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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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スタッフ雑記帳

スタッフ雑記帳2017/04/19

「あたらしい経済」の仕組みを考える


 今年のアーユス春合宿のテーマは「あたらしい経済を探る」。2017年4月12日から13日にかけて、京都市左京区にある永観堂(禅林寺)で行われました。永観堂は、浄土宗西山禅林寺派の総本山の寺院で、古くから紅葉の名所として知られており、本尊の阿弥陀如来立像は「みかえり阿弥陀」として国の重要文化財にも指定されています。多くの観光客が拝観に訪れるお寺でありながらも、凛とした佇まいを残す、古き良き京都の面影を感じることができるお寺です。このような素適なお寺で合宿が行えるのもアーユスならではかもしれません。

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 さて、今回のテーマで講師を務めていただいたのは、中野佳裕さん(国際基督教大学社会科学研究所助手・研究員、明治学院大学国際平和研究所研究員)と、大江正章さん(コモンズ代表/ジャーナリスト/PARC共同代表/全国有機農業推進協議会理事)のお二人。このテーマを考える上で最も適した講師をお迎えすることができました。

 まず、中野さんのお話で印象的だったのは、現在世界が抱える経済発展のあり方をめぐる問題の中で、特に「過剰発展」による負荷が社会の様々な面に深刻な影響を及ぼしているという分析でした。過剰発展による悪影響として真っ先に思いつくのは、地球温暖化などの環境問題ですが、それとともに、経済先進国と呼ばれている国々で生活満足度が著しく低下している現象が見逃せないといいます。特に、米国は1956年をピークに生活満足度が低下の一途を辿っており、その要因として社会的な格差や不平等の拡大とともに、社会関係の喪失という経済発展の代償が重くのしかかっていると指摘されました。ふつう経済発展すると生活満足度はそれに応じて上がるものと思われていますが、実際には下がっているという現象をどのように捉えたらよいのでしょうか。例えとして、人間関係に恵まれていない人は関係の貧しさを消費で埋め合わせようとする傾向があって、必要以上に消費行動に走ることがよく見られるそうです。そして、企業はこうしたコミュニケーションの喪失を埋め合わせるための商品などを作って消費を煽ろうとあの手この手で広告を打って買わせようとする。こうして個人の消費は伸びるものの、いくらモノを消費しても結局心が満たされることなく、更なる消費に向かうという負のスパイラルに陥り、「消費社会依存症」が蔓延する結果になるという現象が起きています。中野さんからは、経済成長の中で一度は否定された価値観を再評価することで地域社会を創っていこうという南ヨーロッパの地域づくりの事例が紹介されましたが、ここに「あたらしい経済」のあり方を考えるヒントが隠されているように思われます。

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 一方、大江さんは、「コモンズ(=共):(人びとによる生活空間・生活手段・情報・知識の共有化の実践)」という概念をもとに社会のあり方を考えていくことの重要性を指摘した上で、大きな「共」・適切な「公」と「民」、小さな「官」によって成り立つ社会を理想として、日本国内での地域づくりの実践例から新しい経済のあり方を創り出していこうとする動きを紹介しました。「就活」「婚活」「終活」などのキーワードに倣って、いま日本は「公活」が必要。つまり自治体が元気にならないと日本の地域社会はよくならないと強調されました。また、20代から30代の男性と女性がIターンで地方に移住したいと考えるようになっている点に着目して、その背景には子どもの貧困率が特に大都市部で高くなっている(6人に一人)ことと無関係ではないことを指摘されました。より多くの若者が暮らしやすさや子育てのしやすさなどで地方移住を考えるようになっているのは間違いありません。

 また、日本の農村が最も活気があった時代は1950年代で、1961年に農業基本法が施行されると農業の選択的拡大が奨励されるようになり、循環型農業は経済発展の貢献しないとの理由で切り捨てられていくこととなりました。その結果として、農村部は徐々に疲弊し、あぶれた人たちが次第に都市部の労働力として経済発展に組み込まれていくことになりました。その一方で、大都市部は経済発展の恩恵を享受した反面、食糧もエネルギーも自給できず、地方に依存する歪な構造が定着していくことになります。さらに「無縁社会」とも呼ばれる孤独な高齢者を多く抱えた「限界社会」という言葉も生まれており、こうした背景が若者をより一層地方へと目を向けさせる要因になっているといえます。

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 2日目は、上記の講義内容を踏まえつつ、メコン・ウォッチ事務局長の木口由香さんから海外の現場で活動するNGOの視点でこの「あらたな経済」をどう捉えているのか、NGOとして考えるべき開発や経済成長のあり方について問題提起いただいた後に参加者同士がグループに分かれて議論を行いました。様々な意見や考え方が出された中で、特に普段の仕事や生活でこのような視点で経済を考えることが少なかったとの声が多く聞かれ、自分自身と地域社会との接点の少なさを改めて感じたという意見がよく聞かれました。また、食にしてもエネルギーにしても適正な規模で地域社会の中で循環していく仕組み作りの大切さを指摘する声が多く聞かれ、自分でできることを小さなことからでも積み重ねていきたいとの抱負を語る方が多かったのが印象に残りました。

 合宿中は、一般の来訪者が訪れる前に永観堂を拝観するという貴重な経験や、今年2月に行われた第4回アーユス賞授賞式でアーユス特別功労賞を受賞された岸野亮淳師(浄土宗西山禅林寺派 恵光寺住職)の法話を伺う機会にも恵まれ、参加者にとっても仏教を身近に感じつつ、新たな経済や暮らしのあり方をじっくりと考えるひとときを過ごすことになったと思います。

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