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平和人権/アジア

平和人権/アジア2013/10/21

アジア農村部での水の問題 未来の水利用とNGO4回目


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ネパールの水利用の問題について発表する参加者

アジア農村部での水の問題 未来の水利用とNGO4回目 海外NGOの果たせる役割は?

 AANは、砒素汚染以外にも、環境汚染、隣国との水の分配、気候変動など自然的・社会的な困難を抱え、かつ、行政単独では水供給ができないアジア農村部において、環境に配慮した技術による水供給をコミュニティ主体で実現してゆくための支援を10年以上行ってきました。この間に、住民の意識・習慣、行政の限界、行政と業者の癒着など、根の深い問題に直面し、その都度対応策を考え、それを次に活かせる教訓として積み重ねてきました。この経験には、水供給で危機的な状況を迎えようとしている日本にもフィードバックできる面がたくさんありそうです。

 日本の水道普及率は現在97.5%。残りの2.5%は「未普及地域」と呼ばれますが、統計上水道にはカウントされないものの、小規模な水供給手段を確保している地域がほとんどです。かつて砒素鉱山がありAANの活動の原点となった宮崎県高千穂町の山間の集落・土呂久にも、砒素鉱毒による被害を緩和しようと住民自身が40年前に設置した、伏流水を水源とする簡易水道があります。水道の運営に必要な、水道組合の設立、役員の規定、相互監視による利用量の調整、維持管理時の負担分担等、全てを住民自身で決めました(*2)。40年たっても水道は地域の誇りで、今後もこの水を飲み続けることを地域の人たちは切望しています。

 しかし、環境ジャーナリスト・NPO法人地域水道支援センター理事の保屋野初子さんは、土呂久のような山間部の小集落の水確保の問題として、「①集落の人口減少・高齢化により共同作業による施設の維持管理が困難となってきた、②水源地である山林や野生動物の状況が変化し水枯れや水質リスクが高まっている、③次世代のいる地区では処理した安全な水に対する需要が高くなっている等、社会条件・自然条件に変化が生じており、これらの課題を放置すれば水アクセスのない世界へ転落するリスクを抱えている」ことを指摘しています(*3)。

 小規模集落の水が守られるよう、海外での村落給水の経験を持つNGOが相談窓口になり、必要に応じて行政を動かしながら課題解決に先手を打つ。そんな新たな連携の形もありそうです。

 他方、都市部の災害時の水の確保も大きな課題です。南海トラフ地震の被害予測では断水人口は約3440万人と推計され、水の備蓄量の目安を1週間分以上とする国の有識者会議の報告書が出されました。水道の普及に伴い、井戸や湧水を利用する習慣を捨ててきており、ほとんどの地域で水道が唯一の水源となっています。捨てられた水源を復活させること、新しく設置することには、相当のエネルギーが必要ですが、防災への関心が高い今なら行動が起こすチャンスがありそうです。複数の水源を持つことでコミュニティの強化を計る取り組みにも、NGOは社会的・技術的側面から協力できるかもしれません。

 水を得ることは私たちの大切な権利です。しかし、安全基準さえ満たせばどんな水でも良いわけではありません。地域の自然・文化・経済状況・人口規模に最も適した水を住民自身が選択できる権利が守られることが重要です。当然住民側も権利を守るために、意思決定に参加し、負担を分かち合う義務を果たさなければなりません。

 この視点に立つとき、土呂久の水道が未来の水利用のモデルケースであることに気づかされます。九州(*4)の山間部には同様の事例が多数ありそうなので、このような自治水道の継続支援ができる団体になることを、AANとして目指したいと考えています。

 *2 「土呂久からの提言」佐藤マリ子より
 *3 『生活協同組合研究』2013特集「水―国際年を記念して」、日本の水道の「過剰」「過疎」問題と水ガバナンス、保屋野初子より
 *4 AANの本部は宮崎県宮崎市

石山民子