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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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国際協力の現場から

国際協力の現場から2018/01/30

FRJ:難民の子どもたちと教育をめぐって


 紛争または迫害から避難を余儀なくされている人は、世界中におよそ6,560万人いると言われています。うち2,250万人の人が国外にでて難民となっていますが、その約半数は子どもたちです。
 親とともに避難している子どももいれば、家族離散のまま暮らす子どももいます。また、親とはぐれたり、やむを得ない事情により単身で他国へ渡る子どもおり、その数は2016年だけで7万5千人と、前年の3倍を記録しています。しかし、統計上把握されていない子どもたちもいるため、実際の数ははるかに多いと言われています。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、学齢期(5~17歳)の難民の子ども約640万人の半数以上は学校に通えていません。家族が生きてゆくために、小さな子どもであっても働きに出なければならなかったり、教育へのアクセスが担保されていないなど、様々な事情があります。また、世界全体での高等教育学就学率が36%であるのに対し、難民に限れば1%と言われています。教育は難民の子どもたちが日常を取り戻し、一人ひとりが未来を切り開いていくために非常に重要で、それは社会にとっても同様です。シリアなど、紛争や暴力が長期化し住民の帰還が困難となっている国や地域では、避難先での先の見えない生活、子どもたちに必要な機会が与えられない状況が続くことに強い懸念があがっています。社会が復興に向かうとき、それを中心になって担うのがまさに子どもたちであるからです。難民保護は、今そのときだけではなく、世界の未来のために私たちがどうありたいのか、「長期的な視点」と「社会の意志」も問われているのではないでしょうか。

なんみんフォーラムのシェルターで日本語学習に励む難民認定申請中の家族

なんみんフォーラムのシェルターで日本語学習に励む難民認定申請中の家族

 日本では、これまで1万4千人以上の難民を受け入れてきました。難民認定制度ができてからすでに30年以上が経過していること、また70年代末からのインドシナ難民受け入れも鑑みれば、一定数の難民2世、3世の子どもたちが暮らしています。親と共に来日した子どもたちもいれば、親からの呼び寄せにより来日する子ども、日本で生まれた子どもいます。数世代に渡って定住する人の中には、日本国籍を取得した人もいます。そして、公式の統計はありませんが、昨今、単身あるいは適切な保護者なしに逃れてくる子どもも一定数います。また、母国でほとんど教育を受けられていなかったり、紛争などにより高等教育の機会を奪われ、日本での進学を希望する20歳前後の若者もいます。こうした学齢期の子どもやそれを過ぎてしまった若者たちは、すでに定住段階にあることもあれば、収容や送還の可能性がありながら、難民認定手続きの結果を待っていることもあります。法務省によれば、難民申請者総数が7,586人であった2015年、未成年(19歳以下)の申請者は562人でした*1。


当日は、首都圏、名古屋、大阪、福岡に拠点をおく、難民支援NGO、教育機関、国際機関などの関係者約40名が参加しました

当日は、首都圏、名古屋、大阪、福岡に拠点をおく、難民支援NGO、教育機関、国際機関などの関係者約40名が参加しました


分科会では、進路・キャリア形成を取り上げた会と、難民と国籍・無国籍の問題を取り上げた会とにわかれ、それぞれにスピーカーとして、人見泰弘准教授(名古屋学院大学国際文化学部)、金児真依氏(UNHCR駐日事務所)を迎えました。

分科会では、進路・キャリア形成を取り上げた会と、難民と国籍・無国籍の問題を取り上げた会とにわかれ、それぞれにスピーカーとして、人見泰弘准教授(名古屋学院大学国際文化学部)、金児真依氏(UNHCR駐日事務所)を迎えました。

 2017年10月末、なんみんフォーラムでは、支援関係者間の課題の共有と、ネットワークの深化・拡充を目指し、難民の子どもたちと教育をテーマに都内で全国会議を開催しました*2。冒頭に、早稲田大学大学院日本語教育研究科の池上摩希子教授より、外国にルーツを持つ子どもたちの日本語教育・学校教育・地域支援について講義をいただいたのち、セッションを4つと最後に分科会を設けました。セッション前半は、ケースワークからみた課題を石川美絵子氏(日本国際社会事業団)から、学習支援の現場から見えた課題を矢崎理恵氏(さぽうと21)から報告をいただきました。また、実際に親の呼び寄せによって来日した当事者からもご経験を共有いただき、参加者の反響も大きくありました。セッション後半には、第三国定住難民への支援について西岡淳氏(アジア福祉教育財団難民事業本部)から、難民向けの奨学金制度について泉田恭子氏(国連UNHCR協会)から、それぞれ現在の取り組みと課題の共有をいただき、質疑応答やディスカッションを行いました。

 日本では、難民に限らず外国にルーツを持つ子どもたちが多く暮らしています。難民の子どもたちは、教育へのアクセスそのものはあるものの、進学や就職、日本文化への向き合い、言語や自身のアイデンティティへの戸惑い、地域や学校での生活、家族との関係性、国籍などについて、外国にルーツを持つその他の子どもたちと共通する点もあれば、特有の事情を抱えることもあります。子どもたちの親も、経済状況や教育文化の違い、言葉の壁などによって、学校や地域、家庭の中で、様々な心理的負担・不安を抱えながらも、異国での子育てに取り組んでいます。その過程に関わるのは、政府や行政に加えて、児童福祉関連機関、教育機関や現場に携わる教職員、企業、市民団体、そして地域で共に暮らす一人一人です。

 事務局として、今回の全国会議の企画・運営に携わる中で、教育や日本語教育は難民の子どもや若者に、何か完璧なスキルや知識を身につけさせるのではなく、彼らを支える力であり続けるために私たちが関わるものなのだと感じることが多くありました。難民の子どもたちやその家族は、葛藤や生き難さを抱えながらも、私たちが勇気付けられるような豊かさやパワーももっています。日本社会がそれをどう受け入れていくことができ、その中で支援現場はどのような役割を担っていけば良いのか、議論はつきません。それぞれの活動の特色を生かしながら、教育の原点と子どもたち一人ひとりへの眼差しを忘れず、各ステークホルダーのより良い連携・協力に繋げていけるよう、これからも支援現場の関係強化に向けた取り組みを続けていきたいと思います。(なんみんフォーラム事務局 檜山)