとっては、決してそれだけで将来の不安が拭われた訳ではないですが、地域社会で暮らし、少しずつ日本での生活に慣れようとしています。これからも、FRJは、保護を必要とする人たちの不必要な収容を防ぎ、適切な支援につなげていけるよう、取り組んでいきます。(檜山怜美)