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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2026/10/01

【10月】あなたは人を殺しましたか


 衝撃音とともに劇場が揺れます。それは戦闘シーンではありません。戦場から帰還後、何年にもわたって主人公を襲うPTSD(心的外傷後ストレス障害)の発作シーンです。映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』。なぜか当初の予定から上映館が大きく減らされて都内では2館のみで上映中ですが、満席が続いています。
 実在した元米軍兵士の体験をほぼ忠実に作品化したものです。日本でも近年になってやっと認識が広まってきた「戦争トラウマ」が、当人のみならず、家族を苦しめ、世代を超えて連鎖しかねない事実を伝えます。
 アフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソンさんは、18歳で海兵隊に入隊します。それが差別と貧困から抜け出す道と考えたからですが、訓練中から「アジア人は人間ではない」と教育されます。その訓練が行われたのは沖縄。兵士たちは地元住民たちへ狼藉を躊躇しません。
 そして送り込まれたベトナムでネルソンさんは、対峙したベトナム人にこう訴えられます。「俺たちはここで自由のために戦ってる。お前たちはアメリカで自分たち黒人の自由のために戦え!」。その声に動揺しながらも戦闘を続けるネルソンの精神は、いつしか破壊されてしまいます。除隊して帰国したネルソンさんは、戦争トラウマに長い間苦しめられ、通常の生活さえままなりません。
 しかしやがてネルソンさんは自分の過去と向き合い、それをしっかりと担うことにより生きる道を見出します。そして、戦争がどれだけ悲惨であり、その影響が時代も世代も超えて残ることを多くの人に伝えていくこととなります。
 戦争トラウマ。戦争により精神を病んでしまった元兵士の存在が日本で注目されるようになったのはつい近年のことです。アジア太平洋戦争時、戦争神経症発症者のための病院として陸軍国府台病院が開設され、収容されていた患者は実に1万人を超えていました。しかし軍はその存在を隠蔽し、「戦争神経症が一名も発症しないのが皇軍の誇り」と公言していたのです。
 その価値観は戦後も引き継がれ、自らが戦争神経症だと認めることは恥として、傷病の恩給申請がされないケースが多々ありました。そのつけは元兵士たちの家族に負わされることとなります。弱さを認められず弱さを恥とする社会が、多くの傷を隠蔽し再生産してきました。今の私たちの社会はもうそうなっていないと言えるでしょうか。
 戦争は、誰をも加害者にします。そして、加害者となってしまった自分を肯定するために、さらなる歪みが要請されます。戦争が壊すのはいのちだけではありません。そしてその影響は想像以上に及びます。だから、戦争への道は再び歩まない。戦争への道を塞ぐ。そのことをアーユスのすべての活動の根に置くものです。