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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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スタッフ雑記帳

スタッフ雑記帳2023/05/31

ガンディー主義者・ラージャーゴパールP.V.氏 講演会


 インドのガンディー主義者として著名で、先住民族の人たちの農地などの自然資源に対する権利を非暴力的な手段を通じて求めるエクタ・パリシャド(Ekta Parisad=団結協会)という組織を率いてきたラージャーゴパール・P.V. 氏が、2023年度「庭野平和賞」(庭野平和財団)を授与され、その受賞式のために5月に来日されました。ミャンマー、ウクライナなどで暴力がまかり通ってしまう場面を目の当たりにする今日、非暴力運動を実践してきた氏の経験と成果は何らかの力にならないか。当会の大橋理事の呼びかけで、ラージャーゴパール氏、そしてパートナーであるジル(Jill Carr-Harris)さんを招いた講演会を5月9日に早稲田奉仕園にて関係団体とともに開催しました。


講演するラージャーゴパール氏(中央)。左はパートナーのジルさん。(通訳:トム・エスキルセンさん)

 大橋理事は、自身が大学生だった1974年にインドのガンディー主義者によるサルボダヤ運動と呼ばれる社会改革運動に出会い、今日までこの運動についての実践的研究を続けてきました。そうした関係から、かつてガンディー平和財団の副理事長を務めていたラージャーゴパール氏に出会っています。十数年前には、アーユスの理事たちを連れて、被差別カーストへのサルボダヤ運動による取り組みも訪ねました。

 ラージャーゴパール氏の活動の原点は、50年前に北インドで活動していた悪名高いダコイト(武装強盗)集団に対し、武装放棄と社会復帰を促したことです。その後、先住民族などが貧困に苦しめられている地域を訪れ、その背景となっている社会問題に向き合うようになりました。そのなかで、小農民や先住民族たちがかつて有していた土地や森などへの権利を近代法が奪っていき、結果的に生活を脅かしていることに着目し、その回復運動を始めたのです。具体的には2007年、そうした権利の獲得を求めて首都ニューデリーまで350kmの道のりを、2万5千人の人びとが参加する行進をおこない、政府は最終的にそうした権利を認めることとなりました。

 こうした行動を起こす礎となったのは、ガンディーの「自分が行動するときはまず、いちばん冷遇されている人たちにとってどのような影響があるかを考えるべきだ」という考え方です。こうした思想を語るだけでなく、社会問題の解決に活かそうと行動に移し、実際に成果を生み出したことが今回の受賞でも評価されています。

 しかし、その「非暴力」を社会に根付かせるにはどうするのか。
 パートナーのジルさんはカナダのご出身ですが、「西洋では(非暴力抵抗運動は)目的達成のための手段だが、インドではそれを内面化していく過程が特徴的。真理を探求し続けることによって非暴力が定着するようにしている」と話されました。暮らしのなかで非暴力を学ぶこと、非暴力の考えやビジョンを共有する仲間や地域のリーダー層を育成するために、エクタ・パリシャドでは人材育成と教育から活動をスタートしているといいます。大勢での行進も、社会的にアピールすることで制度を変えるだけでなく、参加者が「自分たちの運動である」という主体性を持つようになるという意義があります。
 インドが中国を超える世界一位の人口を擁する国となって失業が社会問題となったり、競争で大量生産と大量消費が生まれているからこそ、非暴力の内面化は今日的な挑戦でもあり、またグローバルに敷衍するための挑戦でもあると感じさせます。

 5月11日におこなわれた賞の贈呈式では、庭野平和財団の庭野日鑛名誉会長が、「エクタ・パリシャドの人材育成は、『地湧の菩薩※』を育ててこられたこと」と話されました(全文はこちら)。アーユスもまた、社会を良くしたい・厳しい状況に置かれた人たちの力になりたいという思いを持つ人、行動しようとする人が力強く前進できるよう、こうした目立たない社会改革運動を長く応援し続ける役割を果たし続けていきたいと願っています。

 なおガンディー主義者がこの賞をもらったのは、ラージャーゴパール氏を含めてインド人で3人、スリランカのアリヤラトネ氏を含めれば4人目となります。経済のグローバル化が急速に進む現代では、世界各地で周辺化された人々が様々な問題に苦しんでいます。サルボダヤ運動の活動家が、仏教を土台とする財団によって表彰されることは、その流れに棹さす動きのように思え、とても感じています。(理事 大橋)

※高い地位や権力を持っている人ではなく、苦悩の多い現実の生活を体験する中で黙々と精進する名もない人々