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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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その他の地域2022/02/08

【街の灯Talk21#1】コロナ禍の難民申請者に必要な支援⑤


コロナ禍の難民

井上 コロナ禍が2年も続くなかで、相談内容には変化がみられますか。

(左)松田寛史さん(難民支援協会)(右)井上団(アーユススタッフ)

松田 多くの難民申請者がコロナ禍で日本社会から取り残されていることを感じます。多くの難民がコロナの前から生活の困窮や医療アクセスの難しさ、住居の難しさ、将来の不安に直面しているんですね。難民の方々には医療のアクセスも大きな問題のひとつです。国保に入れる人、入れない人がいて、入れないと病院になかなか繋がれない。私たちであれば3千円で済む治療費が、一万円、またはそれ以上とかかります。コロナ禍もあいまって、多くの難民の方が苦しい状況におかれています。
 数ヶ月前ですが、スタッフ全体でミーティングをおこなっていたときに、ある難民申請者が相当怒った様子で事務所にいらっしゃいました。難民申請も不認定の結果を得て、手続きが終了していまい、公的支援にもつながれない。電気・水道・ガス代も払えない。食べるものも買えないほど困窮されていた方です。日本社会の誰も助けてくれない、味方はいないと訴えながら事務所に入ってこられました。事務所の中では怒りが収まらず、スタッフ数名が外でお話を聞きました。これはコロナだけではないと思いますが、このような状況に陥っている方がいると思います。精神的、身体的に不安定になっていらっしゃる方は多くいます。

井上 生活が成り立たない、食料をどうにかしないといけないなど、そういう切実な問題を抱えて続けていると精神的にまいってします。そういう中で難民支援協会が唯一の相談窓口として助けを求める人が多くいらっしゃるんだと思います。

松田 私たちもまだ力不足のところがあります。ただ、難民支援協会は医を含めた最低限の衣(医)食住の確保を目指して活動しています。医療費が支払えない場合に活用するのは、 無料低額診療事業というものです。これは、外国人の方だけではなく日本人の方でもなんらかの理由で保険に入られない方や生活困窮の方が使える制度で、この制度を難民申請者に活用しています。病院のソーシャルワーカーと連携を図って、難民申請者の方を必要な医療につないでいます。
 住居については、シェルターを借り上げています。現在のところ一軒家を2軒借りていて、そこでシェアハウスのような形で入居してもらっています。そこが満室の場合はホステルの手配も行います。難民申請者が路上生活を強いられないようなサポートをおこなっています。
 コロナと直結するような事例がありました。電話がかかってきて、ちょうど私がとりました。「松田さん、松田さん助けてください、苦しいです」と。一週間ほど前から体調が悪くて何も食べられず、水・お湯しかとれていない。頭痛と熱っぽさがあると電話口で繰り返されていました。その方も難民申請が三回目で仮放免という状態で、アパートに一人暮らしで、頼れる人もまったくいない人でした。70歳という高齢でもあり、普段は明るくお話しくださるのですが、その日は声も小さくろれつも回らない状態でした。ご本人は病院に行きたかったのですが、お金も保険もなかったとおっしゃっていました。私は急遽保健所に相談してPCR検査が受けられる病院を探して手配をしました。結果はコロナ陽性で入院もされて、一時は重症化してICUにも入られました。なんとか療養を経て今は元気になられました。
 先日久々にお目にかかったときは、「松田さん、あの時は本当にありがとう」と。その時は嬉しかったのですが、この件を通じてあと一歩対応が遅れていたらどうなっていたのだろうと日々思います。保険がなく頼れる人もいない、お金がなくて十分な食事もとれず免疫が下がっている方もいらっしゃいます。私たちはそのような状況にある難民の方に対して、一人ひとりのワクチン接種に対する考え方を尊重しながら、コロナ関連の様々な情報発信やワクチン接種のお手伝いをおこなっています。メールアドレスが分かる方には、緊急事態宣言やワクチン接種について情報を送ったり、ワクチン接種につながるように、接種券の取得からお手伝いしたり、予診票の記入もサポートしています。日頃から難民の健康についてお世話になっている病院があるので、そこからワクチン接種も進めていきました。

井上 ワクチン接種の案内は日本語のものしかないのですか? 

松田 予診票は一応多言語で厚労省が出していて、ある程度の言語が揃っています。ただ、そもそもそこへのアクセス方法とか、どういう手続が必要なのかは私達でもわからないところがあります。どこにいったら良いかが分からないとか、予診票や接種券とは何かというような手続きの煩雑さもあって、まったくつながれていない。私は受けられるとは思っていなかったという方もいるくらいアクセスは難しい状況にあります。新型コロナの疑いがある人や感染者から電話があることもあり、保健所とつなぐ対応もしますし、最近では栄養補助食品やスポーツドリンクなどをお送りしています。

井上 新型コロナに限らないと思いますが、今の状況で医者や保健師などに難民の方の相談をつなぐ体制はいかがでしょうか。

松田 ボランティアやインターンの事務所での活動を休止しているので、スタッフが対応しています。通訳の方にはオンラインで入ってもらうなどして、なんとか難民の方々の希求に応えられるよう支援体制を整えているつもりです。(続く)

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