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特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2025/02/25

【2月】イノシシとの共生から考える


 気候変動の影響でしょうか、ここ数年、住宅地での獣害が多く報じられるようになりました。東京近郊の八王子でも、住宅地に猿やシカ、アライグマの出没により庭が荒らされることが多くなっています。害獣は「駆除」の対象であり、専門業者による捕獲が対応策ですが、数の増加に伴い、年々追いつかなくなっている実情があります。
 神奈川県大磯町も、10年前はイノシシ天国と呼ばれていました。農家の方たちの畑や、都心からセカンドライフを楽しみに移転してきた人たちの庭がイノシシに掘り起こされるような害に悩まされていたのです。
 当初はワナを設置するなど「排除」の対策をしましたが、被害は減りません。そこで住民はイノシシの生態から学ぶこととし、イノシシ出没は「エサと隠れる場所があるから」と知ります。そしてその両方を作っていたのが自分たちだったと。
 手入れをされなくなった田畑で収穫されずに放置された農作物がイノシシのエサになり、生い茂った草がイノシシの安心場になっていたのです。それから住民たちは自ら呼びかけて、耕作放棄地の刈り払いを始めます。当初は「イノシシ出没防止」とした目的は「美しい里山を取り戻そう」に変えました。イノシシ被害にあった人だけではなく、広く関心を持ってもらうために。
 そして10年、イノシシのワナの捕獲数は2016年には年間15頭だったのが、20年以降はほぼ0と激減しています。活動の中心となった方は「僕らの望みはイノシシの絶滅ではなく共生だもんね」と笑います。
 この例は多くのことを教えています。自らの生活圏を侵す者に対しては、まず排除や駆除を考えてしまうのが私たちです。しかしそれが発生している理由まで眼を向けなければ、同じような事態は繰り返されるばかりという経験はどなたもお持ちなのではないでしょうか。条件反射的な対応を取るのは一旦置いて、その原因にまで思いを及ばせる方が結果的には効果的なのだと思います。相手が動物ではなく人間や国の場合はなおさら。
 NGOの活動に触れた時に、なんであんな難しい国で、あんな人たちを相手に活動するんだろう。寄付金はきちんと使われるのか?などとまず不審が先に出る方は少なくありません。でも、「あんな」という理解はどれだけ正鵠を得ているか、一旦振り返っていただくことを望みます。「ともに生きる社会」を築くのは、単なる善意というより、実情の地道な見直しだったりもするのです。