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エンゲイジドブッディズム

エンゲイジドブッディズム2023/02/27

【2月】答を探すのではなく向き合い続ける…ネガティブケイパビリティ…


 今年に入ってから、「ネガティブ・ケイパビリティ」をテーマにした本が続いて出版されました。枝廣淳子さんの『答えを急がない勇気』(イースト・プレス)と谷川嘉浩さん他による『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(さくら舎)。両書によれば「ネガティブ・ケイパビリティ」とは「答えを急がない『勇気』」であり、「答えを急がず、立ち止まる『力』」を言います。
 「ケイパビリティ」とは「何かが出来る能力」です。現代社会において通常求められているのは「情報を収集する能力」「分析する能力」など「物事を処理する能力」「問題解決能力」です。「答えを出す能力」と言ってもいいかもしれません。これらは「ポジティブ・ケイパビリティ」と呼ばれ、特にビジネスの場面では重用されるものです。でもそれはどの場面、どの関係においても有効とは限らず、すぐに解決させようとしない方がいいことも世の中にはいっぱいあることも事実でしょう。答えを早く手にしたいのは私たちの本性です。タイムパフォーマンスを求める感情も同類でしょう。しかしそれはややもすると、陰謀論に嵌まったり、微妙な間や機微を放棄することにもつながりかねません。
 「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉が日本に広まるきっかけを作ったのは、7年前に出版された『ネガティブ・ケイパビリティ』という本でした。著者の帚木蓬生さんは医師として終末期医療の現場にあって、病の人、死を目前にした人、深い悲しみに陥った人たちと向き合う中で、それらの負の感情を合理的に解消するのではなく、共に戸惑っていく「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性を説かれたのでしたが、その後、新型コロナウイルスの蔓延やロシアのウクライナ侵攻など先が見えない事態が続く現在、「ネガティブ・ケイパビリティ」は、身近な場面で有効であると思われるのです。
 「すぐに解決させない」ことは、単なる先送りとは少し違います。「解決したことにしない」「分かったつもりにならない」「割り切らない」、つまり「関わり続ける」「考え続ける」ということです。答えを出さないのは不安で不快です。でも、それは課題へ誠実に向き合っている姿とも言えます。複雑なことと、複雑なままに向き合える。迷いつつ歩ける。それは今を生きるための大切な能力と思うのです。
 すぐに解決できないことであっても、すぐに答を見つけることが良しとされる現代において、不安をないことにするのではなく、向き合い続けること。そのことから、問題を生み出している複雑に絡み合った縁も見えてくるのではないでしょうか。(アーユス)