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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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その他の地域2008/08/25

子どもの権利と児童労働


ACE総会講演

子どもの権利と児童労働

チョコレートから見える子どもの未来

 子どもが働くのって悪いことなの?

 児童労働って子どもが働くこととは違うの?

「なんでこどもが働かないといけないんだろう?」という、素朴な疑問に突き動かされた大学生たちが集まって始めたACEは、子どもの視点を持って児童労働の問題に取り組んでいます。子どもが働くということと、子どもの労働が搾取され人間らしい生活を送れなくなっていることは違います。子どもも基本的人権が守られるように策定された「国連子ども権利条約」においても、子どもたちにはあらゆる種類の虐待や搾取などから守られる権利があることを大きく謳っています。
 今年の総会セミナーでは、今年度からアーユスが支援するACEの岩附由香代表をお招きし、子どもの権利と児童労働の関係や現在の児童労働の問題の状況についてお話しいただきました。身近にあるもので日々使っているものが、実は世界のどこかの子どもたちの労働によって作られているという現実に気づかせていただきました。その中でも特に、チョコレート産業を事例にお話しいただきました。今後、買うチョコレートの選択を変えることで、子どもたちの未来が変わるかもしれません。


子どもの権利条約
岩附由香

いわつき・ゆか
特定非営利活動法人ACE代表 
大学院在籍中の1997年に国際子ども権利センターの児童労働のプロジェクトに関わったのをきっかけに、同年「児童労働に反対するグローバルマーチ」を日本で開催するためACEを発足させ、以後代表を務める。「世界中の子どもに教育を」キャンペーン事務局長(2004年)、「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーン運営委員(2005年)などでアドボカシー・キャンペーン活動に従事。ACEでは理事として組織運営に携わる傍ら、政策提言活動・資金調達を担当している。

 私が児童労働に始めて出会ったのは、大学生の時、メキシコにおいてでした。小さな子どもがお金頂戴っていう感じで近づいてきて私を引っ張っていくんです。それで、近くをみるとお母さんがそれをぼっと見ているんです。お母さんはなんでこんなことをさせるのだろうっていう怒りがこみ上げてきました。お母さんも他に選択肢がなくてそうしていたかもしれないんですが、その時はその状況がわからないままでした。でもその後、児童労働に興味を持ち本を読み進めていくうちに、どうやら世界では子どもたち全員に教育を与えましょうという宣言が採択されている、しかし一方、現実では働いている子どもが多いということがわかってきました。それでもう少し勉強している中で国際子ども権利センターの甲斐田万智子さんとの運命の出会いがあり、そこから一気にNGO業界に足を踏み入れてしまったのです。

 国際子ども権利センターで私が学んだのは、世界で一番児童労働が多いインドの実態で、そこで働きながらも声をあげる子どもたちの活動でした。そこで初めて子どもの権利条約というコンセプトにふれたんです。

 私がこの条約で一番大切だと思っているのは、子どもが生まれながらにして権利を持っていることです。大人は子どもの面倒をみる立場で、子どもに権利を与えているという意識があるかもしれませんが、そうではなくて、子ども自身が権利を持っているんだ、存在するだけで権利があるんだということを高らかに謳ったことがすごく大事だと思います。大きくわけて、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利という基本的な人権を保障しているんですけれども、その中でも児童労働に関係する条文がいくつかあります。意見を表明する権利、教育を受ける権利、経済的搾取保護という問題、さらには性的搾取や子どもの誘拐などと児童労働は様々な子どもの権利の側面に関わってくるなと感じています。

ACE誕生

 ACEは「児童労働に反対するグローバルマーチ」という大きなムーブメントを日本でも行いたいという学生5人から始まりました。このマーチを世界各国で行おうとしていた海外の人たちがいたのですが、日本ではどの既存の団体もマーチをやろうという話にならなかったのです。だったら自分たちでやらないかと、現在事務局長の白木に電話をかけたところからACEが始まりました。

 このマーチは世界各地を歩くんですね。当時98年頃は若い人がこういうウォークをするのはなかなかないし、私たちも経験がないということで、試行錯誤をしながら行いました。お金がないのでまずは勉強会を始めたところ、次第にどんどん人の輪が広がって日本でもマーチをすることができました。大阪・東京のマーチでは、プラカードや風船を持って替え歌を歌いながら歩き、デモンストレーションという怖いイメージのものではなくて、もう少し人目を引いてかつメッセージを伝えられることをしようということでやりました。

 6ヶ月のグローバルマーチの最終地点は、国際労働機関(ILO)という国際機関でした。それは、「最悪の形態の児童労働」という新しい児童労働の条約がここで作られることになっていたからです。新しい条約が作られるということは新しい児童労働の定義やコンセプトが打ち出されるということですので、それによってこれまでなかなか児童労働を認めない、また取り組まなかった国にも、こういうものはいけない、自分たちも取り組まないといけないという機運を、そして先進国にも支援しないといけないという機運を作りました。こういったムーブメントによって新しくできた最悪の形態の児童労働という条約が、ILO史上もっとも早いスピードで多くの国が批准をした条約になったんです。

児童労働と子どもの仕事

児童労働と子どもの仕事はなにが違うのかということをよく疑問に思われるんですが、児童労働という言葉を私が使う時は、子どもが働くというよりは狭い定義で使っております。子どもが働くというのは、子どもの成長にみあって、心身に悪影響がない労働であればいいのではないでしょうか。その一方で、児童労働と呼ばれるものは、義務教育の機会を奪う、その労働によって心や体が傷ついてしまい、大人になってこれから働こうというときに働けなくなってしまうような、そういう労働を児童労働と考えています。これはやんわりとした説明で、きちんとした説明をしようとすると条約ということになります。先ほどご説明した、最悪の形態の児童労働条約というのがひとつ基本的な条約で、これは18才未満の子どもたちにとって悪影響のある労働を定義して、その労働をなくしていこうという条約です。最悪の形態というのは、奴隷のような労働、ポルノ・買春、不正な活動に子どもを利用する、危険な労働を指します。

 一方で最低年齢条約もあり、これは1976年から長い間ある条約ですが不人気で、私たちが調べた97年、98年頃には60カ国くらいしか批准していませんでした。それが最悪の形態の児童労働条約が出来て、それを批准する際に、この最低年齢条約もセットで批准する国がでてきて、かなり批准が進みました。こういった条約に批准すると国内の法律を変えないといけないので、そのために日本も整合性をとるのが難しく最低年条約に批准できなかったようです。

 世界では2億1800万人の子どもが働いているのですが、これは日本の人口の約2倍の子どもたちが有害な労働についていることになります。その中でも特に危険・有害労働といわれる労働に就く子どもが1億2800万人ということで、かなり大きな問題と思うのですが、児童労働という問題の複雑さや取り組む人たちの少なさや、資金のなさやいろんな問題があって、なかなか表だって児童労働のことが話されないような雰囲気がずっとありました。

 農業が、児童労働が一番多い産業ですが、そのほか、サッカーボールを縫ったりコーヒー農園でも多くの子どもが働いています。サッカーボールは、足に先っぽが割れるようになっている棒をはさんで、その割れ目に布をはさんで糸で縫います。ACEはこれをそっくり再現したサッカーボール縫いキットというのを貸し出していますが、頭で理解するだけでなくて、皮ってこんなに厚いんだなとか、結構大変なんだなと言うのを体験を通じて理解を深めてもらっています。私たちが身の回りに使っているものには、実はこういう子どもたちの働きが背景にあることを、なかなか日々の生活では気づくきっかけがないので、ACEとしては、もしかしたらこれもそうかなというような気づくきっかけを多くの方に持ってもらうことを願って啓発活動をしております。

チョコレートも児童労働?

 ここで突然ですが、チョコレートに関するクイズです。日本では1年間で1人あたり板チョコを平均何枚食べるでしょうか。正解は30枚です。

 各国で食べる板チョコですが、ドイツやスイスはすごい量を食べています。1人あたりではなくて、国別の消費量を見ると、日本は人口も多いのですが6位になります。では、カカオ豆は世界のどの地域でもっとも多く作られているでしょうか。答えは西アフリカです。世界のカカオ生産高の約7割を占めています。南米のイメージも強いと思います。実は生産地で値段が全然違うそうで、南米のものは少ないけれど高価。西アフリカの価格の1.5倍くらいの値段で取引されているそうです。ちなみに東アジアでは取れません。赤道をはさむ南北緯度20度以内に限られています。つまり、作っているところと消費しているところは別なんです。では、日本は、どの国からカカオ豆を一番多く輸入しているでしょうか。正解はガーナです。約70%はガーナ産です。では、アフリカでは子どもの何人に一人が児童労働しているでしょうか。正解は3人に1人です。世界全体では7人に一人ですが、アフリカの特にサハラ以南のアフリカでは3人に一人です。ここはいろんな開発の指標をみても遅れをとっているところです。ただ数をみているとアジア・太平洋が多くて、特に南アジアは課題が多いです。

カカオ農園の実態

 ここからカカオの話に入ります。カカオ産業に児童労働があるという報道を受けて調査が始まったのが2001年。カカオ農園の多くは小規模で家族経営であり、子どもたち6才から17才までの3分の1は1度も学校に行ったことがなく、2000人の子どもが農園経営者と血縁関係にないというようなことがわかりました。西アフリカは、親戚の家に子どもを働きに行かせるという慣習が昔からあったのですが、それが形を変えてしまって、人身売買的にこちらからこちらへと人を流すような形態が蔓延しているという危険な状態にあります。ガーナで人身売買にあった子どもたちを救出するNGOの人からお話を伺ったのですが、どの子がそういう子かわからない、そういう子を見つけることがまずは難しいという話でした。実際、カカオ農園で働く子どもの14〜16%は14才以下ということだそうです。

 ガーナも地域によってかなり差があって、北部は貧しいですがカカオは取れません。南部はカカオ生産地ですが、子どもたちも働いていると。私たちが最初に調査をしたのは人口が5000人くらいの大きなコミュニティで、学校もあるし子どもたちも学校に行きながら手伝いをする状況だったんですが、白木がそのあとに行ったコミュニティはかなり貧しくて子どもは学校に行くことができずにいました。

 ガーナの中でもカカオの生産量がかなり多いアシャンティという地域に行ってきました。実際に子どもたちがカカオ農園に関わるあらゆる作業に携わっています。草刈り、農薬散布、肥料やり、実を取る、実を割って豆をとって発酵させて家に持って帰る、家で乾かした物を倉庫まで運んで売る。あと苗床を自分の家で準備して芽が出たものだけを植えにいくんと、そういうような作業をやっています。

 この中で一番身体への負担が大きいのは、実はカカオ豆や農産物を運ぶという作業です。畑と家の間を炎天下のなか一時間またはそれ以上かけて運ぶのですが、運ぶものがとても重くて20キロ以上くらいあるものを頭に乗せて運ぶわけです。子どもたち自身に聞いたら次の日に頭が痛くなり、すごく安い頭痛薬があるんですが、それを飲まないと次の日に学校に行けないくらいだそうです。  

 農薬散布も、農薬自体は小さなスプレーに入っていてそれに水を入れて蒔くんですが、防具はありません。子ども自身がこの作業をすることはあまりないのですが、子どもはその周りで作業をしているので、その農薬にふれる機会が多いようです。なたの使用は、アメリカ政府は最悪の形態の労働といっているのですが、実際に3歳のくらいの子どもがなたをもってうろうろしていました。なたなんて使って危ないと先進国が一方的にいうのはどうかなと正直思うのですが、私がインタビューしている時も子どもが足を切ったりと、それによる怪我が多いのも事実です。薪運びもかなり重いので、子どもたちは嫌っている作業です。また、朝晩と水くみをするんですが、井戸が手押しポンプの場合は順番待ちで、いつも子どもは後回しにされて学校に遅れることもあるようです。

 学校は、日本の学校とだいぶ違います。壁がないというのと、屋根がトタンです。青空教育もまだ行われています。うちの白木が青空教室の子どもたちにインタビューしたら、その日に熱が出て倒れてしまったくらいなので、屋根もないとさすがに支障がでるのではないでしょうか。

 さきほども作っているところと食べているところが違うという話をしましたが、チョコレートの原料は西アフリカや中南米で作られますが、加工したり消費したりしているのはいわゆる先進国が多いです。ガーナの場合は統一価格で政府がライセンスを与えた企業が農民から買い取るシステムで、それをまたガーナ政府が買い取ってガーナ政府が輸出するような仕組みになっています。私が行って感じたのは、カカオは現金収入の貴重な一つなんです。でも逆にいうとカカオが駄目だと現金収入が何もないんです。自分たちが食べるものは畑で取れる程度でいいのですが、子どもたちを学校に行かせようとすると現金収入が必要になります、制服代に5ドル、文房具も必要です。子どもって大きくなるので制服も一度では済まないし、そういうお金が子どもがいればいるほどかかります。

 実際にインタビューしてみると学年と年齢があわない子が非常に多いんですね。6才の時に入学せずに、7才、8才、9才になって入学するので中学3年生で18才とかそういう子がたくさんいるんです。今世界中でミレニアム目標を達成しましょうというのがあって2015年までに全ての子どもが小学校を終了するようにといっているのですが、それを計算すると2009年までに全ての子どもが入学していないと終了できないんですね。それにも関わらず、それに向けての必用な支援は十分にされていません。

 カカオの価格が決められるのはロンドンとニューヨークです。それが、世界の需要と供給だけで決められるものではなくて、投機的なマネーが入ってきてそれで上下することもあるようです。私たちがインタビューをした時に、あるカカオ生産者に、どうしてカカオ豆の値段を自分たちが決められないのかと聞かれました。彼も、こういう世界的な仕組みの中でカカオの値段が決まっていることをわかっているんだけど、どうしてっていう疑問を投げかけているんでしょう。彼の家庭は実際にすごく苦しい状況で、彼自身は働きすぎて体をこわしてしまい、子どもたちが全部やっているという状況でした。この状況というのが、私たちが取り組むべき課題をつきつけているなと思いました。

児童労働に対する、ACEの取り組み

 そこで、児童労働という大きな課題に対するACEとしての取り組みですが、ACEとしては大きく分けて2つの方法で解決したいと思っています。一つはアドボカシー活動、つまり、啓発と提言活動です。日本政府については、働く子どものための一万人署名を児童労働ネットワーク主催で行っています。日本はほとんど児童労働問題に支援をしていないので、きちんとODAの中でも取り扱いをするように私たちは言っていきたいと思います。その署名は途中経過ですが、6月12日が児童労働反対する世界デーだったので、外務副大臣に直接お会いして集まった分を手渡しして、副大臣からも外務省全体で努力しますというメッセージをいただいてきました。私たち自身ももっと専門性を高めてきちんとした提言ができるように準備していきたいなと思います。

 企業に対しては、自分たちのビジネスの中で、自分たちが作る製品の原料であるものが環境や人権や労働に配慮したものであるようにとCSR調達(※CSRは企業が社会の構成員として、法令遵守はもちろん人権や環境にも配慮し、消費者や従業員、地域社会などのステークホルダーに対して責任を果たすという考え方。それを調達先にまで拡大すること-http://jinjibu.jp/より-)というものを進めていって欲しいということで、企業向けのセミナーを開いています。実際に、フェアトレードのカカオを使ったミニストップさんのソフトクリームもACEが関わらせていただきました。これは、去年の2月にミニストップの社長と対談をさせていただいたのが、きっかけです。その時に、カカオの児童労働の話をしたらミニストップとして今後フェアトレードのカカオを使ったソフトクリームを作らないかという話が生まれました。ACEとしては、後方支援として、販売する店舗の店長さんへの説明文章を考えたり、さまざまな議論に参加させていただきました。市民に向けては、キャンペーンを毎年させていただいています。東京だけでなく各地で様々な団体と一緒に、児童労働について考え知るイベントを企画して広げています。

 啓発や提言は、どちらかというとこれから児童労働を増やさないという予防的な側面が強いのですが、国際協力の視点では、今困っている子どもたちをどうするかということで、直接の支援が行き渡るようなプロジェクトをやっています。インドではすでに「子どもにやさしい村」プロジェクトをやっていて、ガーナも調査を受けてこれからどうやっていくかというところです。またインドではコットン産業の調査も去年、今年と続けていて、これからプロジェクトを立ち上げるところです。ガーナやインドのコットン産業というのが現地の改善だけでなくて、全体の仕組みに対してもアドボカシーという提言から何かできればいいなと考えています。(文責 編集部)