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平和人権/アジア

平和人権/アジア2019/02/25

ミャンマー訪問記:政治的課題って難しい



たくさんの公共バスが走っているヤンゴン市内。オートバイが禁止のため、バスとタクシーは人々の貴重な足となっている。

  2月10日から15日まで、ミャンマーのヤンゴンに行ってきました。初めて行ったのが2002年だったので、なんと16年振り。しかし、前回はヤンゴン滞在は短かったためヤンゴンの記憶はほとんどなく、ほぼ初めての感覚での訪問でした。

 とはいえ、隔世の感を抱いたのは、道ばたでアウンサンスーチーさんの本を売っていたこと。以前は、彼女の名前を口にすることすらできなかったのに、顔写真入りの本が堂々と並んでいるとは! 今となっては国家顧問ですからね、当たり前のことなんですが・・・いやはや。

18burma2 今回の訪問の目的のひとつは、仏教系NGOとしてロヒンギャ問題への関わり方を考えるための情報収集。社会に関わる仏教者のネットワークであるINEBの関係者を訪ね、彼らのロヒンギャ問題に対する意見や視点を聞いてきました。

 訪問したのは、Kalyana Mitta Foundation(KMF)とMetta Development Foundation の2団体。前者は、以前は仏教徒の若者、今は宗教を問わず若い世代の人たちに向けた、人権や環境、平和、批判的な考え方などの教育プログラムを各地で実施していて、最近は仏教僧侶や尼僧たちにも環境や平和についてのワークショップを行っている団体です。後者は全国に700〜800人ものスタッフを配置して、有機農業の技術指導など持続可能な開発のためのプログラムやコミュニティの能力開発に加え、自然災害や紛争の影響を受けた人たちへの人道支援を行っています。

●ロヒンギャ問題は政治課題?
 お話を聞いた中で共通していた見解は、ロヒンギャ問題は政治的課題だということでした。
 ロヒンギャ・ムスリムについて、不法移民だからビルマに残る権利はないと多くの人が考えている。加えて、北部で起きている少数民族との衝突やそれによって増加している国内避難民については、ほぼ報道されていないとのこと。大多数の人たちにしてみれば、ラカイン州や北部の国境に近い地域で起きていることは、ある意味、遠いところの話になっているのかもしれません。
 ロヒンギャ問題が起きているラカイン州には、最近、中国からのパイプラインが完成しました。パイプラインの通達点であるチャウピューはベンガル湾沿いにある町で、中国を中心とした外国資本により経済特区と深海港の建設が始まっています。
 またイスラームによって仏教が駆逐されるという噂がまことしやかに流れているために、軍によってミャンマーが守られるのは必要なことだと信じている人も少なくないとか。
 ビルマ/ミャンマーは40年以上にわたり軍事政権が続き、その間に批判的(クリティカル)な考え方を培う機会があまりなかったために、今でも与えられた情報に対して疑問を持つことのは容易ではないということも耳にしました。僧侶の中にも、ビルマの仏教をイスラームから守ろうとして、アンチイスラームになっている人がいるくらいだということです。マバタという仏教原理主義のグループが、仏教以外の宗教を信じている人たちへの不信感を募らせるような発言をしていますが、それらを含めて問い直すことが難しいのかもしれません。
 お話を伺っていると、なぜか日本のヘイトスピーチの問題をフツフツと思い出すのです。コリアンの人たちについて流布される情報を自分の中で批判的(クリティカル)に受け止めず、感情のレベルで受け止めて流していく。それがたとえ大きな構造の中で意図的につくられ、それを恣意的に解釈していても疑問を抱かない。そしてヘイトの行動にうつっていく・・・。どこか通じるものを感じてしまいました。

●平和教育、人権教育
 一方で、こうしたお話をしてくれた人たちは、しっかり批判的(クリティカル)な考え方を身に付けているのがある意味不思議でした。彼らはもちろん活動の中で、構造的な視点を身に付けたのでしょうが、問題を客観的かつ市民の視点で捉えていました。
 その中でもKMFは、彼ら自身、INEBのワークショップを受けたのがきっかけで、学校では学ばない視点を養い、人権や環境などに目を開いていった経緯があるだけに、プログラムをもっと仏教僧侶や尼僧たちに広げることには可能性を感じます。ミャンマーの中で僧侶・尼僧の発言は大きな影響力を持っています。彼ら自身も、事業をラカイン州の僧侶・尼僧に対して力をいれていきたいと考えているが、この事業には資金が集まりづらいとのこと。可能性を日本国内でも探してみたいと思います。
 Metta Development Foudation で話をしてくれたSさんは、ロヒンギャ・ムスリムへの人道支援をしているロヒンギャ・ムスリムを知っているとか。今回は、この方に会う機会をもてませんでしたが、ミャンマー国内でロヒンギャ・ムスリムへの支援が難しい中でも、今後帰還が始まれば、彼を通じた支援には可能性があるだろうと感じました。

 ヒアリングとはいえ2団体を訪問したのみですが、はからずも、日本社会の問題について考える機会にもなりました。また進捗がありましたらご報告をしたいと思います。(M)