スタッフ雑記帳
スタッフ雑記帳2019/04/25ツイート
2019春合宿「私のなかの少数者性・多数者性」
アーユスでは、仏教者やNGO関係者が一堂に会し、テーマを決めて学ぶ合宿を毎年行っています。会員や経験豊富なNGOメンバーなど、多様な人が出会い、対話し、新たな発見をする場として、今年も30名を超える参加者がありました。
今年のアーユス春合宿のテーマは「私のなかの少数者性・多数者性〜欧米の排外主義から日本の移民コミュニティまで〜」。2019年4月15日から16日にかけて、京都市北区にある黄檗禅宗の閑臥庵で行われました。「閑臥庵」は御所の祈願所として後水尾法皇自らが命名し、自身も足繁く訪れては和歌を詠んで庭を愛でたという由緒ある禅寺で、精進料理の一つである非常に健康的な京普茶料理がいただける料亭としても有名です。四季折々に美しい花が咲き誇り、合宿中は桜や木蓮がちょうど満開。休憩時間などで参加者の心を和ませてくれました。
さて今回の合宿では、昨年ひろく耳目を集めた外国人労働者の受入や排外主義を切り口に、海外での事例や日本の中で少数者が重ねてきた実践などをうかがい、少数者と多数者の「共生」とは何か、私たちが見逃していたり無関心でいることを、どう「自分ごと」にできるかを議論しました。
1日目は、アーユスの専門委員でもある石井宏明さん(難民支援協会理事/なんみんフォーラム副代表理事)を講師に「排外主義の潮流〜欧米で起きていること〜」というタイトルで、「移民」と「難民」の違いを明らかにした上で、排外主義をめぐる差別や偏見の現状を確認し、欧州で起きた難民「危機」の本質について詳細に解説していただきました。欧州はこれまで移民や難民にどちらかというと寛容だった歴史があるとの思い込みが覆されるような話をお聞きし、改めて移民・難民をめぐる問題を私たちはどう考え、行動していくべきなのかを見つめ直すきっかけになるようなお話を伺いました。フランスで起きたパリ同時多発テロの余波やイギリスのBrexitの正体、中東欧で起きているポピュリズムの拡がりなど、私たちが知らないところで進行している排外的な動きをどう捉えればよいのか、メディアによる影響が強まっている中で、メディア・リテラシーの重要性を改めて考えさせられました。
それを受けて、神戸定住外国人支援センター理事長の金宣吉さんからは、日本における多国籍化・多民族化の現状をご説明いただき、日本でさかんに使われている「多文化共生」の本質は何か、それをどう捉えたらよいのか、様々な示唆に富んだお話を伺うことができました。社会言語学者の植田晃次が日本における1980年代の「国際化」を指して、「十分議論されないままスローガンのようにイメージとして提唱されたにすぎず、終焉していく状況を「国際化」ということば・概念が台頭し、それが社会的な環境の変化に伴って使い古され、消費された」と捉えたことに鑑み、日本で使われる「多文化共生」も「多様性の消費」に収斂されていくのでは、との見方が示されたことは衝撃的でさえありました。そして、金さんは多元の意義として、①排除と格差の固定化を生み出さない社会づくりの源泉でなければならないこと、②「多様性の消費(稚拙な多文化理解)」からの脱却、③持続可能な経済を生み出すようなハイブリッド文化の力となること、④自立できる公正な社会となること、の4点を強調されたのが強く印象に残りました。
2日目は、多文化共生リソースセンター東海の代表理事で、アーユス専門委員でもある土井佳彦さんより「「移民社会」日本への視点」と題して、日本における外国人登録の変遷や施策の移り変わり、在留外国人の急増と外国人労働者への依存の高まり等についてデータ/統計を示していただき、その後に行われた参加者同士のディスカッションでは、上記の点を踏まえて、①差別・偏見を断ち切るには、②外国人/日本人ではない多文化共生、③外国人の「権利」をどこまで保証するか、④国際協力NGOができること、⑤脱分野 NGO/NPO、⑥国/地域ですること、の6つのテーマごとにグループに分かれて活発な議論が行われました。
会員のお一人からは、「仏教徒にとっては、三宝(仏・法・僧)に帰依することが大切。英語ではこの帰依という言葉を『refuge(避難する、救いを求める)』とも表現する。refugeにeをつけるとrefugee(難民)となるように、私たちはこの世の苦しみという現実のなかで、ブッダに救いを求め帰依する、苦しみから逃れる道を探しているというのが、仏教とのなかに最初からある。その意味で、私たちもまた難民であり、(今回の話題となった)難民・移民は決して他人事ではなく自分事として捉えられるのでは」との発言がありました。私たちがいかに社会課題を自分事としてとらえられるか、日々、それぞれの活動の場で考えるためのアーユスらしいキーワードを投げかけていただきました。
2日間にわたって密度の濃い内容で、難しいと感じた参加者もいたことと思いますが、欧米の排外主義や難民受け入れの実態、在日コリアンが感じている日本における多文化共生の本質、既に移民社会となっている日本で今後外国人支援や受け入れをどのように考えていけばよいのか等々、さまざまな視点からこの問題を考えるきっかけになったと思います。この合宿のテーマでもある「私の少数者性・多数者性」というところまで落とし込んで考える時間が足りず、特に多数者性についての意識を十分に考えられなかったのは残念ですが、1回の合宿ですべて議論し尽くせるわけではないので、また今回のテーマに絡んだ勉強会やセミナーで会員やNGO関係者の皆さんと一緒に議論できる場をつくっていければと思います。