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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2025/07/01

【7月】あれは正義だったのか


ピースあいちの常設展示

 アメリカのトランプ大統領が、6月末に実施したイランへの攻撃について、「広島・長崎の例は使いたくないが、本質的には同じだ」「あの一撃で戦争は終わった」と発言しました。
 「原爆投下は正義だった。それにより戦争は終結し、米国日本ともにそれ以上の犠牲を出さずにすんだ」という理解は現在でもアメリカの一部には根強く残っているようです。
 その顕著な例が、ワシントン州のリッチランドです。第二次世界大戦中に行われていた原爆の製造を目的にしたマンハッタン計画で、プルトニウムの生産拠点となったハンフォードはワシントン州南部に位置します。そこで働く労働者家族の居住用に作られたのがリッチランド。終戦後も、冷戦期の核兵器開発競争とともに発展しました。原爆は町の誇りであり、その象徴として町の高校の校章にはキノコ雲が採用されています。
 しかし一方で、昨年に公開されたドキュメンタリー映画『リッチランド』では、ハンフォードが放射線物質により汚染をされており、健康被害に悩む住民が登場します。「(汚染されているので)川の魚は食べない」と笑う夫婦。父親が被曝の影響で亡くなり「信じる相手を間違えた」と涙する女性。そして、ハンフォード建設によって土地を奪われた先住民族たちの今。汚染と被害を訴えたくても、コミュニティーの中では声を挙げることができずにいる人たちの声が聞こえてきます。
 爆弾投下によって戦争を終えることができる。これは正義なのでしょうか。爆弾投下が奪ったものは、多くの命であり、町そのものであり、環境であり、そして尊厳です。日々を生きることに精一杯の人々は、必ずしも戦争反対の声をあげてきたわけではないかもしれません。しかし、それは投下を是とすることではないと思います。
 今年で戦後80年を迎えます。いまだに第二次世界大戦については様々な論争がでてきます。そのような中、名古屋にある戦争と平和の資料館「ピースあいち」に足を運んでみませんか。市民により開設運営されている資料館で、そのホームページにはこうお誘いがあります。「あの戦争のことを次世代に伝えて、平和のために役立てたいという強い思いで結ばれた人たちが集まっています」展示物は、市民から寄贈されたものや、市民が経験し、残したいと思うものたち。それらからの声にならない声に耳を傾けてください。(アーユス)