文字サイズ

特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

会員になるには

平和人権/アジア

平和人権/アジア2020/05/29

【ミャンマー】かき消される声を拾い続ける


 2013年頃から動き出した、ティラワ経済特区建設。ミャンマーの首都ヤンゴンから南東に向かって車で1時間程度のところに、2400ヘクタールもの工場団地の建設が進んでいます。これは、日本の政府機関(JICA)と企業が全体の49%を出資するという、日本が官民合同で協力する一大大規模公共事業。すでにゾーン Aにあたるおよそ400ヘクタールの建設は終了し、日本の企業を筆頭に工場の進出が始まっています。

 2011年に軍事政権から民政移管が実現し、その後アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が2015年の総選挙で圧勝するなど、ミャンマーは政治的にも開かれ、そして経済的にも多くの開発事業が進んでいます。しかしこれだけの大規模開発。その陰には、きちんとした補償を受けられないまま、土地を収用された人や、合意ないままの立ち退きを強いられている人も出ています。

 たとえば、最初に移転を強いられたのは68世帯ありました。彼らの多くは農業で生きてきた、農民たちです。しかし、移転先には農地はありません。生計を立てる術がない上に、当初は水道すらひかれていない状況でした。この間、移転住民たちの訴えを届け、生活環境は少しずつ整備され、また3エーカーの共有地が与えられることにまではなりました。しかし、その3エーカーの土地が用意されて3年経った今も使うことができずにいます。軍事政権時代に土地を収用された元使用者への適切な補償がなされていないために、元所有者が「まずは自分たちへ補償を」と要求しているからです。

 この3エーカーの土地が使えないために、移転した人たちの一部は持続可能な生活の糧を生み出すことができないままです。実際、68世帯のうち38世帯は、すでに与えられた土地と家屋を売ってしまっていますが、その要因の一つに借金の形としての差し押さえがあります。

 また、今も強制移転をさせられそうになる人たちがいます。

 現在進んでいるゾーンBの工事のために、合意がないまま強制移転が行われそうになりました。そこにはインド系の人たちも住んでいます。家の周りには広い農地や池があり、彼らも農業で生きてきた人たちです。ゾーンAと同じ移転先では小さな家庭菜園用の土地を確保できる可能性はありますが、農地は得られず生計手段を失うことになるでしょう。そうした懸念もあり、13世帯はまだ移転に合意していません。

 住民が補償に合意しない限り、移転を強制できないというのがJICAが関与する上で現地政府に守ってもらわなければいけない国際的な水準です。しかし、住民の家のすぐそばでも工事は始まりました。

 メコン・ウォッチは住民グループや現地NGOと連携して、不当な状況に立たされている人たちの声を集め、JICAが制定している「環境社会配慮ガイドライン」に基づき提言をおこなっています。

 3エーカーの共有地に関しては、住民がJICAの環境社会配慮で定められた第三者機関である異議申立審査役に訴えたことで実現したものです。審査役は、住民の生活が改善されたか監督し、JICAに提言を送る義務があります。メコン・ウォッチは審査役に書簡を送り、移転住民の生計回復措置が適切に行われず、十分な効果が発揮されていないことを伝え、現状の改善と状況の説明を求め、審査役が理事長へ提言する旨と、2019年度の報告書に状況が記載されることの回答を引き出しました。

 強制移転については、住民の状況をJICAに伝え、ミャンマー政府に住民との丁寧な合意形成を求めましたが、10日も経たないうちに工事が再開。再度の申し入れを行なっています。その後、新型コロナウイルス感染症対策としてミャンマーも移動制限などの措置がとられたため、現場に足を運ぶことは難しい状況ですが、予断は許されないため、メコン・ウォッチも現地のNGOや住民グループと連絡を取りながら状況の変化を注視しています。  

 経済特区の開発は、経済発展の中では求められるものかもしれません。大規模なインフラ建設は、ある意味、作る側に夢を与えてくれるかもしれません。しかし、そこには人が住み、そこで営まれていた暮らしや文化があります。夢に反対する声はかき消されがちですが、それも「人」が発する願いだと、メコン・ウォッチの丁寧な活動は気づかせてくれます。

 しかし・・・・新型コロナウイルス感染症で世界が変わる中、ここまで大規模な経済特区は必要なのでしょうか。これは筆者の独り言でした。(M)