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平和人権/中東

平和人権/中東2020/08/12

【街の灯トーク#5】経済危機のレバノンに生きる難民 そしてコロナ禍④


そしてコロナ禍 ― 一番欲しいものは食料

枝木 それが去年の10月のことで、それから4ヶ月くらいのうちに、今度はコロナの課題が降り掛かったわけですが、どういう状況ですか。

田浦 2月にレバノンでも国内初の感染者が確認され、それからUNRWAのも含めて、まずは教育機関がみんな休校になりました。そして3月15日に政府による非常事態宣言が出されて、ほとんどのお店やいろいろな機関が閉まり、空港など公共交通機関が営業や運航を停止してしまいます。レバノンから今、飛行機は臨時便を覗いては飛んでいない状況です。
 難民キャンプでは、4月に初めてワーベル難民キャンプで感染者が確認されました。そのあと6月末に南部のキャンプと北部のキャンプで確認されたと現地から聞いています。

枝木 国全体の感染者が1,788名という中、難民キャンプの中ではそこまでの広がりが見られていないのですか。

田浦 そうです。そこまでの広がりはありません。

枝木 難民キャンプでのコロナ対策やPCR検査はどういう形で行われていますかという質問も寄せられています。

田浦 先月感染者が出た時は、UNRWAが確か検査、濃厚接触者の検査も行ったと聞いています。

枝木 レバノン政府は介入してこないのですか。

田浦 いや、レバノン政府も一緒だったと思います。

枝木 難民キャンプで広がってしまったらレバノン社会にも影響を及ぼしますものね。

田浦 コロナ支援の対策ですが、現地は日本に比べるとマスクなどの保護具が不足しているとは聞いていません。食糧配付の時などは人数を区切り、渡す側も受取にくる人もマスクをするようにお願いしています。ただ今日・明日の食糧確保が問題の人にとってはマスクまで買うのはかなり厳しいのでつけられていないのが現実です。

枝木 しかし、実際の病気にはかかっていないにしても、それ以外の影響が深刻に及んでいるというのは・・。

田浦 もともと日雇で建設業についていた方が難民には多いのですが、経済危機以降、そういう日雇いの仕事さえも失った方が多くいます。レバノンの中の失業率もあがっていますが、特に難民の失業がさらに多くなっています。そうしたいろいろなことが重なって精神的ストレスや不安を抱えている時にコロナの問題が追い打ちをかけました。健康の不安が加わりました。レバノンは結局休校したまま学期を終えたのですが、学校の閉鎖に対して親御さんたちは子どもたちの将来が不安です。また家庭内暴力の発生、難民とそれを受け入れているレバノン人、レバノンに元々暮らしている難民とシリアから来た難民との間の軋轢などが、増えています。
 コロナ禍の前からですが、この数年、難民に対する排斥の動きがレバノンの中で強まっていて、シリアから来た人は早く帰れよという動きも残念ながら起きている状況です。

枝木 そういう様々な課題を現地のパートナー団体から伝えられてきて、その中でも食料が逼迫したと言われたのですか。

田浦 現地パートナーと教育支援も行っていますが、コロナの感染拡大によりオンラインでの学習支援を始めました。そこで保護者から聞こえてきたのが、もちろんオンラインの学習支援も大事なのだけど、それと同時に給食支援が必要だということです。これまでも、当会は給食支援をしてきたのですが、学校や補習クラスが休校になったことでできなくなりました。給食が子どもたちにとっての最大の栄養源だったのになくなってしまい、子どもたちの成長についての不安の声がたくさん聞こえてきて、とにかく食料支援を緊急で実施したほうがいいのではと、現地との話し合いで決めたんです。

枝木 一番欲しいのは食料だという声が、切実さを持って届けられたんですね。実際にどういう形で動かれたのですか。

田浦 山間部の難民キャンプとベイルートの難民キヤンプには支援が全然入っていなくて、生活が大変な方が多いということもあって、もともと山間部1500世帯とベイルート500世帯にしようかという話で始まりした。しかし、結局はベイルートにも大変な方が多いということで1000世帯、合わせて2500世帯に支援することになりました。

枝木 最初はバウチャーを配るという話でしたが。

田浦 最初は難民の方にお店での引換券を配って自由に選んでもらおうと思っていたのですが、お店と内容を詰めている間にどんどんアメリカドルとレバノン・ポンドが動いて、物価があがってしまったんです。ある程度の食料をこちらで選んでパッケージにして、大量にそろえて配ったほうがたくさんもらえるし、誰でも使うものなら無駄にはならないということで、誰もが食べるパスタ、お砂糖、油、あとは栄養バランスを考えてツナ缶や豆類、他には現地の人からの強い要望がある紅茶やジャムもいれました。特にシリアから来たパレスチナ難民の方は、こういう大変な生活の中でもお茶の時間を大事にしたいという思いがあり、紅茶はいれましょうと現地の提携団体とも話しながら内容を決めました。
 他にいれたものには、現地の人たちが日常的に大人の方や年齢の高い子どもが飲む固形ミルクです。液体の牛乳は売ってなくはないのですが、値段も高価なので現地の方は買わないので、粉ミルクを大人向け、年齢の上の子ども向けに配りました。調理などにも使えるものです。

枝木 動けなかったり、直接購入ができなかったりする中、バウチャーは一つの手段だと思っていたのですが、経済危機や物価高騰が重なることによって状況が変わったところに、柔軟に対応されたのですね。
 質問も頂戴しています。ひとつは、パレスチナ子どものキャンペーンに寄付した場合、どういうふうに使われるのか教えていただきたい。また受益者はどのように選定されていて、もらっている人ともらっていない方の間に軋轢があれば教えてくださいとのことです。

田浦 まずご寄付について、たとえば食糧支援向けに頂戴した寄付は現地に送金して、現地での食料パッケージにあてさせていただいています。
 選定については、パレスチナ系シリア難民の中に特に生活が大変な方が多くいらっしゃるので、同じエリアの中に住んでいるパレスチナシリア難民のすべての家庭を対象にしています。それで軋轢もおきていません。もらえる人もらえない人が同じエリアででてくると、なんで?と軋轢が生まれて、私達の支援が逆にそこに対立や軋轢を生む可能性があるので、そのあたりに配慮しながら、より脆弱な方に届くように選定しています。

枝木 同様の質問で、同じ地域にシリア人とパレスチナ系シリア難民、もしくは元々からいるパレスチナ難民がいる場合、支援の違いや調整があるのでしょうかということです。

田浦 調整はしています。同じようにテントが並んでいる中でも、貰える人もらえない人が出てくるのはよくないので、他の団体と調整しながら、私達はパレスチナ難民の人たちへ支援をします。じゃあうちはシリア難民を支援しましょうみたいに調整しています。

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