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平和人権/アジア

平和人権/アジア2021/06/14

「ともだち展」の20年


20周年を迎えた東京展20年間続けてきた「南北コリアと日本のともだち展」は毎年、日本で展示会をおこない、また朝鮮や韓国、中国も訪問して作品づくりをするなど交流を続けてきました。しかし昨年来、東京では新型コロナウイルス感染症の影響で開催できず、でも20年目となる節目には「やはり会場で実物を見てもらいたい」という思いから、6月4日から6日まで東京都千代田区のアーツ千代田3331にて開催しました。週末にはトークイベント「東アジアの平和のつくりかた〜絵本のちから」(絵本作家の浜田桂子さんをお招きしました)や「ともだち展の20年」(韓国のパートナー団体オリニオッケドンムにもzoomで登壇いただきました)もオンラインで実施しました。(南北コリアと日本のともだち展のページはこちら

子どもが主役の「ともだち展」は、絵を描いた人もそうでない人も会場に集って、実際に出会い交流を深めたいと思っているのに、交流どころか展示会も難しい。政治的なブレーキはある程度予想してきましたが、未知の感染症にどう対応したらいいのか。デジタル対応の格差や通信手段のギャップなどを避け、参加のハードルを下げるためにわざわざアナログな手段を用いてきた絵画展だからこそ、「じゃあ、オンライン交流ね」とはなりません。でも、実際に会えないからこそ絵の交換を通じて理解を深めあってきたのもこの絵画展です。

「20年目なのだから、みんなで盛り上げなくては」との気持ちは、どの地域のパートナーも同じでした。ともだち展は毎年、新たな作品を募集するのが恒例になっています。いちばん難しいと思われていた平壌からの「今年もどうにかして作品を送ります」という声に後押しされ、「わたしがつくる未来」をテーマに新しい個人作品のほか、各自が願い事や自己紹介を描きこんだ旗をつなげる共同制作「空にとどけるみんなのねがい」をこれまで通り、各地から集めることになりました。特に共同制作は、日韓・日中ではzoom、skypeなどをつないでのワークショップを行ない、お互いの様子を伝えあいながら作ることができました。

そして迎えた20年目の東京展は、いつのまにか盛りだくさんの内容に。
まず、過去20年の作品をたどりながら、その時々起きた出来事、作品を描いてくれた子どもたちの様子を振り返る展示。
2001年の初回から数点ずつを20年分、各時代の写真もあわせて展示しました。
楽しかったのは、その絵の作者の連絡先をたどってみたところ、日本だけでなく、韓国、中国、そして朝鮮からもメッセージが届いたこと。特に、10年前に「10年後の私、未来の世界」のテーマで募集した子どもたちの現在地を確認することもできました。

「大学生になるぞ」(写真。2010年の作品)と描いた朝鮮の子からは、「絵に描いたとおり、大学生になりました。受験勉強はつらくて大変でしたが、『本当に大学生になったのか?』と言われないようにがんばりました」との楽しい報告。
「先生になりたい」を描いた朝鮮の子は、夏休みに日本から平壌を訪問した朝鮮学校の子どもたちと交流した経験があります。「当時は先生を目指していたけれど、いまは大学で経済を学んでいます。あのときいっしょに絵を描いて夢を語り合ったみんな、元気ですか?夢を実現していますか?」と、当時を懐かしむ言葉。
また、自分のいなか(故郷)の風景を描いてくれた中国の子からは、「あの時、絵を展示してもらえたことで、自分の才能に目覚めて賞もいっぱいもらいました。子どもたちに夢を与え続ける絵画展を続けてほしい」とのメッセージ。
「ともだち展」を通じて交流した子どもたちの成長、そして当時の経験を楽しかったこととして記憶し糧にしてくれていたことに、交流の意義を垣間見る貴重な展示になりました。

そして、今年の新作たち。
郵便のやりとりもままならないなか、インターネット経由で画像を届けてもらい、それをプリントして展示しました。共同制作の「旗」も、日本・韓国・中国からは実物、朝鮮からは写真で届き、無事にひとつに繋げることができました。
平壌の小学校の校長先生からは、20周年をお祝いする言葉とともに、平壌の子どもたちが絵画展にどう参加していたかの様子も伝わり、恒例行事を続ける意味をあらためて考えさせられました。
また、何年も絵画展で交流する様子を見てきた先生からは、「ともだち展に参加する子どもたちは、10代にしてすでに世界の平和と和睦を自らつくっているんですね。これまでは兄弟での参加も多かったですが、これからは親のあとを継いで参加する子どもいるのではないでしょうか」とのメッセージが届きました。
日本から最も遠いと思われているであろう隣国にも、心を同じくする仲間がいることに、あらためて勇気づけられました。

朝鮮半島で初の南北首脳会談が開かれ、「冷戦を本当に終わらせて、地域の平和をつくるのは現在を生きる私たち自身。21世紀を平和の時代に」との思いから20年前にスタートした絵画展。しかし、平和はそこから漫然と積み上げるのではなく、日本とアジアの歴史を自分事として捉えるという土台がしっかりしていないと、簡単に揺らいでしまうということも痛感しながらの20年でした。

現在、行き来ができないからこそ、いままで以上にネットやニュースで見聞きする情報で判断するしかなく、排外的な言説が独り歩きしていきます。「最悪の日韓関係」「中国の脅威」…国家の括りで語られてしまうことも、ひとつの要因に思えます。でも、そこに暮らす一人ひとりの日常、生活、思いに目を向けると、また異なる視界が開けてくるのではないでしょうか。

ともだち展がつないできた子どもたちは、一回ずつは本当に少ない人数ですが、長い年数を重ねて世代を超えて、問題解決のためにまずは手を携えてみようという思いを広げています。(〒)