平和人権/アジア
平和人権/アジア2014/02/26ツイート
タイスタディツアー:地域でのHIV陽性者ケアと予防啓発活動
スタディツアー3日目は、Health Share Foundation(H.S.F)によるHIV陽性者のケア活動と、地域での予防啓発活動を学びに、ウボン県の最も北に位置するケマラート郡とナーターン郡にいきました。この2つの郡も、メコン河沿いに位置しているので、メコン河沿いを車で2時間ほど北上しました。
H.S.Fは、元々シェア=国際保健協力市民の会のタイ事務所として活動していました。昨年無事にローカルNGOとして独立したところです。現在は、5人のタイ人スタッフと多くのボランティアによって、HIV陽性者のケア活動、移住労働者やMSM(男性と性交渉を持つ男性)、若者への予防啓発活動を行っています。(※ローカルNGOとして独立するための組織基盤強化活動に、アーユスは資金協力を行いました)
私たちはまずH.S.Fの事務所で活動の概略を聞いたあと、2つのグループに分かれてHIV陽性者の家庭訪問に参加しました。H.S.Fは陽性者の自助グループ活動を支援していますが、この自助グループのリーダーたちが、病院に来るのが困難な陽性者を定期的に訪問しています。
私たちが今回訪ねたBさんは、50歳の女性。HIVにいつ感染したのかはよくわからないそうですが、徐々に体調を崩すようになり、ついにウイルスが脳に入ってしまったために歩行困難になりました。ご両親もまだ健在で、ご両親やお姉さんたちに今は面倒をみてもらっています。夫は既に亡くなったとのこと。
私たちを案内してくれた、自助グループのリーダーであるガイさんが、歩けないといって部屋に閉じこもっていてはよけいに身体が悪くなると思い、リハビリを勧めたところ、家族が家の軒下の柱と柱の間に竹の棒をくくりつけ、それを伝って歩く練習を始めるようになったそうです。もっと歩けるようになると、病院に歩行器を貸してもらうよう交渉すると、ガイさんが言っていました。
Bさんの病気が何であるかは、近所の方には話していないそうです。まだ人に知られることを恐れて、地域行政に補助金の申請をしていないとのことでした。しかし、ガイさんたちによると、補助金申請はBさん一家の決心次第だと。いずれは歩けるようになることを信じてリハビリに励むBさんは、また元のように生活できるのであれば申請はしたくないようでした。ガイさんは、引き続き家庭訪問を続け、病院や地域とBさんをつないでいきます。
現在、ジェネリックであっても抗HIV薬の服薬はできるようになり、病院側の理解や治療体制も整ってきているタイでありますが、それでも人の心次第でケアやサービスの受け方は変わります。それをより充実したものにするためには、自助グループのように当事者自らが活動することが力を発揮させるのだろうと、自助グループの重要性を感じました。
午後は、移住労働者へのHIV予防啓発活動に参加しました。今タイでは、HIV感染への高い危険性を持って居る人たちとして、移住労働者、MSM、若者を位置づけています。情報を得づらい、社会的偏見をもたれやすいなどの社会状況が、彼ら彼女たちのHIV感染リスクが高い理由の背景にあります。
この地域はメコン河沿いに位置していることもあり、ラオスからの労働者が多くいます。農業労働者もいるのですが、女性の中にはカラオケバーで働き、性産業に従事している人たちもいます。
今回は、カラオケバーの1つを訪問し、そこで働く女性たちへのHIV予防ワークショップを行いました。ファシリテーターは、MSMのグループのリーダーたち。真面目な内容を、おもしろおかしく話術を用いて伝えるので、参加者も楽しく話に入っていけて和気藹々。この日は、シェアが日本でも行っている「水の交換」というアクティビティを行い、HIV感染は気がつかないうちに広がる可能性があることを学びました。また、そのあとはそれを防ぐためには、コンドームを正しく使う必要があることのレクチャーをデモンストレーションとともに学びました。
この女性たちは、数週間から数ヶ月の間、1箇所に滞在して働きますが、またその後は別の地域の別のお店へと移動していきます。常に、弱い立場に立つ彼女たちが、少しでも正しい知識と行動を得ることで自らの健康を守ることができることを願いました。そのためにも、このような活動は必要でしょう。
同時に、カラオケバーのオーナーが、きちんと理解を示して協力的であったのは印象的でした。これには地域の保健行政も協力していることが、強く影響していると思います。まさに地域をあげてのHIV予防活動です。(枝木)