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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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スタッフ雑記帳

スタッフ雑記帳2018/05/31

2018春合宿 地域の”たね”をさぐる


4月17、18日にかけて名古屋の櫻誓願寺にて、恒例の春合宿を開催しました。会員やNGOスタッフなど30名以上が集いました。

今年度のキーワードは「地域」。前年の合宿で、大量生産・大量消費、成長を追い求めるばかりではない、”あたらしい”経済とは何かを学んだ際に、日本や海外における「地域づくり」の事例が紹介されました。私たちの行動によって「何かを変えたい」「あたらしい一歩を踏み出したい」と思ったときに、地域を出発点に考えてみようと発案しました。

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しかし、「地域」とは奥深い言葉。アーユスの身近でも「地域づくりに取り組むNPOです」「住民主体の地域開発をすすめます」「地域に開かれたお寺にしたい」などなど頻繁に耳にしますが、その範囲や構成者、関わり方も様々です。参加者の自己紹介を兼ねた「あなたにとっての地域とは?」の問いかけには、「学区」や「町内会」などとても身近な生活の場が多く挙げられました。

それを受けて、アーユス専門委員でもある神田浩史さんによる「地域ってなんだろう?地域をどう考える?実践する?」との発題からスタートしました。水の専門家やコンサルタントとして海外を舞台にされていた神田さんは、東南アジアの仲間に「日本は資源が多いのになぜ輸入?日本の農業林業漁業は大丈夫?」と言われて、日本の「地域」を意識するようになったと言います。国内地域での取り組みがグローバルに大きなインパクトを与える、地域はグローバルにつながる。これは参加者NGOの多くが実感しているところでしょう。アジアモンスーン地域での実感から、川の流域の観点からとらえると、川が上・中・下流の生活圏を結び付け「地域」を形成しているお話も魅力的でした。
後半は、地域での実践を具体的にお話いただきました。神田さんの生活圏であり活動の場でもある岐阜県垂井町で、大型合併の議論のなかからまちづくりに巻き込まれ、これまでの経験ももとに住民主体の条例づくりに取り組んだ経緯は、実感をもって伺うことができました。実践は制度化して残したほうがよい、多様な構成員とじっくり話し合って決める、そうしてできあがったものは自分が関わったものは「自分のもの」として大切にする。主体的に関われるのが「地域」の醍醐味でもあると感じる時間でした。

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続いて、NPO法人泉京・垂井の事務局長である河合良太さん(アーユス新人賞の受賞者でもあります)が、神田さんがお話ししきれなかった泉京・垂井の活動、そして揖斐川流域で企んでいる「里山インキュベーターいびがわ」の取り組みを紹介。続いて、河合さんがコラボレーションしている地域の未来・志援センターの三ツ松由有子さんからも、お話をいただきました。地域によそ者として入っていくことで出会う魅力的な人びとの話も魅力的。「互いに繋がり、影響を与え合う場」を地域ととらえる事例をうかがうことができました。
東海地域のNGOにとっては既知の内容だったかもしれませんが、合宿初参加の方や他地域のメンバーにとっては、次回は現場にも足を運んでみようと思わせるエピソードの数々でした。また、ひとつのNPOだけに所属するのではなく、他団体の活動に関心を持ったり、実際に「復業」として関わっているなど、東海のNPO同士のネットワークや連携ぶりからは、まさにこれからのNPOの動き方の一例を垣間見る思いでした。

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二日目は、お寺からお二人、NGOからお一人の発表をいただきました。

まずは、尼崎の中平了悟さん(浄土真宗本願寺派西正寺)。尼崎で多様な人たちが関わるカリー寺やテラハ(テラからはじまるこれからのハナシ)といった活動を展開されてきました(参考:みんなの尼崎大学)。自分の世代(30代後半から40代)は「お寺や地域と関わるのはあたりまえ」ではなくなっているという感覚から、地域・社会課題・お寺と拡げ、話し合う「場」としてのお寺の在り方を考えるようになったとのこと。「お寺の人間が何かを伝えるのではなく、お寺があることで地域の人のモチベーションがあがったり想いが叶えられる場として広がってきているのが嬉しい」、世間的に話題になっていることだけでなく「地域にしかできないものを拾える場でもありたい」と実践を伝えてくれました。

次に、会場をご提供くださった名古屋の近藤玄隆さん(浄土宗西山禅林寺派櫻誓願寺)。地元・杁中から八事まで、飯田街道沿いにあるお店などが加盟するいりなか商店街には、商店だけでなく病院、さらには櫻誓願寺さんも含めたお寺まで加入しているのが特徴。地域を活気づけるためとにかく「祭りをやろう」と、担い手がおらず廃れてしまったお祭りを復活させてもいるそうです。またお寺では、NGOを招いての講座や着物のチャリティバザーも実施。「ただし、お寺は祈りの場であるという大前提だけは、はき違えないようにしている」との言葉には、背筋の伸びる思いがしました。

そして、NGOから下田寛典さん(ピーノーン・ラーニング・センター/地雷廃絶日本キャンペーン/日本国際ボランティアセンター)。長らくタイをフィールドにされてきましたが、NGOとして期限つきのプロジェクトを成功させる意識よりも、現地の人たちとはプロジェクト「以外の」話をしようと心がけてきたと言います。地域では「問題解決したい」という介入と捉えられかねない姿勢ではなく、「100年後どうなりたいですか」と問いかけて伴走する、まず関心を持ってもらうシカケを作る。日本でも「国際協力」からは若干焦点をずらし、食べもの、映画、様々な関心事から世界への関心に繋げることを試みているそうです。

最後は短時間でしたが、パネルディスカッションとなりました。
行政とお寺の距離の取り方、ボトムアップ型の地域づくりの良さと難しさ、そしてお寺もNGO/NPOも地域に「介入」するのではなく「伴走」するスタイルでという表現が腑に落ちた、などなど、はからずも同世代の発表者3人が相互に刺激を受けるところも多かったようです。

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前回のテーマとなった”あたらしい”経済を、身近なところでどう実践していくか?を考えるうえで、参考になる事例をたくさん聞くことができた今回の合宿。「イベントをするのに草ひきが必要でFacebookで呼びかけたら、予想外に人が来てくれた。お寺を使わせてもらっているから、代わりに役立てる場がほしい、というニーズもあるようだ」というエピソードからも感じられるように、「お金を払って何かをする/してもらう」ではなく、いろいろな人の心に「ちょっとひっかかる/ひっかける」、その仕掛けをつくることが、新しい展開への一歩になりそうです。
意見交換の時間を十分にとれなかったものの、休憩や食事中、交流会などで、参加者同士の話も弾みました。初めての出会い、久々の再会、違う分野の人たちとの出会いから生まれるやりとりは刺激的。短時間のセミナーではなく、泊まりがけの合宿の醍醐味を改めて感じる2日間となりました。(〒)