スタッフ雑記帳
スタッフ雑記帳2018/05/03ツイート
「インサイト・ジャパン」にインタビュー掲載
ピースウィンズ・ジャパンのプログラムコーディネーターのキムドンフンさんが、韓国の朝鮮日報Web版「より良い未来ーBetter Future」に連載している『インサイト・ジャパン』。
第9回に事務局長・枝木が登場しました。下記のサイトを翻訳してご紹介します。
引用サイト(韓国語):http://futurechosun.com/archives/31825
インサイトジャパン第9回
NGOをサポートするNGO、アーユス
2018.2.22
キム ドンフン / Peace WindsJapanプログラムコーディネーター
現場を飛びまわるNGOを支援するNGOがある。政府でも、中間支援組織でもない。規模が大きいわけでもない。普通のNGOが特定の社会問題を解決することに集中する一方で、このNGOは普通のNGOを後方からサポートする役割を自ら買って出ている。小さくても強いNGO「アーユス仏教国際協力ネットワーク」の事務局長、枝木美香さんにお会いして、歴史をうかがった。
ー自己紹介をお願いします。
2011年からアーユスの事務局長をしている枝木美香です。以前、他のNGOのタイ駐在員として働いていたときに、現場訪問にいらしたアーユスの理事長と会うことになりました。アーユスの活動は他のNGOを支援することが中心ですが、当時私がいたNGOもアーユスの支援を受けていたんです。それがきっかけとなってアーユスで働くことになりました。
ーアーユスという団体は、韓国ではほとんど知られていない団体だと思いますが、どんなところですか。
いくつかの特徴があります。まず、アーユスは日本で仏教を信仰している方々がつくった団体で、仏教の理念をもとに動いています。宗派や所属に関係なく、志のある仏教寺院、仏教の信者、仏教教団が後援者となって運営しており、「平和」と「人権」を重要なテーマとしています。
二つ目に、私たちの団体が直接、活動現場をもって事業をおこなうのではなく、ほかの団体に助成金などを支援することに重点を置いています。ほかのNGO自体が私たちにとっては現場であるともいえます。
三つ目に、私たちの団体が直接現場を飛び回っているわけではないため、現場の課題や悩みやイシューを、さらに掘り下げていくことはできませんが、現場が持つ悩みを日本に持ち帰ってともに悩んだり、現場の課題を日本に伝えることができます。私たちにとっては、短所とも言えますが長所でもあると思っています。
ー設立の経緯が気になります。
湾岸戦争の直後で世界情勢も変わりゆく1993年ごろ、当時は日本経済もそれなりに余裕があり、海外の問題にも関心が高い時期でした。こうした背景から、自然とアーユスが国際協力を中心に考えるようになったのだと思います。しかし、「国内問題を扱うのか、国際問題を扱うのか」のなかで国際問題を選んだのは、一方に偏った考えだったわけではなく、これからは国際協力を通じて国際イシューが日本社会にどのように影響を与えており、我々がどんな視点を持つべきか考えるべきだ、と議論した末のことだったと思います。
実は、アーユス設立前にも歴史があります。1980年代から、ある仏教の宗派内にいたお坊さんたちが、自分たちなりに国際協力活動としてインドシナ難民支援事業を行なっていました。日本の国際協力NGOの源流は、このインドシナ難民支援が契機だったと言えると思うのですが、当時は日本でNGOが一般的な単語だったわけでもなく、支援金もとくにない時代です。アーユスの前身となったこのお坊さんたちは、現場視察に行った際に、看護師、先生など、日本から来た若者たちが手弁当で動き回りボランティアをしている姿を見て、感動しました。彼らは「私たちができることは何だろう」と悩んだ末に、自分たちが直接活動することも重要だけれど、それよりも現場に出ている人たちを支えるほうがより良いと考えました。それがアーユスの出発点になりました。
ー直接の事業実施団体となるかわりに、他のNGOをサポートすることをミッションにしようと思ったのはなぜですか。
日本のNGOをとりまく募金トレンドの変化が大きかったです。一種の危機感ともいえるでしょう。
1990年代のはじめ、日本ではNGO事業補助金、国際ボランティア貯金など、政府レベルの補助金事業がはじまりました。国際ボランティア貯金は、郵便貯金の利子の一部をNGOに支援して、国際協力事業ができるようにしたものですが、当時は利子も高く、NGOには重要な収入源になりました。手弁当で活動してきたところに、いきなり大きな資金が流れ込んだことで、プロジェクトを維持したり管理する力もつけなくてはならないという問題が生まれました。
組織をよりしっかりさせる必要性がうまれたのです。特に国際協力NGOの場合、運営のノウハウを蓄積していく部分が強化される必要性を強く感じて、その助けになることを選んだのです。
ー仏教ではない、ほかの宗教団体も支援されていますね。
もちろんです。アーユスは超宗派であり超宗教の仏教団体とも言えます。宗教と宗派は問いません。また、宗教を持っているか持たないか、ということも問いません。私たちが資金支援の際に重要と考えているのは、私たちの支援が不当に流用されるとか、私たちが支援したお金のせいで、現場で人権蹂躙だとか紛争の火種がうまれていないか、といった点に気をつけることです。
厳しい環境の現場に入っていくのですから、本当に信頼できるNGOを探すこと、構造的な問題に着目して解決していく力量と観点を持つNGOを支援したいと思っています。宗教に関係なくです。
特に中東地域内の紛争は、世界平和に大きな影響を与えているので、パレスチナやアフガニスタン、イラクなどの人道支援については、かなり気を留めるようにしてきました。
ー主にどうやって支援を行っているんですか。
間接的な資金支援が中心です。特に、NGOの国内スタッフ人件費を支援しています。1年にひとつの団体を選び、3年間の長期支援を行います。毎年、3団体を支援していることになりますね。
最近では、政府補助金や企業の助成金も一部を運営費に充てることができるようになりましたが、以前は全部事業費に充てなければならないという認識があって、NGOの状況は大変なものでした。国際協力NGOは、日本に置かれている事務局がきちんと運営できる、つまり自立してはじめて海外現場でも安定的な支援することができるのです。日本のスタッフが、意識を持ち、力をつけてこそNGOが発展し、それが日本社会自体の発展、意識の発展につながると思うのです。だから、きちんと教育され、雇用され、支援されなくてはならないんです。
NGOの能力強化も支援しています。人件費支援を通じてその団体に口出しするというより、多くの団体と関係していることを活かして、各団体の人たちを集めた「悩み相談会」のようなこともしています。組織が向き合っている問題を各団体でどのように解決してきたのか、具体的な事例を持ち寄って交換します。これまでだと、例えば「評価方法」を教えるとか、決まったカリキュラムでの教育もしてみましたが、今は各団体に力がついて、自分たちで研修をやるようになってきているので、私たちは取り組んでいません。
ーNGOとして他のNGOをサポートするのは簡単ではないと思うのですが、財政面はどうですか。
率直に言って、たいへん厳しい状況です。
アーユスは、お寺、お坊さん、お檀家さん、教団などの寄付金で支えられています。企業や政府のお金は、もらわないことにしています。他の団体の自立を支援しながら、企業や政府から資金を得ているとなれば、他団体にも影響を及ぼすでしょう。
仏教界の支援が大きいだろう思われるかもしれませんが、そうではありません。いろいろなお坊さんやお寺、お檀家さんのご寄付をいただいて、既存の仏教組織がやれないことを、外に持ち出してやっているようなもので、独立的です。
しかし、仏教界に基盤をおいているために、日本の仏教界全般の事情に影響を受けることはあります。日本の仏教はいま、ターニングポイントにあると言えると思いますが、一般の人にとって、日常生活のなかでの仏教といえば、主にお葬式を担う、という機能なのです。よって、お家で亡くなられた方がいれば、お経を唱えてお葬式をとりおこなうことが、お寺の重要な収入源と言えます。しかし今や、お葬式はお寺に頼らないという人たちが増え、お寺も今や財政困難に直面しています。お寺に財政的な余裕があってこそアーユスの力にもなるわけですが、現実は厳しくなっていますね。
ーこれからの計画を教えて下さい。
これまでは、お寺、お檀家さん、教団などを主な対象として活動を広めてきました。しかし今後は、一般の市民にも知らせていく必要があると考えています。これまでも、仏教界の中でだけでなく一般市民が大きく応えてくれた例がありました。宗教に関係なく、多くの人が参加できるプログラムをつくっていきたいと思います。
仏教業界に対しても、もっと多くのお寺の参加を募ろうと思いますが、一般の人たちが「あんなお寺だったら、支えてみてもいいかな」と思えるような空気が、アーユスを通じて生まれるといいなと思います。つまり、私たちがお寺の社会貢献に役立つことで、ウィン・ウィン(win-win)のモデルとなりたいのです。
インタビューを終えて:
本当に小さな団体だった。実務者3.5名、年間予算は韓国なら4億ウォンにも満たない。しかし、韓国にもひとつはあってほしい団体だ。韓国にもたくさんの支援機関があるが、NGOが最も必要とする人件費を得るのは簡単なことではない。NGOスタッフの能力強化を支援する教育プログラムは増えているが、「活動の技術」以上のものも必要な時期になったと思う。世の中にはあまりに社会問題が多く、団体が主張したいイシューが問われたとき、味方になってくれる場も必要だ。これまで24年間、他のNGOの成長そのものを自らの成長記録としてきたアーユスは、小さいが、強い団体だった。
キム ドンフン(PeaceWindsJapanプログラムコーディネーター)