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国際協力の現場から2015/09/08

PLAS:エイズ孤児を代表するペルソナの存在


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ケニアレポート -エイズ孤児を代表するペルソナの存在-

「ペルソナ」という言葉をご存じですか。その言葉を説明する前に、まずは、あるエイズ孤児のライフヒストリーをご紹介します。

plas201508_3“シャロンはケニアのキスムに住む18歳の女の子です。シャロンは4歳のとき、大好きだった両親をエイズによって亡くしました。孤児となったシャロンは、3歳違いの弟と共に、母方の叔母に引き取られました。
 7歳になる年に、シャロンは小学校に入学しましたが、行政等から金銭的な支援は受けておらず、文房具や制服等の学用品を買うお金は、常に不足している状態でした。それでもシャロンは大きく落ち込むようなことはなく過ごすことが出来ていましたが、叔母はシャロンに家事手伝いをさせることが多く、学校での勉強に追いつけなかったシャロンは、3年生と5年生のときに留年をしてしまいました。

plas201508_2 叔母に家族の一員として扱われないシャロンは、その頃から自分が「孤児」だと自覚するようになりました。地域住民からも「エイズ孤児は犯罪者だ」とののしられるようになったシャロンは、それがきっかけで、両親が亡くなった理由はエイズであったことを知りました。地域住民の偏見はシャロンを強く傷付け、「自分を理解してくれる人がほしい」とシャロンは強く願いました。
 しかし、叔母との関係は良くなるわけではなく、家事手伝いに多くの時間を費やす日々が続きました。6年生まで進学したシャロンでしたが、学校での成績は更に悪化し、遂には中退を余儀なくされました。14歳で小学校を中退したシャロンは、叔母の手伝いをすることが1日の大半を占めるようになりました。成績が理由で学校に行けなくなった自分、自分を愛してくれない叔母、シャロンは幸せを感じることができず、自分にも自信を持つことが出来ませんでした。

 そんな辛い時期を経て、シャロンは18歳になりました。叔母と暮らし、無給で家事手伝いを続けていますが、シャロンには新たな夢が出来ました。それは、自分の美容サロンを開くことです。自分を自分で支えて生きていくために、自分のビジネスを始めたい。ただ、必要な知識や資金がなく、まず何から始めれば良いかも分からないシャロンは、就労するためのトレーニングを受ける機会があればと願っています。”

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。実は、シャロンという個人は存在しません。シャロンは架空の人物です。しかし、シャロンは単なる架空の存在ではありません。シャロンはエイズ孤児たちの特徴を代表した存在なのです。
「ペルソナ」は名前、年齢、性別、居住地、性格等、あらゆる個人の特徴を細かく定めた架空の人物像を指します。マーケティングの分野では「ペルソナ」は顧客の特徴を表し、どのような商品をどのように販売すればよいかといった事業戦略を組み立てるために用います。
プラスでは受益者となるエイズ孤児のペルソナを作ることで、どのような支援を具体的にするべきかという事業立案に用いたり、ターゲットにしている受益者像について団体内やパートナー団体と共有するために用いたりします。

plas201508_1 また、ペルソナの特徴や性格は想像によって形作られるものではなく、ある集団から得られたデータ(根拠)に基づいています。シャロンも、先日当会のホームページにてご報告したケニアのエイズ孤児インタビューの結果をもとに作成しました。エイズ孤児たちの特徴や傾向を兼ね備えたのがペルソナであるシャロンなのです。
 シャロンの状況を良くするためには、どのような支援が必要でしょうか。また、いつ、どの段階で支援する必要があるのでしょうか。シャロンについて考えることで、実はその後ろにいる多くのエイズ孤児たちについて同時に考えることになります。
よろしければ、ペルソナという前提で、シャロンのストーリーを読み返してみてください。
受益者のペルソナはまだまだ試行段階ではありますが、よりよい支援、よりよい事業を展開していくために、これからも模索しながら進んでいきたいと思います。(工藤緑)