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平和人権/中東

平和人権/中東2020/08/12

【街の灯トーク#5】経済危機のレバノンに生きる難民 そしてコロナ禍②


複雑な宗教国家レバノン、そして複雑な難民事情

枝木 年表を拝見していると、内戦もあり、イスラエル による南部占領とか、イスラエルとヒズボッラーの衝突などとありますが、なかなか情勢の落ち着かない国でもあるのですか。

田浦 レバノンは岐阜県くらいの小さな国で、周りがシリア、イスラエルなどと隣接しているのと、1975年から15年にわたり内戦が続き、イスラエルが南部を長い間占領していました。2000年にはいったん軍が撤退しますが、2006年にはイスラエルとヒズボッラーとの間で武力衝突があり、なかなか内戦や衝突が絶えないところです。
 内戦が終了したあとに経済復興が進められて、街も荒廃したところが整備されてきました。しかし経済の問題も抱えていて、復興が思うように進まないまま今に至っています。
 他の周辺の中東の国と違うのは、レバノンには18の宗派が存在していて、その宗派ごとに政治的権力が配分されているのも、他の国とは違う点です。

枝木 宗派というのは、キリスト教の中にもいろいろな宗派があり、イスラームの中にもいわゆるシーアやスンニだけでなくマイノリティな宗派も大きく存在しているということですよね。

田浦 そうです。それぞれが政治的な立場や利害をめぐって確執があるために、複雑で落ち着かないところがあります。
 そういう中で2011年にお隣のシリアでシリア危機、内戦が発生して大量の難民がレバノンに押し寄せました。その押し寄せた人の中には、レバノンを経由してヨーロッパなど第三国を目指す方もいらっしゃるのですが、それも叶わずに一時期は150万人を越える方、三人に一人が難民という割合で、レバノンはシリアからの難民を受け入れていました。岐阜県より小さな国でかつ、30年くらい前まで内戦があった国にこれだけ多くの難民が押し寄せたために、さらに経済が圧迫されました。
 レバノンは公式のシリア難民キャンプを造ることを認めていません。なので、もともとあるパレスチナ難民キャンプは土地が安いということがあって、そこへたくさんのシリアからの難民が押し寄せました。いまは国民5人に1人以上が難民で、割合からいうと世界最大の難民受け入れ国です。

枝木 人口に対しての割合がものすごいですね。

田浦 レバノンに何十年も暮らすパレスチナ難民が、だいたい27万人くらいいらっしゃいます。そこに2011年以降、少し減少傾向はあるものの、今なおシリア難民が100万人近くいます。その中で、私たちが主に支援してきたのはパレスチナ人のシリア難民の方。ナクバがあってパレスチナからシリアに逃れて、そこで何十年も暮らしてきたけれど、シリアで内戦が勃発したためにレバノンに再難民、二重難民として避難されてきた方が3万人くらいいて、その方たちの支援活動をしています。

枝木 難民の支援機関というとUNHCRをすぐに思い浮かべますが、この表を拝見すると、パレスチナ難民はUNRWAという別の機関が庇護をするという役割分担があるんですね。

田浦 はい、それは実はUNHCRができる前に、パレスチナ難民が発生した経緯があって、パレスチナ難民を庇護するのはUNRWAが担当すると分担がされています。そのために、同じシリアから来た難民でも、パレスチナ人なのかそうでないのかということで、支援する国連機関が変わってきます。

枝木 聞いた話ですが、UNRWAに対してアメリカがかなりお金を支援していたのが、それが止まってしまってUNRWAが経営難だとか。そのあたりは難民の方への支援にも影響が及んでいるのでしょうか。

田浦 UNRWAの財政問題は、アメリカが停止する前からかなり苦しい状況だったのですが、さらにもともと一番お金を出していたアメリカが、2018年に拠出をやめますとなって、それから本当に苦しくなりました。たとえば、パレスチナ難民の子どもたちは、基本UNRWAの学校に通うのですが、先生の数を減らす目的から近い地域にある学校が統廃合されました。一クラスあたりの児童数が増える、少し離れた学校に行かないといけない、授業時間の確保が難しいなど、問題が起きています。あとは住宅補助の現金支援があったのですが、それも落ち着かない。医療サービスも基本的にはパレスチナ難民はUNRWAの医療機関にかかるのですが、入院費などがカットされてしまう。医療、教育など生活の基本となるところに影響が及んでいます。

枝木 難民キャンプの子どもはみんなUNRWAの学校に行くというのが基本ですか。

田浦 パレスチナ難民の子どもはそうですね。ただキヤンプにはシリア人の子どももいるので、シリア人の難民の子どもたちはレバノンの公立学校に通うことになっています。

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