文字サイズ

特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

会員になるには

スタッフ雑記帳

スタッフ雑記帳2023/06/23

総会セミナー「終わらない311 福島から」


 東日本大震災から12年が経ち、避難指示解除の報道が出たりするなかで、復興は進んでいるのだろう、被災者もそれぞれの生活を取り戻しているだろう、と思いたい私たちがどこかにいます。
 しかし、環境NGO・FoE Japanが「ふくしまミエルカプロジェクト」のなかで集め続けている人びとの声をきくと、3.11は終わっていないことをあらためて痛感させられます。2023年度のアーユス会員総会のあとに開催したセミナーでは、FoE Japanの満田夏花さんをお迎えして「終わらない311 福島から」のタイトルでお話を伺いました。

 FoE Japanは、気候変動やエネルギー、森林と開発など環境にまつわるさまざまな課題に取り組んでいますが、福島原発事故の被害者支援とエネルギー政策に対する提言活動は、活動の柱のひとつになっています。アーユスもこれまで、福島の親子を対象とした保養プログラム「ふくしまぽかぽかプロジェクト」や、原発事故の今やエネルギー政策に関する情報を発信する「ふくしまミエルカプロジェクト」などのFoEの取り組みを応援してきました。

 「ふくしまぽかぽかプロジェクト」は当初、放射線の影響が少ないところで子どもたちがのびのび遊ぶ場をつくりたいという思いから立ち上げられました。しかし、率直に原発事故のことや放射能のことを語り合えない日常のなかで、様々なストレスを抱えている親もまた、子どもたちが寝たあとにそれぞれの思いを語り合う場にもなってきたそうです。
 今は、過去に参加した子どもたちが成長してボランティアとして活躍してくれたり、国際交流事業に参加してドイツやベラルーシの若者と交流することで、外から福島原発事故をとらえる新たな気付きを得て帰り発信を始めたりもしています。
 お話のあと「今後、力を入れていかれようと思っていることはありますか」との質問に、満田さんは今年4月に実現した、福島の親子の水俣・長崎学習ツアーに触れ、「参加者は、水俣や長崎でも葛藤を抱えながらも乗り越え、当事者と支援者がともに声を挙げる状況をつくっていったことを前向きにとらえ、『事故後の自分たちを客観的にとらえる機会をもらった』との声もあがりました。福島の若い人や子どもですら原発事故をよく知らないようになっているなか、永遠の課題である「原発事故をどう伝えるか」に向き合いたい」と話されていました。

 また満田さんは、「原発事故は今も進行中と考えています。被害が伝わらないのは、時間の経過とともに風化していくというだけでなく、直接受けている被害をありのままに伝えられないからだと思います」と話し、その目にとまりにくい状況を「見える化」することの必要性を、放射性物質の飛散や震災関連死の状況、避難者アンケートの結果やインタビューといったデータを示しつつ、具体的に伝えてくださいました。
 避難者にとっては、ふるさとに戻ることができたとしても、事故前のような地域コミュニティの支え合い、季節ごとの自然のめぐみ、お祭り・・生き甲斐に加えてそれまでの生業もなくして生活は激変し、自死を選ぶ方もいました。「ミエルカプロジェクト」インタビューでの「復興や絆、いちばん聞きたくない言葉だね。そんな軽く言う話じゃない。復興はいったん元に戻って、そこから立ち上がることでしょう。元にも戻らないのにそこから立ち上がるなんてありえない」という言葉は、復興や絆の大合唱を続けて状況を見えなくしている者への辛辣な指摘でした。(ぜひこちらのサイトをご覧ください)

 また、「いつまでも原発や被害のことを言うべきではない」「放射能や汚染という言葉は禁句」といった<復興圧力>のようなものが辛くて帰れない人もいるなど、中でさまざまな葛藤を引き起こしているというお話からは、被害を受けた人、厳しい状況におかれた人たちに全てを押しつけている現状を、改めて突き付けられました。

 そんな「終わらない」状況の一方で、満田さんは昨今、法律をつくって推進されることとなったグリーントランスフォーメーション(GX)に触れ、日本政府が「次に進もう」とばかりしていることに警鐘を鳴らしました。
 GXは、気候変動に歯止めをかけるために、経済や社会のシステムから変えていかなければならないというものです。法律では、「脱炭素」のプロジェクトに官民のお金が注ぎこんで推進しようとしていますが、脱炭素の電源の中には原子力発電が含まれ、日本があれだけ甚大な被害を経験しながら得た教訓が生かされない状況になっています。
 満田さんは、単に「反原発」の錦を掲げるのではなく、原発が、なぜ原発が必ずしもCO2排出削減につながらないのか、電力の安定供給に適さないのか、電気代が下がることにつながらないのか、といったことを丁寧に説明したうえで、「被害が続いていることを直視し、被害者の救済を実現し、原発依存から脱却しなくてはならない」と力強く結ばれました。

 私たちは、過去にこだわるばかりではなく次に進まなくてはならない、より良いものを求めるためには切り捨ても仕方ない、と考えがちです。しかし今回伺った福島のように、過去になってはいない状況は様々な場所にあるのです。過去から学ぶだけでなく、もちろん現在進行形の課題を直視することも必要ではないでしょうか。
みえないものはたくさんありますが、そこに光を当てている活動のひとつがFoEの取り組みです。
被害をなかったことにするのではなく、今の時代にも続いている現実を踏まえた上で、次に進む。その姿勢は、常に問われているのだと思います。(〒)