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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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平和人権/中東

平和人権/中東2013/04/19

アフガニスタンの人びとに寄り添う


アフガニスタンの人びとに寄り添う‐外国軍撤退期限が迫る現地から‐

日本国際ボランティアセンター(JVC)アフガニスタン事業統括 小野山亮

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村の女性たちが健康について学ぶ「母親教室」の様子

 

 この原稿を読んでいただいている皆さまの中でも「アフガニスタンは戦争が続いている国」という漠然とした印象を持っている方が多いのではないでしょうか。しかし、その中で起こっている変化について詳しくご存知の方はそう多くないのではないかと思います。現在、長引く外国軍駐留へのアフガニスタン国内での反発、派遣する側の欧米諸国が抱える経済不況の問題などから、2014年末までには外国軍が完全撤退することになっており、アフガニスタンは転換点を迎えているといえます。

 外国軍撤退に向けて治安権限がアフガニスタン自身の国軍・警察に移譲されていますが、限られた短い期間で急速に組織や装備を整えるのは大変困難な仕事です。こうした事情から、地域の住民に武器を渡し、一定の自衛を担ってもらうための「地方警察」と呼ばれる制度が実施されていますが、雇用過程や任務などが明確でなく、犯罪者や武装解除されたばかりの旧武装集団構成員が雇用されたり、地方の有力者が自らの勢力拡大などもねらって要員を送り込んだりするなどの状況、またこれら「地方警察」による犯罪行為の例も報告されています。過去の軍閥割拠の状況の再現を懸念する人もいます。日本政府も武装解除に多くの資金を投じてきましたが、こうした努力を全く無にすることにもなりかねません。また、こうした治安機構の脆弱さを狙ってタリバンによる攻勢がかけられるのではという声も聞かれます。また、外国軍撤退や欧米諸国の経済不況とともに、国際社会の関心や支援も減り、アフガニスタンは見捨てられるのではないかとの不安を募らせる人もいます。(旧)ソ連が去った後の国際社会の無関心、内戦、国土の荒廃に重ね合わせる人もいます。

人びとの暮らし

アフガニスタン

「保健委員会」委員である長老たちが村の井戸を管理する。

長く続く戦争のため、人びとの暮らしは引き続き厳しい状況にあることは変わりません。私たちの活動分野である医療保健や教育を例にとります。過酷な自然環境と未成熟な医療事情(医療施設・医学知識)が原因で、健康状況は世界で最も深刻なレベルです。5歳児未満の死亡率は6.7人に1人。平均寿命は48歳でしかありません。インフラの未整備により、安全な水を確保できているのは、おおよそ人口の半分のみです。そのため、多くの人が慢性的な下痢の症状にあり、また手を洗うなどの基本的な衛生管理の知識が広まっていません。学校教育システムの構築も遅れ、識字率(15歳以上)も26%(男性39%、女性12%)と非常に低くなっています。90年代後半のタリバン政権時代には女性は教育受けることが禁じられたこともあり、男女間でも教育レベルの差は大きくなっています。現在、国際社会からの支援で学校の建設が進められていますが、教師の不足や児童労働などの問題もあり、誰もが教育を受けられる環境は整っていません。

転換点にあるアフガニスタン

 今後、治安、暮らしともに、厳しい状況がさらに悪化する可能性もある中、アフガニスタンに寄り添って人びとの暮らしを支えることは、実際の必要性もさることながら、見捨てられるのではないかという不安が呼び起こされないようにする意味でも重要です。

 当団体が活動を行う東部ナンガルハル県でも、特に農村部の医療事情は悪くなっている。こうした事情から当団体はシェワ郡ゴレーク地域(人口約21,000人)にて2つの診療所運営を行い、また不足する医療サービスの問題を地域による保健医療の取り組みによって解決すべく、住民とともに地域の保健活動に取り組んでいます。そのために、診療所や学校での健康教育、村の女性を対象とした「母親教室」、地域保健の中心となる「地域保健員」や産婆さんの研修と支援、地域の保健活動を実施するための住民の指導者からなる「保健委員会」設置の働きかけなどを行ってきました。さらに家族単位のカルテを導入し、家族や地域ごとの病気の傾向把握と総合的な対策の実施を行うなど、診療所と住民との連携を図っています。教育の分野では、健康教育のほか、教員に向けた指導法の研修を行い、その後は教師同士が教授法の学び合う「授業研究」を実施しています。

 また人びとの声を伝えるための提言活動として、外国軍の攻撃により診療所や学校などが被害を受けた際の問題提起や被害者支援の調整活動を実施してきました。また、昨年7月に開催された東京でのアフガニスタン復興会合(日本・アフガニスタン政府主催)では、アフガニスタンと日本の市民社会とで連携しながら会議への参加や提言を行ったほか、日本政府の(アフガニスタン)国別援助方針(案)に対する要望書の作成、現在進んでいるアフガン市民社会を日本・アフガン両市民社会で支援する仕組みづくりにおいても中心的な役割を果たしました。

 外国軍撤退期限が迫り転換点を迎えているアフガニスタンにおいて、当団体では今後とも、人びとに寄り添いながら活動を進めていきます。