戦後81回目の今年に発刊された、特攻隊に関するレポートをとても興味深く読みました。『「ヒロポン」と「特攻」~女学生が包んだ「覚醒剤入りチョコレート」』。
戦時中に日本軍が採用した特攻作戦は、その特異性ゆえにそれに参加した兵士たちを崇める者もあれば、日本軍の不条理さの象徴と位置づけられもします。作戦において若き兵士たちは粛々と従ったわけではなく、精神を昂揚させて恐怖を紛らすために覚醒剤が使用されていたことはいくつかの作品で指摘されてきたことですが、大きく注目されることはなく、まとめた研究はまだありませんでした。大阪の元教員・相可文代さんは、自分が勤めていた学校で、戦時中に学徒勤労動員によって覚醒剤入りチョコレートを包装する仕事を生徒にさせていたことを知ります。その当事者・梅田和子さんの証言を手始めに調査を進めたのでした。
覚醒剤入りチョコレートは当初は、特攻隊員のためではなく、航空兵たちが気圧や気温の変化によって起きる航空病の軽減のために「機能性食品」として開発されました。その後に覚醒剤は酒、錠剤、注射により兵士たちに与えられ、戦後も長くその後遺症に苦しんだ元兵士の証言もあります。広く使用されていたことは伺えるのですが、それがこれまで看過されてきたのは、兵士へ覚醒剤が使われていたことへの後ろめたさがあったと想像されます。
相可さんは、勤めていた学校にかつて通っていた女学生と対話をすることにより、足元が歴史につながっていることを実感したのです。そこから、歴史の1ページで収まっていた「特攻」がリアルに立ち上がってきました。知識のひとつに過ぎなかった歴史のひとつひとつのエピソードが、あるいは海外から伝わる事例が、今のこの私と無関係ではなく地続きだったとの気づきを得られた時、エピソードや事例はいのちを得て動き出すのでしょう。それはそれで厄介かもしれませんが。豊かさというのはそういう厄介の別名のような気がします。(アーユス)