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平和人権/アジア

平和人権/アジア2020/12/25

【街の灯トーク#9】コロナ禍のフィリピン、大都会の陰に暮らす子どもたちの未来③


スタッフの言葉に背中を押されて

社会保障の対象にならない子どもたち

寺西 このように進めてきた活動、路上教育や技術訓練などは、コロナ禍以降、どんな影響を受けたのでしょう。

西坂 ロックダウンで厳しい外出制限や移動制限をとられて、路上で物売りをしていた子どもたちは完全に仕事を失い、食事もまともに摂れないような収入を完全に失った状況になりました。
私たちは、国の福祉や地域の福祉、家庭の福祉などに守られながら生きていると思うのですが、子どもたちの大半は出生登録がされておらず、政府の統計に表れない見えない存在で、本来なら享受できる社会保障も十分に受けられないし、地域からは暴力や暴言を受けることもあるし、経済的な保障も受けられないということで、光が当たらない存在だとすごく感じます。社会的に弱い立場に置かれていることが、あらためて浮かび上がった事例でもあると思います。

寺西 たくさんいるということは知られているのに、なぜ光が当たらないのでしょうね。

西坂 ほんとうにそうなんですよ。バランガイと話すとき、子どもたちに対して特段偏見を持って見ているわけでなくても、後回しにされているというか、優先順位が高くない。意識が低いんだろうなと感じます。意識啓発は今後も重要だと思っています。

寺西 行政の人に対しての意識啓発がまず必要ですね。
その子どもたちに対して、どういう支援に取り組まれましたか。

西坂 危機的な状況をなんとかしようと、食料や衛生用品の配布が最初に決まりました。ただ、開始するにあたっての懸念として、事業地の人たちを助けたいけれど、スタッフを感染のリスクに晒したくないという葛藤もありました。そういう中で背中を押してくれたのがスタッフ自身の言葉でした。「感染のリスクがあっても、事業地から必要とされている存在だ」「フロントワーカーとして働く身として強くあらねばならないし、私がみんなを助けないといけないんだ」と、現地のスタッフが言葉をかけてくれて、それが後押しになって万全な感染対策をとった上で行おうと実施が決定しました。

寺西 長年一緒にやってきたメンバーが多いから、こういうときも誇りを持って踏み切ったという感じですね。

西坂 心強いです。それで始めた支援活動は、大きくわけて3つあります。

コロナ禍で取り組んだ緊急支援

ひとつは、命をつないでいくための食料や物資の配布。月に一回くらいのペースで行っています。お米、缶詰、鶏肉、卵など栄養価のあるものを中心に、マスクや消毒薬などの衛生用品なども併せて配布しています。月一回だと準備も大変ですが、一回に米10キロ、缶詰10缶という感じで配布しました。

寺西 対象者はどうやって選定されたのですか。

西坂 アイキャンがこれまで活動してきた事業地の中でも、国からの支援を受けられない人たちということで路上の子どもたち、ゴミ山付近に住んでいる人たち。彼らも家はあっても、土地の権利がないので政府からの支給を受け取ることができない方が多くて。
 配布の際に子どもたちからの声を拾っているのですが、政府や他の機関からの配給がないので、周りの人たちから食料をわけてもらうことがあると聞いています。役人に見つからないように逃げ回っていて、お腹が空いたら周りの人に廃棄するものをねだってもらうこともあると。それでも本当に何もないと、眠って空腹を紛らわすしかないと言っていました。政府からの支援は子どもたちも期待しておらず、自分たちでどうにかしなければいけない、だから友達や近くに住んでいる人たちと持っているものを分け合って助け合って生きていくんだと。

寺西 出生登録をしている人には、政府からの支援があったのですか。

西坂 流れとしては、国からバランガイに、そこから地域の各世帯に流れることになっていますが、実際はバランガイの人が自分の親戚により多く配ったりとか、政治的に自分側の立場にいる人に配ったりとか、非常に不平等な配り方をしていることもあるようです。そういうのも子どもながらに見ていて、不平等なことをしている、そういうことは止めてほしいとすごく言っていると聞いています。

寺西 参加者の方から質問が入っていますね。

「出生登録されていない子は、不法滞在のような扱いになるのですか」?

西坂 統計に表れないということで、国の役人などは路上の子どもたちを嫌うというか、汚いものとして扱います。見えない存在というか、見えなくされてしまった存在です。

寺西 「出生登録の支援などもされてきたのでしょうか」。

西坂 学校に戻りたいという希望を持った子どもたちは、IDがないと学校にいけないので出生登録が必ず必要で、特にそういう子どもたちをサポートしてきました。

寺西 出生登録はとるのが難しい、手続きが面倒なものなのですか。

西坂 面倒というより、「出生登録」の存在すらしらない人がいると思います。若くて子どもを産むのもありますし。

寺西 どういう手続きが必要かも知らない?

西坂 そうですね。路上で生活していて、わざわざ区役所や市役所に出しに行くことすら知らない人もいます。

寺西 なるほど。では、そのほかの活動についても教えて下さい。

住民組織の人たちの自主的な動き

西坂 二つ目として、正しい手洗いやマスクの扱い方を指導しています。これはアイキャンだけでやっているわけではなくて、パヤタスの住民組織が関わっています。写真のピンクのマスクをしている方です。今回の物資配付にあたりマスクの配付もしていて、そのマスクは住民組織が作成したものです。

彼女たちとは2000年から生計向上事業としてフェアトレード商品の製作と販売、あとは地域の人の健康を守る保健医療活動を一緒にしてきたのですが、2005年に独立してパートナー団体となっています。彼女たちもコロナ禍で収入を失っていて、なかなか注文も入らない中で議論して、「自分たちの裁縫技術を生かして、子どもたちのためのマスクを作って配付できないか」という声をもらったんですね。そのマスクを買い取ることで彼女たちの生計向上にもつながるし、マスクを配付することで子どもたちを感染のリスクから守ることができるということで、やることになりました。

寺西 その方が説明されているんですね。衛生指導の研修もされたんですか。

西坂 打ち合わせをして正しい手洗いの仕方など確認したのですが、みんなの前で話すのは非常に緊張したと。自分たちもゴミ山で生計を立てていたのに、今はみんなと知識を共有し、教えることができる立場になれたのをとても誇らしく思っていて、同時に自分たちの力で地域をなんとかしていきたいという強い思いを感じる機会にもなりました。アイキャンに任せておけばいいというのではなくて、自分たちの力も何か役に立てるのではないかという気持ちです。

寺西 自分が役に立てることはなにか、みんな自ら考えて動いているんですね。このマスクは他の地域でも使ってもらう予定がありますか。

西坂 はい。日本にもマスク無かったときがあり、今は出回っているので時期としてはずれてしまいましたが、日本でもぜひ販売したいと思いまして、フィリピンの伝統柄のバティック柄を使って日本でも販売を10月中旬頃から開始する予定です。

(続く)

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