平和人権/アジア
平和人権/アジア2019/05/29ツイート
緊急セミナーと祈りのつどい~スリランカの事件から
復活祭の時期である4月21日にスリランカで起きた「連続爆破事件」は、多数の被害者を生みました。主な攻撃対象は教会やホテルで、外国人もたくさん命を落としました。
スリランカといえば、10年前まで続いていた内戦からシンハラ人とタミル人の対立については知られていますが、今回の事件はそれと全く質の異なる対グローバルな「テロ」であり、スリランカ社会を震撼させることとなりました。しかし、その背景を「国際的なテロ」「過激な宗教の対立」として、南アジアの小さな島での出来事と見過ごしてよいのでしょうか。
アーユスは、仏教の教えをもとにしつつ、宗派や宗教のちがいを越えて、すべてのいのちを大切にしようと活動してきました。今回の事件では過激な思想を持つムスリムのグループが首謀者でしたが、仏教徒のなかにもまた、暴力をもって他者を排斥する活動を主導する動きがあります。宗教は、いのちを脅かすものであってはならず、いたずらに恐怖や不信を煽ったりしてはならない。それは、スリランカだけでなく世界のどこででも、日本においても言えることです。
仏教者の団体としてそのことをしっかり確認しておきたい、何よりも追悼の場を持ちたい、そんな思いでいたときに、会員でありスリランカの仏教大学で日本語を教えている横尾明親師からも「ぜひとも祈りの場を持ってください」との力強い働きかけをいただきました。そこで、スリランカでの活動経験が長いNGO「パルシック」のお力を借りて、緊急セミナーと祈りのつどい「スリランカ連続爆破事件の背景にあるものは?」を共催しました。
そもそもスリランカについて、どれだけのことを知っているだろうか。何が起きたのか?なぜスリランカだったのか?スリランカのムスリムとは、どのような存在なのか?そうした基本的なことを学びなおすために、講師を清水研さん(ビコーズインスチチュート株式会社)にお願いしました。清水さんは、青年海外協力隊でスリランカに赴任したご経験があり、2002年停戦合意後、北東部の紛争影響地での活動に関わってこられた方です。
さらに、スリランカにご縁の深い方としてパルシックの井上礼子さん、仏教者としてアーユスの松本副理事長、そしてネット中継でスリランカにおられる横尾さんからも、それぞれにお話をいただきました。
当日、5月15日は平日にもかかわらず会場(新宿区の常圓寺)がほぼ満員となる80名近い参加者にお越しいただき、質問やコメントも含めて、たいへん内容の濃い時間を過ごすことができました。
清水さんには、日本とスリランカの関わりの歴史にはじまり、今回の連続爆破事件の背景を丹念に追っていただきました。近年になってムスリムのなかでも分化が進み先鋭化したグループが生まれていたこと、それらがグローバルジハードを目指すISの路線と結びつく「土壌」ができていたのに当局が対応し切れていなかったと清水さんは指摘されました。
一方で、これまでスリランカは決して他民族、他宗教に排他的ではなかったこと、内戦中でも外国人や観光客が狙われることはほとんどなかったといいます。今回の合同葬儀の際、被害者側であるコロンボの大司教が「犯人さえも我々は赦すべき、それがキリスト教のもっとも大切なことである」という訴えたことには、キリスト教徒でない人びとまでもが心を落ち着けたそうです。清水さんは「スリランカ社会は、寛容性あるいは回復力(レジリエンス)をもともと持っている。南アジアにおけるISの勢いは拡大しているが、もともと持つ力を発揮できるようそこに注目し、働きかけていくことが大切だ」と話されました。
この思いは、それに続く3名の方のお話にも共通するものでした。
2003年からスリランカ内戦も経験しつつ活動されてきたPARCICの井上さんは、宗教の違いはあれど、平和裏の役割分担があったと感じていたことに触れ、「今後何が起こるかわからないものの(差別や排斥が増幅するような)土壌、同じことが起こる根っこはないのでは」と話されました。
また、アーユスの松本副理事長は、スリランカの人びとが非常に自制的であると感じられるところが印象的、と述べたうえで、「原理主義は経典に戻ろうというものではなく、自分のよりどころや安心するための根拠、自己肯定感を我が手にしたいという考え方。不安を共有化しようとする、それを強要しようとするが、私たちは同じ土俵にあがってはいけない。こうした事件に対して、怒りや報復で対応するのではなく、別の次元に立って事件を無意味化する方法を身につけていくべき」と強調しました。
さらに、インターネットを通じてスリランカ現地から発言された横尾さんは、事件後に向かわれたスリランカの最新状況をつぶさに伝えてくださいました。不安をためた仏教徒がイスラム教徒に矛先を向けないこと、対話や協調により平和が構築されてほしい、というお話は、参加者に深い共感をよんでいました。
世界のあちこちで、不安をかきたてる事件が起こっていますが、こんな時代だからこそ、松本副理事長の言葉にもあったように、私たちは「テロ」や「報復」に動揺したり、何かにすがろうとするばかりではなく、自覚的に不安に対応していく知恵を学んでいかなくてはならない、と思います。(〒)