文字サイズ

特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

会員になるには

平和人権/アジア

平和人権/アジア2022/12/01

過去があって未来ができる


アーユスも長年参加している「南北コリアと日本のともだち展」は、昨年が20年目の節目でした。

毎年、韓国・朝鮮・中国を訪問し、その場で子どもたちといっしょに絵を描いたり、絵を受け取ってきたりすることで交流を深め、平和な未来をともにひらく仲間を増やそうとしてきた企画ですが、この数年は渡航自体も難しくなっていました。

そんななかで今年スタートしたのが、オンライン展示「ともだち展ぷらす」。絵の実物は届かなくても写真やメッセージはデータでやりとりできる時代になりました。特に渡航が難しい朝鮮や中国のパートナーにもお願いをしたところ、快く子どもたちの作品を届けてもらえることになり、今回の展示が実現しました(2022年11月1日〜12月10日に実施)。

オンライン展示は2年前に初めて実施したところ、「会場に出かけられないところに住んでいても見られる」「ひとつひとつの作品をゆっくり見られる」「メッセージもじっくり読める」と意外に好評。その特性を活かした新しい試みという意味も込めて、「ぷらす」の名称になりました。

2022年の作品テーマは「私のニュース」。
この間、たいへん残念なことに世界情勢が不安定になり、戦争や紛争といった「大きなニュース」が増えて不安があおられ、軍備増強の必要性が日々議論されています。しかし、私たちは、武力ではなく対話と交渉と密なコミュニケーションによって、日々安心して暮らすことのできる日常を守る努力も怠ってはいけないと思うのです。
ニュースにはならない私たちの何気ない日々、お知らせしたい「小さなニュース」を絵に込めて知らせ合うことで、軋みがちな東アジアの地域のなかで互いへの共感を少しでも生み続けていきたい。これまで築いてきた連携を活かした展示会の継続は、微力ではあっても資することができるのではないか。そんな思いからテーマが決まり、「最近こんなことがあったよ」「いま、私はこんなことに夢中なんだ」「みんなはいま、どうしてる?」と日常を伝え合う内容を盛り込んでもらうことにしました。

「運動会があって綱引きがいちばん楽しかった」「連休、久しぶりにいとこに会って釣りに行ったよ」「とにかく習い事が大変・・・みんなも塾とか行ってるのかな」と描いてくれた韓国の子どもたち。
コロナでなかなか外に出られなかったけれど、やっと落ち着いてきたので「マスクをとって道を歩けるようになりました」「遊園地にも行ったよ」というピョンヤンの子どもたち。
「最近はVRに夢中です」「絵だけじゃなくて、いつかは私の住んでいるところに遊びにきてね」と、実際に会うことを楽しみにしている中国東北部に暮らす朝鮮族の子どもたち。
日本に住んでいる子どもたちも、いま夢中になっているゲームのこと、最近あった学校行事のこと、大好きなお菓子の紹介など、楽しい絵をたくさん寄せてくれました。

さらに、オンライン展示を見てフォームから感想を送ることができるよう「メッセージをおくろう」ボタンを設置したところ、海外の参加者や観覧者からメッセージが続々と到着。SNSでの「いいね!」ボタンよりも一歩ていねいな「作者へのお手紙」には、心打たれるものもたくさんありました。

さらに11月26日には、東京で「ともだち展の日」を開催しました。

この日は会場で作品の一部を実際に展示したほか、三部構成でイベントを行いました。

小中学生向けの「ともだち展のなかまにメッセージをおくろう!」 では、来場した子どもたちと「どこの地域から絵が届いているのかな」「自分が行ったことのある場所はどこかな」と確認しながら、作品をじっくり見てメッセージを書いてもらいました。人気投票をしたところ、一番人気は日本の朝鮮学校に通う中学生の描いた美味しそうなお菓子シリーズ。そして、ピョンヤンから届いたサッカーの試合を描いた鉛筆画が、第二位になりました。

また、ともだち展の呼びかけ人でもあるエッセイスト・海老名香葉子さんをお招きしてのギャラリートーク「平和のために~忘れてはならないこと」は、会場だけでなくオンラインでも配信。戦争体験者として「時忘れじの集い」という東京大空襲を追悼する平和の集まりをたゆみなく続けてこられ、また日本に暮らす様々な国の方々とも手を携えて仲良くしていくという実践を通じて平和を自ら紡いでこられた海老名さんのお話から、過去に学び未来につなげる一つのいとぐちをいただきました。

さらに、そのあとの「ともだち展のつどい」は、韓国のパートナー団体であるオリニオッケドンムの李起範理事長も2年ぶりに来日して参加。これまでともだち展を通じて出会ってきたさまざまな年代の皆さんが集いました。
この時間は、昨今の日本国内で起きている特に朝鮮学校に通う学生に対するヘイトクライムなど、ともだち展の仲間たちが置かれている状況をもっと知るべきという大学生・大学院生の問題提起があり、学生主導のグループワークも行われました。まず、ともだち展に子どもの頃から参加してくれている仲間の一人である朝鮮学校出身の大学生、長年協力くださっている朝鮮学校の先生から報告をいただきました。北朝鮮に関わることなら叩いてもかまわないという風潮、差別が日常にあるという異常を「またか」と諦めてしまう深刻さ。知らないからこそ無自覚な差別をまかりとおらせる前に「もっと過去の経緯を踏まえて日本社会になぜ在日が存在しているかという根本から知ってほしい」との訴えを受けて、来場者の皆さんと意見を分かち合いました。

ともだち展は未来を見据えた取り組みかも知れませんが、現在起きている課題を解決したりただしていくには、その背景、どんな歴史の上に起きているかを知ってこそ道が開けます。この行事もそうした土台をきちんと踏まえた絵画展であるべき。過去があってこそ、私たちが希望する未来がひらける。そんな思いを強くする一日となりました。(〒)