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国際協力の寺2017/04/27

寺カフェBOOK倶楽部:バタフライ和文タイプライターその他


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 初めての「寺カフェBOOK倶楽部」終了。今回の参加者は9人。
 経王寺の本堂に椅子を並べて、それぞれコーヒーやルイボスティーを片手に、パンをつまみながら2時間語りあいました。

 今回選んだ、「日本文学100年の名作第10巻」には、2004年から2013年に出された16編の短編が収められています。まずは、ひとりひとりが気に入った3編を紹介し、その理由を語るところから始まりました。
 ちなみに収められている作品は、
小川洋子「バタフライ和文タイプ事務所」/桐野夏生「アンボス・ムンドス」/吉田修一「風来温泉」/伊集院静「朝顔」/恩田陸「かたつむり注意報」/三浦しをん「冬の一等星」/角田光代「くまちゃん」/森見登美彦「宵山姉妹」/木内昇「てのひら」/道尾秀介「春の蝶」/桜木紫乃「海へ」/高樹のぶ子「トモスイ」/山白朝子「〆」/辻村深月「仁志野町の泥棒」/伊坂幸太郎「ルックスライク」/絲山秋子「神と増田喜十郎」。

 私が選んだのは、小川洋子「バタフライ和文タイプ事務所」、三浦しをん「冬の一等星」、山白朝子「〆」の3つ。とはいえ、小川作品が断トツによく、他の2作品を選びづらかったのが正直なところでした。
「バタフライ和文タイプ事務所」はとにかく官能的で、「活字」がこんなに人の情感を高めるなんてすごいと思い、のめり込んでしまった次第。
 この和文タイプ事務所では、医学部の論文をタイプすることが主な仕事であるために、取り扱う文字も肉感的。ある日、主人公は「糜爛(びらん)」の糜の文字の一部が欠けていることに気づき、活字管理人の部屋行く。そこでは磨りガラスの向こうで、細い指先で活字を直し管理する一人の男性がいた・・・。活字をなぞる指先の動きだけが、伝わってくる・・・。
 と話は続くのですが、私はこのアナログな世界で、肉体的には交わらないのだけれど、精神的には深くからみあう情景に魅了されてしまいました。
 しかしですよ。参加者の中には、「この作品は、ちょっと大丈夫かなと心配しました。活字を舐める場面もあったけれど、あれは鉛で出来ているから病気になるんじゃないかなと思った」と、まったく違うところに反応した人もいて、同じ作品を読んでも、エロさを感じる人もいれば、病気を心配する人もいるんだと、おもしろかったですね。違う感想を聞くことで、それまで持っていた印象が変わることもありました。

 ただ、第10巻には「自衛隊のイラク派遣、東日本大震災と原発事故。激動の現代を鮮やかに映し出す傑作16編」と銘打ってあるのですが、その割にはその時代を感じさせる作品は少なかったというのは、全員が共通して持った印象でした。
 強いていえば、どの作品も比較的「自分」に向かっていて、あまり外に開かれたものではなかったことが、時代を表しているのかもしれません。痛い恋愛に踊らされつつ、それを乗り越えたかに見える女性。あと1歩で女性を口説き落とせる場面であっても、営業成績をあげることへの欲求に制覇されてしまう営業マン。最近の言葉でいえば、「イタイ」がぴったりな人たちが登場する作品が多かった気がします。もしくは、前述の「バタフライ和文タイプ事務所」や高樹のぶ子の「トモスイ」のように、現実離れしたセッティングが感性を刺激するような作品かどちらか・・・?

 さて、次回は5月10日。時代もぐーんと遡って1924年〜1933年に出された15編が収められている第2巻を読みます。関東大震災からの復興、昭和改元、漂う大戦の気配――。現代にもつうじる 何かを感じさせる作品もあり。
 ふるってご参加ください。初回も、ほんとに楽しかったです。これを機会に小説を読む時間が取れた、仕事以外のことで同じテーマについて語りあうのは刺激的など、また参加したいという感想が多かったです。お申し込みは、こちらまで。 (M)