エンゲイジドブッディズム
エンゲイジドブッディズム2025/06/03ツイート
【6月】確信の落とし穴
映画『教皇選挙』が3月20日の公開以来ロングラン。現実世界でフランシスコ・ローマ教皇が4月21日に急逝し、教皇選挙〈コンクラーベ〉が実施されたことが映画のヒットに影響し、観客動員数も二倍になったといいます。現実世界での教皇選挙は、格差問題や環境保護へ積極的に発言をしたフランシスコの後継に、初のアメリカ出身のプレポスト枢機卿が選出されました。これからの動向が注目されます。
一方映画の方も、保守派と改革派の路線争いをはじめ、枢機卿(最高聖職者)たちの様々な野心や思惑や工作や願いが交錯します。それにより票の動きは二転三転。予測不能な第一級のミステリー作品となっています。
カトリックの最高指導者であるローマ教皇は、世界各国から集まった枢機卿100人余りによる選挙で、自分たちの中から選出されます。異なる国や地域で活動している枢機卿たちは、言語も文化も政治的志向もさまざまです。伝統を重んじるカトリックも、すでに多様性の上に成立しているのです。しかしそれをよしとしない枢機卿も少なくありません。
映画では選挙に先立って、選挙の仕切り役となったローレンス枢機卿が枢機卿たちへの説教をします。
「現在、重要なのは多様性への寛容です。多様性こそが、教会を強くするのです」「多様性を妨げるのは『確信』です。私たちが最も警戒しなければならない敵は自らへの『確信』です。私たちは自分自身の正しさを不安に思うからこそ信仰が存在するのです。私は今回の選挙で、『疑念』を持ち続ける教皇を求めます」
この言葉は宗教の本質を言い当てています。しばしば宗教は「確信」による強さと喜びを提供するものと思われがちですが、そこでの「確信」は「思い込み」にすぎません。それは危険です。宗教における救いとは、思い込みから離れることだとカトリックも仏教も説いているのです。
映画では、「ジェンダー」を巡る問題が、教皇選挙のひとつのキーワードとなって物語が進行します。透明化されたジェンダーを可視化させていくことが、映画のストーリーだけでなく、これからのカトリックを前に進ませる。でも変革にはかなりの覚悟が求められます。映画の中でも、枢機卿たちが自分たちを「どこまでも理想を追い求め続ける存在であるべき」との認識を持ちながら、現実を前に激しく動揺する場面があります。その認識は、宗教者はもちろんNGOのように、社会をよりよくしようと活動する者にとってもまさにその通りです。同時に、覚悟を問い続けています。(アーユス)