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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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スタッフ雑記帳

スタッフ雑記帳2015/05/21

イスラエル国家とユダヤ教・シオニズムの関係性とは


 2015年5月13日にアーユス事務所の近くにある長専院で、日本国際ボランティアセンターのパレスチナ現地代表である今野泰三さんを講師に招いた勉強会が行われました。アーユスは20年ほど前に設立されて以来、パレスチナ問題について関心を持ち続けてきましたが、大半はパレスチナ人、あるいはパレスチナで活動する日本のNGOの視点・情報に基づいて考えることが多く、イスラエルに関する知識や理解は十分ではありませんでした。この点は、今年2月にアーユスのスタッフ3名がパレスチナを訪問した際に強く感じたことであり、その時に現地でお世話になった今野さんからイスラエルの市民感情とユダヤ教との関係性について詳しく聞きたいとの声が上がり、今回の勉強会が実現しました。

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  イスラエルは建国以来、ずっと内部に矛盾を抱えたまま現在に至っていますが、その根元的な問題は、イスラエルは「ユダヤ的国家」なのか、「ユダヤ人国家」 なのか、「ユダヤ教国家」なのかという解釈を巡って揺れ動いてきた歴史と無関係ではありません。確かにイスラエルの国家を構成する多数派はユダヤ人であり、ユダヤ教徒ですが、それだけではありません。非ユダヤであるアラブ人も大勢います。イスラームやキリスト教を信仰している人もたくさんいます。イスラエルは、ユダヤ人によるユダヤ教国家を目指してきた一方、イスラエルの独立宣言では「宗教・人種・性別にかかわりなく、すべての市民は完全な社会的・政治的平等を堅持するだろう。また宗教・良心・言語・教育・文化の自由を保障する。国連憲章の諸原則には忠実であろう」と謳っています。しかしながら、現にイスラエルのアラブ人を差別する法律(帰還権、居住権、政治的権利、労働・信仰の自由等)が60以上あるとのこと。占領地のパレスチナ人に対する差別・抑圧・権利の否定が行われ、イスラエルの構造的差別を指摘し、是正を求める指導者の権利剥奪・追放した事件も起きています。こうした現状をどのように考えればいいのでしょうか。

 昨今では、ユダヤ人の信仰による国家建設の正当化を主張する声が高まっていて、国家の分裂を回避するために宗教派の力の増大を黙認する状況が起きています。ユダヤ的価値を追求する上で、市民の自由や平等はある程度制限されても仕方がない。市民権・民主主義を否定することもやむを得ない。そう考える人が増えているそうです。いわゆる右傾化が進行しつつあります。そうした考え方の変化が特に立場の弱いパレスチナ人への態度に顕著に表れているように感じます。

 上記のように見てくると、イスラエルは暴力的で国際法を無視してパレスチナを抑圧し続ける傍若無人な国家との印象を受けますが、その根源にあるのは様々な内部矛盾を抱えているという特異性です。イスラエルがパレスチナに対する度重なる差別や抑圧を直ちに止めるべきなのは言うまでもありませんが、一方でこうした数多くの矛盾を抱えながら敵対するアラブ諸国と 対峙し続けなくてはならない状況に置かれ続けたイスラエルの歴史的な経緯や立場もある程度理解する必要があるように思います。現在イスラエルは、中国、ロシア、韓国、そして日本との関係強化を図っているようですが、まずはパレスチナといかに平和に共存できるかという点に最大限の努力を払うべきと考えます。 これは単純に比較はできませんが、イスラエルと同様に米国との軍事同盟関係を有する日本が中国・韓国との摩擦を抱え続けながらインドや豪州等との関係強化を図っている構図と似ているように思われます。

 イスラエルとパレスチナが抱える問題はある意味で国際問題の縮図と言えます。議論すればするほどより複雑かつ難しくなる印象を受けますが、この問題をどのように克服すべきなのか、日本を含めた国際社会全体にとって大きな宿題のように感じます。 仏教者にとってもNGO関係者にとってもこの問題は避けて通ることはできないでしょう。またこのような勉強会の機会を持てればと考えています。